1 迷惑な隣人による売主の瑕疵担保責任(総論)
2 当事者と土地の売買契約締結
3 隣人との話し合いと脅迫の状況
4 買主の畏怖と建築断念
5 買主の提訴と請求内容
6 裁判所の判断
7 賠償する損害の算定

1 迷惑な隣人による売主の瑕疵担保責任(総論)

不動産売買において,近隣住民の事情が問題となることがあります。
詳しくはこちら|不動産売買後の特殊な近隣住民の発覚によるトラブル(まとめ)
本記事では,隣家に強烈な脅迫的な暴言で建物の建築を妨害する住民が存在したケースを紹介します。
最終的に,売主に,瑕疵担保責任としての損害賠償責任を認めています。

2 当事者と土地の売買契約締結

問題となった契約は,建物建築用の敷地(土地)の売買契約です。

<当事者と土地の売買契約締結>

あ 当事者

売主A
買主B

い 土地の売買契約締結

土地の売買契約が締結された
売買代金=5170万円
近隣住民に関する問題は説明されていなかった

う 建物の建築請負契約締結

Bは会社Cに建物の建築工事を発注した
BとCの代表者Dは一緒に,近隣に挨拶回りをした

3 隣人との話し合いと脅迫の状況

売買契約を締結し,土地の引渡を受けた後,買主は問題となった隣人と話し合いをはじめました。
そこで隣人から強烈な脅迫を受けることになりました。

<隣人との話し合いと脅迫の状況>

あ 隣人からの接触スタート

隣家の住人Eはその日の夜,Dに電話した
Eは脅迫的な口調で『い』のように話した

い 脅迫的セリフ

事前に施工者として,図面を持って説明に来るのが筋だろう
明日の午前9時30分までに来い

う 建築予定建物の説明

BとDは2回E宅を訪れた
建築確認を受けた建物の設計図面を示して説明した
木造2階建て,建築面積54.7平方メートル,高さ7.289mの建物

え 隣人の怒りと脅迫

Eは,日影がA宅の建物の縁側に届くなどとして怒った
EはBに対して『ばか野郎』などと繰り返し怒鳴りつけた
Eは『お』のような脅迫的で威圧的な暴言を並べ立てた
Eは設計変更を強く迫った

お 脅迫的・威圧的な暴言内容

法律も区の判断もどうでもいい
自分の家の縁側に影がかからないことがすべてだ
この図面はインチキだろう
俺をだまそうとしているのだろう
若い奴らが動くぞ
俺は有名な右翼だ
俺はおまえのようなやつを殺したことがある
こんな家を建てさせてやらない
これでは絶対許さない
建築士の馬鹿野郎,何もわかっていない
俺の家に影がかかるのは許さない

4 買主の畏怖と建築断念

当然,買主は非常に恐れて,建物の建築を断念しました。

<買主の畏怖と建築断念>

あ 情報収集

Bは,警察署,近隣住民,建築会社などからEに関する情報を入手した
Bは『い』のように考えて畏怖した

い 買主の畏怖の内容

Eが暴力団関係者である可能性がある
Eの意向を無視して建物の建築を強行すれば,Eやその意を受けた者から,どのような危害を加えられるかも知れない

う 建物建築の断念

Bは,建物の建築を断念した
敷地部分は,その後も更地のままとなっている

5 買主の提訴と請求内容

売主は,このような極端に異常な隣人の存在を知っていたはずです。
実際に売主がこのような事情を買主に説明していれば,買主は購入するには至らなかったはずです。
そこで,買主は売主の責任を追及します。

<買主の提訴と請求内容>

あ 提訴

買主Bは売主Aを被告として提訴した

い 請求の内容

ア 説明義務違反(債務不履行)
解除・損害賠償請求
イ 瑕疵担保責任
解除・損害賠償請求

6 裁判所の判断

まず,説明義務違反については裁判所は否定しました。
一方,隣人の異常性は著しいので,誰でも嫌がる状況であると判断し,心理的な瑕疵であると認めました。
しかし,契約の目的を達することは可能であると判断し,売買契約の解除は否定しました。
その主な理由は,刑事告訴や民事的な法的手続をとれば解決できた可能性があるというものです。
裏を返すと,不動産を購入することに伴って負うリスクは大きいといえるでしょう。
とにかく,結論として裁判所は,瑕疵担保責任のうち損害賠償だけを認めました。

<裁判所の判断>

あ 説明義務違反(否定)

売主Aは瑕疵(い)の存在を積極的に買主Bに告知する義務を負わない
説明義務違反の債務不履行はない

い 心理的瑕疵(肯定・※1)

脅迫的言辞をもって建物建築を妨害する者が隣地に居住している
一般人に共通の重大な心理的欠陥があるといえる

う 目的達成の可否(否定)

ア 法的手続による紛争解決の可能性
Eとのトラブルの解決の選択肢として次のようなものが考えられる
・刑事手続
・民事的な保全処分
・民暴対応に慣れた弁護士による任意の交渉や調停などの手続
イ 譲歩による紛争解決の可能性
Eの居住建物に影がかからなければ敷建物建築は可能である
予定を変更してそのような建物を建築することは可能である
ウ まとめ
この瑕疵により売買契約の目的を達することができないとはいえない
→瑕疵担保責任としての解除は認めない

え 瑕疵担保責任としての損害賠償

瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を認める

7 賠償する損害の算定

賠償額の算定では,土地の評価の減額分を計算しました。
購入価格の15%が下がったと判断したのです。
この値下がり分の金額が賠償額となりました。

<賠償する損害の算定>

あ 差額説

損害額の算定について
心理的瑕疵(前記※1)が存在することによる減価相当額とする

い 減価率

瑕疵の存在による宅地の減価率について
→15%である

う 賠償額

売買代金の15%
=775万5000円
売主Aに,この金額の賠償責任を認めた
※東京高裁平成20年5月29日
(原審=東京地裁平成19年12月25日)