【行政施策変更による自治体の不法行為責任(裁判例)】
1 行政差策変更による自治体の不法行為責任(概要)
2 行政施策変更の自由(基本)
3 行政施策変更の自由の例外
4 企業誘致施策の変更と村の責任(肯定判例)
1 行政差策変更による自治体の不法行為責任(概要)
行政の施策が変更することはよくあります。
これ自体は問題ではありませんが,特殊な事情があると,これにより特定の者が裏切られる状況になります。
施策変更によって,自治体に不法行為による損害賠償責任が認められたケースがあります。
民間における契約を破棄した責任と同様のものだといえます。
詳しくはこちら|交渉序盤において交渉を破棄した責任
本記事では,この事例の最高裁判例を紹介します。
2 行政施策変更の自由(基本)
まず,一般論として,行政施策の変更は自由です。
むしろ,状況に応じて常に施策を調整し最適化することは望ましいことです。
<行政施策変更の自由(基本)>
あ 原則
行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合
→施策が社会情勢の変動に伴って変更されることがある
行政主体は原則として過去の決定に拘束されない
い 例外
特殊事情がある場合
→施策変更に伴い行政主体の責任が生じることがある(後記※1)
※最高裁昭和56年1月27日
3 行政施策変更の自由の例外
行政施策の変更により,特定の者の期待を裏切ることもあります。
個別的な状況によっては,施策変更の自由は制限されます。
<行政施策変更の自由の例外(※2)>
あ 基本的事項
特殊事情(い)がある場合
→行政主体による施策変更は違法となる
→不法行為責任(損害賠償責任)が生じる
い 特殊事情(要件)
『ア〜ウ』のすべてに該当する
ア 純粋な施策・計画を超える
単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらない
イ 具体的勧告・勧誘
次の内容の個別的・具体的な勧告or勧誘を伴う
内容=特定の者Aに対して施策に適合する特定内容の活動をすることを促す
ウ 長期間の継続が必須
その活動が相当期間にわたる施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金or労力に相応する効果を生じうる性質のものである
う 信頼の保護
『い』に該当する場合
→Aは,施策が活動の基盤として維持されるものと信頼する
Aは,施策を前提として活動or準備活動に入るのが通常である
この信頼に対して法的保護が与えられなければならない
え 責任
施策が変更されることによって
Aが所期の活動を妨げられ,積極的損害を被る場合
行政主体が補償なく施策を変更することについて
→原則として違法性である
地方公共団体の不法行為責任が生じる
※最高裁昭和56年1月27日
4 企業誘致施策の変更と村の責任(肯定判例)
企業誘致施策の変更をした村の責任が認められた実例があります。
最高裁判例における責任の判断を紹介します。
<企業誘致施策の変更と村の責任(肯定判例)>
あ 前村長の協力体制
村として企業誘致施策を決定し遂行することになった
前村長は,Aに対し工場建設に全面的に協力することを言明した
村議会の賛成を得ていた
前村長は在任中,終始一貫して工場の建設を促し,積極的に協力していた
い 施策に応じた工場建設
Aは工場の建設・操業開始について村の協力を得られるものと信じた
Aは工場敷地の確保・整備,機械設備の発注などを行った
う 施策変更
約2年後に前村長が退任した
別の村長が就任した
村として企業誘致施策を変更(撤回)した
え 損失の発生
工場の建設は,着手したばかりの段階で不可能となった
Aには多額の積極的損害が生じた
お 裁判所の判断
村は補償などの措置を講じなかった
→Aによる損害賠償請求は正当であり認められる
※最高裁昭和56年1月27日