1 債務者自身が入札することはできない
2 資金の出所が債務者自身の場合,他人名義を借りても禁止される
3 保証人の入札は禁止されない
4 入札禁止のまとめ

1 債務者自身が入札することはできない

<事例設定>

住宅ローンが払えなくなった
銀行が競売をかけてきた
その後,何とか資金をかき集めたが,全額返済はできない状態にある
入札して落札を狙うということはできないか

(1)債務全額の返済はできないが,落札は狙える状態が生じる

債務者の資金が債務の全額には足りないが,一定額で入札はできるという状態になることもあります。
実際に,競売において,債務額未満で落札されるケースは多くあります。
いわゆるオーバーローンです。

(2)債務者自身の入札は本来全額返済する性質と矛盾する→禁止される

しかし,債務者自身は,本来全額を返済するべき立場にあります。
全額には満たない金額の提供だけで,競売による他人への売却を逃れる,というのは不合理です。
そこで,債務者自身による入札は禁じられています(民事執行法68条)。

(3)債務者の落札売却不許可となる

仮に,入札し,最高価格であったとしても,売却不許可となります(民事執行法71条2号)。
買い受ける資格がない,ということになります。

2 資金の出所が債務者自身の場合,他人名義を借りても禁止される

<発想>

住宅ローンが払えなくなったので競売にかけられてしまった
私自身が入札したいが,できないので困っている
資金を友人に渡して,友人の名前で入札してもらうのはどうか

まず,債務者自身による入札は禁止となっています(民事執行法68条)。
そこで,いわばダミーの名義貸しとして,別人が入札する方法も考え付きます。
しかし,これも禁止されています。
『買い受ける資格を有しない者の計算』による入札として,売却不許可事由とされているのです(民事執行法71条3号)。
つまり,実際の資金の出所債務者自身であれば,仮に他の人経由で入札しても禁止される,ということです。

3 保証人の入札は禁止されない

<事例設定>

友人が住宅ローンを受ける際,私が保証人になった
友人が住宅ローンを払えなくなり,友人宅が競売にかけられている
私が入札することはできないのか

(1)保証人の入札債務者の入札禁止の趣旨が妥当する

民事執行法68条において債務者による入札は禁じられています。
趣旨は,本来全額を返済すべきというところにあります。
これを考えると,(連帯)保証人も全額の返済義務を負っていることに変わりはありません。
そこで,『債務者』の一環として,入札が禁止されるという解釈も成り立ちます。

(2)保証人の入札は禁止の対象外と解釈されている

しかし,裁判例では,この解釈は取られず,民事執行法68条の債務者には保証人は含まれない,と判断しています。
※東京高裁昭和59年6月13日

入札の禁止は最小限にとどめる,つまり『禁止』の拡大解釈を否定する,という考え方です。
結局,保証人の入札は可能です。
ただし,競売の結果,債権者(金融機関)が全額の回収ができず,一部の債務が残った場合,保証人は当然,返済義務を負ったままになります。

4 入札禁止のまとめ

以上の入札禁止についての該当性をまとめておきます。

<入札が禁止される者のまとめ>

主体 可否(☓=禁止)
債務者
債務者の資金で別人名義
物上保証人
(人的)保証人