【建物建築の瑕疵・トラブル|工事の遅れ→全部or一部解除|損害の内容】
1 建物売買・建築トラブルの典型例|施工不良・違法建築・工事の『遅れ』
2 建物完成後の『建物自体』の欠陥・建築制限は損害賠償請求で対応する
3 建物建築工事中|工事の遅れ→『履行遅滞→解除』ができる
4 建物建築工事中|工事の遅れ→損害内容|仮の居住費用・想定された収益など
5 建物建築工事中|工事の遅れ→『履行済』部分は解除できない|原則
6 建物建築工事の『一部解除』→『履行済部分』は返還請求できない
7 建物建築工事中|工事の遅れ→『全部解除』ができることもある|例外
8 建物建築工事の『全部解除』→『全額返還』+『原状回復』
9 『仕様変更』の『増加費用』の負担|『追加費用の合意』が不明確→追加なし
1 建物売買・建築トラブルの典型例|施工不良・違法建築・工事の『遅れ』
建物の売買や建築で,建物の欠陥・不備が問題となり法的責任につながることは多いです。
逆に,購入前に注意・確認すべきだったもの,と言えます。
まずは『建物自体の物理的な欠陥』でよくあるものをまとめます。
<建物の欠陥・瑕疵|典型例>
ア 雨漏りイ シロアリの害ウ 建物構造上主要な部位の木部の腐蝕エ 給排水設備の故障オ 建築予定・設計と現状の食い違い 例;給排水設備・配管・PSの位置
このように,水の配管や木部に関わるものが多いです。
次に,『建築制限』に関するトラブルも深刻な問題です。
<建物の建築制限に関する『想定外』|例>
ア 購入後に『違法建築→建物増築不可』が発覚した
『検査済証』を得ていないなど
詳しくはこちら|違法建築→検査済証なし→増改築・用途変更・ローンNG|規制緩和方針
イ 購入後に『接道義務違反→建物再築不可』が発覚した
『建築制限付』なのにそのような説明がなされなかったケースなど
ウ 購入後に『耐震強度不足→大規模工事が必要』と発覚した
エ 購入後に『アスベスト使用あり→撤去が必要』と発覚した
さらに『建築工事中』についてもトラブルが生じることがとても多いです。
<建築工事の進行に関するトラブル|例>
ア 工事の進行の『遅れ』イ 建物完成時期の『遅れ』ウ 『仕様変更』の『増加費用』の負担
2 建物完成後の『建物自体』の欠陥・建築制限は損害賠償請求で対応する
建物完成後に建物の欠陥が発覚した場合の法律的な対応は主に瑕疵担保責任です。
損害賠償請求や『修補請求』です。
消滅時効などの制限がちょっと複雑です。
場合によっては不法行為責任としての損害賠償を請求した方が有利ということもあります。
これらの責任の種類による違いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の建築工事の欠陥・瑕疵についての法的責任の種類
3 建物建築工事中|工事の遅れ→『履行遅滞→解除』ができる
建物の建築請負においては『工事中』のトラブルがとても多いです。
『予定よりも工事(工期)が遅れている』というものがよくあります。
当然『請負人』の責任が認められれば損害賠償義務が生じます。
まずは責任の判断についてまとめます。
<工事(工期)遅れの責任の有無>
あ 当初の予定の『工期』が特定していたか
契約書上は『予定』としてあるのが通常
→口頭の説明を含めて『どのていどの変動可能性』が予定されていたか
い 『工期』が遅れることが許されない事情
『遅らせられない事情』が当事者の共通認識になっていたか
例;建物完成後のイベント開催や入居者の予定など
4 建物建築工事中|工事の遅れ→損害内容|仮の居住費用・想定された収益など
工事の遅れが『請負人の責任』であった場合に賠償すべき『損害』をまとめました。
<工事(工期)遅れによる損害|例>
あ 臨時で用意した居住場所
ウィークリーマンション・ホテルなどの宿泊費用
い 施主が負担することとなった違約金
例;完成後の建物のイベントが開催不能になったことによる違約金
う 想定された『収益』
例;完成後の建物での営業収入・賃貸収入(のうち利益)
5 建物建築工事中|工事の遅れ→『履行済』部分は解除できない|原則
建物建築工事が遅れている場合『解除』して,別の業者に建築を依頼することが考えられます。
