1 仮差押後の競売と法定地上権の判断基準
2 競売手続の種類との関係(補足説明)
3 仮差押後の競売と法定地上権(判例の事案)
4 仮差押後の競売と法定地上権(判例の理由)

1 仮差押後の競売と法定地上権の判断基準

差押・競売の際には,一定の条件で法定地上権が成立します。
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
本差押の前に仮差押がなされているケースでは,法定地上権の成立の判断が曖昧になることがありました。これについて,平成28年12月の最高裁判例で判断が統一されました。
まずは,結論である判断基準を整理します。

<仮差押後の競売と法定地上権の判断基準>

あ 前提事情

地上建物に対する仮差押えが本執行に移行して強制競売手続がされた
仮差押の時点で土地・建物の所有者が同一であった

い 結果

法定地上権が成立する
(本)差押の時点で土地が第三者に譲渡されていても同様である
※最高裁平成28年12月1日

2 競売手続の種類との関係(補足説明)

前記判例が前提としているのは債務名義に基づく差押と競売です。法定地上権については他の2種類の競売手続でも成立します。ただ,前記判例の解釈は,他の2種類の競売手続には適用される場面がありません。補足として説明を加えておきます。

<競売手続の種類との関係(補足説明)>

あ 債務名義による差押・競売

判例では債務名義による差押が前提となっている
民事執行法81条の法定地上権が適用された

い 他の種類の競売手続

他の2種類の競売手続について
内容=担保権実行・滞納処分
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件
→仮差押の制度自体がない
→前記判例と同様の解釈が使われる状況は生じない

3 仮差押後の競売と法定地上権(判例の事案)

上記の基準は抽象的で多少分かりにくいかもしれません。判例の元となっている事案の具体的な内容をまとめます。

<仮差押後の競売と法定地上権(判例の事案)>

あ 仮差押

建物に仮差押がなされた
この時点で土地・建物の所有者は同一人Aであった

い 土地の譲渡

土地がAからBに譲渡された

う 本差押・競売

仮差押えが本差押・執行に移行した
本差押の時点では土地はB・建物はAが所有していた
=土地・建物の所有者は別人であった

え 売却

強制競売手続において建物がCに売却された
土地はB・建物はCが所有する状態となった
※最高裁平成28年12月1日

4 仮差押後の競売と法定地上権(判例の理由)

前記の事案について,最高裁は法定地上権の成立を認めました。その解釈の根拠・理由について整理します。

<仮差押後の競売と法定地上権(判例の理由)>

あ 不都合性

建物の仮差押の時点で土地・建物が同一の所有者に属している
仮差押の時点では土地の使用権を設定することができない
その後,土地が第三者に譲渡された時に,建物について土地の使用権が設定されるとは限らない

い 土地利用権の必要性

建物の収去による社会経済上の損失を防止する必要がある

う 解釈論

法定地上権の制度趣旨に沿う
詳しくはこちら|法定地上権の制度趣旨(建物保護の理由=当事者意思や公益)
→法定地上権を適用する
※民事執行法81条
※最高裁平成28年12月1日