【セットバック・敷地後退|既存不適格×再築】
1 敷地後退|セットバック|基本
2 2種類のセットバック|道路斜線・敷地後退
3 既存の建物・塀→セットバック不要・適法扱い
4 既存不適格|趣旨・内容
5 既存不適格×再築|接道義務違反の例
6 セットバック|敷地境界の移動×道路拡張
7 長期間を要する道路拡張
1 敷地後退|セットバック|基本
『敷地』と『道路』との『接道』をクリアしても,もう1つ注意点があります。
接する道路の幅員が4メートル未満である時です。
<敷地後退|セットバック|基本(※1)>
あ 原則
道路中心線から2メートルの距離の線
→『道路・敷地の境界』とみなす
い ネーミング
建物の敷地を引き下げる状況となる
→『敷地後退・セットバック』と呼ぶ
う 例外
向かい側が崖・川・線路敷地などでセットバックできない場合
→例外的扱いとなる
※建築基準法42条2項
『2項道路』以外であれば,幅員が4メートル以上です。
そのため『セットバック』は生じません。
2 2種類のセットバック|道路斜線・敷地後退
『セットバック』には2種類があります。
間違えやすいので整理しておきます。
<2種類のセットバック|道路斜線・敷地後退>
あ 道路斜線×セットバック
建築基準法に『道路斜線』という規制がある
詳しくはこちら|建築確認|審査内容=建築基準法等の適合性|審査の流れ|建設主事・特定行政庁
このルールの中でも『セットバック』というものがある
い 2種類のセットバック
次の2つは別のものである
混同・誤解が多いので注意が必要である
ア 道路斜線におけるセットバック(上記『あ』)イ 2項道路のセットバック(上記※1)
※建築基準法42条2項
3 既存の建物・塀→セットバック不要・適法扱い
実際に存在する建物や塀で『2項道路の中心線から2メートル』の距離がない,というものも多いです。
道路と民家の間の塀が『でこぼこ』になっていて不便・危険,という風景になっていることもよくあります。
『道路』であるべき部分に,建物や塀が『越境』している状態とも言えます。
しかし,このような建物や塀を『撤去』する必要はありません。
『セットバック』は,『新規に建築・設置する場合』のルールなのです。
4 既存不適格|趣旨・内容
『セットバック未了の道路』につながる『建物』の問題もあります。
建物が『接道義務違反』の状態と言えます。
しかしルール制定前から存在する建物については『違反』扱いされません。
<既存不適格|趣旨・内容>
あ 原則論
ルールに違反している
→除却命令の対象となる
い 不合理性
ルールができる前に建物が存在していた
当時は『適法』であった
→ルール制定後に『違法だから解体する』のは不合理である
う 保護規定|既存不適格
ルール制定前から存在する建物
→現行法で『不適格』であっても『新規定を適用しない』
→『違法ではない』=『除却命令の対象ではない』
※建築基準法3条2項
詳しくはこちら|既存不適格建物の適用除外(建築基準法3条2項)
5 既存不適格×再築|接道義務違反の例
既存不適格は『形式的な違法』による不合理を回避する制度なのです。
しかし再築の時に『不合理』が現実化する,という問題があります。
接道義務違反の建物が典型例です。
不合理な状況をまとめます。
<既存不適格×再築|接道義務違反の例>
あ 典型例
接道義務のルールが設定される前から建物が存在していた
道路幅が2メートル未満である
現行法では『接道義務違反』の状態である
い 保護規定|既存不適格
建物は『違法』扱いにはならない
う 保護の不備
建物を再築する場合
→確認申請に対し『不適格』とされる
→再築できない
6 セットバック|敷地境界の移動×道路拡張
セットバックにより敷地境界の移動が生じます。
<セットバック|敷地境界の移動×道路拡張>
あ 敷地境界|規定
建築基準法上の『道路』と『敷地』の境界
→塀=擁壁の位置とされている
※建築基準法44条など
い セットバック部分×建築制限
セットバック部分は『道路』となる
=敷地境界が移動した・道路が『増えた』状態である
→建築制限などの適用対象となる
詳しくはこちら|建築基準法・『道路』|建築制限・管理・私道廃止
7 長期間を要する道路拡張
セットバックによって道路幅員4メートルが実現します。
しかし,非常に長期間を要するプロセスと言えます。
<長期間を要する道路拡張>
あ 道路が拡がるプロセス
2項道路に面した敷地の建物が再築・改築の際
→建物・塀の位置が『セットバック(後退)』する
=『道路が拡がった』状態である
い 長期間をかけた拡張
長期間をかけて『幅員4メートルの道』が実現する
本記事では,建築基準法のセットバックや敷地後退の制度(ルール)について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に建物の適法性に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。