ここで,既に進行中となっている工事の解除の『範囲』が問題となります。
<建物建築請負|工事の遅れ→解除の範囲|原則>
あ 『原則』扱いの前提
工事の内容が『可分』である
かつ,既施工部分の給付に関し利益を有する場合
い 解除の範囲
『履行済部分』は解除できない
=未履行(未施工)部分のみ解除できる
※最高裁昭和56年2月17日
原則的に『施工済部分』は解除できない,ということになっているのです。
これを『一部解除』と言います。
6 建物建築工事の『一部解除』→『履行済部分』は返還請求できない
『一部解除』の場合,清算もこれに応じたものになります。
<一部解除→清算処理>
『履行済(既施工)部分=出来高』に応じた報酬請求権がある
※通説
※『判例から学ぶ民事事実認定』有斐閣p184
※最高裁昭和56年2月17日も同趣旨と思われる
現実的には,工事を『次の業者に引き継ぐ』ことになります。
実際には既施工部分の確認など『2重業務』が生じます。
費用も『重複部分』の分だけトータルで『高く』なります。
そこで『出来高部分の報酬請求権』の算定では『2重業務部分』を控除する考え方が有力です。
なお『一部解除』の場合,経済面以外でも不都合があります。
『続きを受注する別業者』が見つかりにくい,という傾向があるのです。
仮に『引き継ぎ工事→完成』となった後に『瑕疵』が発覚した場合を心配するのです。
つまり『引き継ぎ業者』としては『前任業者のミス』の分までも責任を引き受けるリスクがあるのです。
7 建物建築工事中|工事の遅れ→『全部解除』ができることもある|例外
施主としては『一部解除』よりも『全部解除』の方が望ましいと言えます(前述)。
『既に工事中』という場合でも,例外的に『全部解除』が認められることもあります。
<建物建築請負|工事の遅れ→解除の範囲|例外>
あ 『例外』となる前提
『全部の給付がなければ契約の目的を達することができない』場合
→『履行済の部分』を含む契約全部を解除できる
い 例外が認められた具体事例|判例
工程進捗度20%→全部解除を認めた
※最高裁昭和52年12月23日
全部解除が認められる典型例としては『現実的に引き継ぎ業者が見つからない』というものもあります(前述)。
このような事情があれば『引き継ぎ工事が現実的ではない』ということになります。
その結果『全部の給付がなければ目的が達成しない』に該当するのです。
8 建物建築工事の『全部解除』→『全額返還』+『原状回復』
建築請負契約の全部解除が認められた場合の『後処理』をまとめます。
<全部解除→清算処理>
請負人は既払いの請負代金は全額を返還する
請負人は履行済(既施工)部分の原状回復を行う
※民法545条1項
当然ですが『オール白紙状態』とでもいう状態になります。
9 『仕様変更』の『増加費用』の負担|『追加費用の合意』が不明確→追加なし
実際の建物建築の現状として『契約書どおりに終わる』という単純なことは少ないです。
工事進行中に施主・請負人で打ち合わせ・協議・希望の伝達などが行なわれます。
当初の見積もり・算定金額よりも,結果的に『費用が増加した』ということがよくあります。
ここで施主としては『増加額に納得しない』ということが非常によく生じています。
施主が追加費用を負担するかどうか,の判断をまとめました。
<『仕様変更』の『増加費用』の負担>
あ 原則論
『追加費用を施主が負担する』という合意がある場合
→施主が追加費用を負担する
い 不明確である場合の判断
『追加費用負担の合意』がハッキリしない
→施主負担とはならない,という傾向が強い
特に法律上の規定がないので『施主が納得(合意)』したかどうか,で決まるのです。
不明確な場合は,請負人側の『プロとしての説明責任』が重視されます。
その結果『追加費用を施主は負担しない』という方向性の判断になります。
『仕様変更』『費用の合意』についてはしっかりと意思確認をして共通認識にしておくべきです。
個々の内容を『契約書』にする必要はありませんが,最低限メモ・メール程度でも記録化しておくと良いでしょう。
証拠になる,という以前に『認識のズレ』を防ぐという効果の方が重要です。