山火事を起こして森林が焼けてしまった場合はどのような責任が生じますか。

1 山火事の損害賠償は重過失の場合のみに認められる;失火責任法
2 重過失とは,極めて容易に結果を予見できたという意味である
3 過失による山火事森林法違反となり,法定刑は罰金50万円以下である
4 条文,判例

1 山火事の損害賠償は重過失の場合のみに認められる;失火責任法

<事例設定>

燃え残った『炭』を山に捨てた
気付いていなかったが,まだ『燃えて』いた
火が拡がり,山火事になった
山林が焼失し,また,鉄塔なども損壊した
有料道路が数時間閉鎖となった

山火事により,一定の損害が認められます。

<本件の山火事による『損害』の内容>

ア 材木としての価値
イ 鉄塔を再度建造する費用
ウ 有料道路の収入減少
逸失利益と言います。

ここで,山火事を起こした者=『炭』を捨てた者,の賠償責任が考えられます。
通常であれば,故意,過失がある場合に,損害賠償責任が認められます(民法709条)。
しかし,失火については,重過失がある場合にだけ,責任が認められます(失火責任法)。
逆に,過失が軽い軽過失については,責任が生じないのです。
過失により火災が生じたという場合に,失火責任法が適用されます。
建物の火災だけではなく,山林の火災についても適用されるのです。
詳しくはこちら|火災による損害は責任軽減=重過失のみ責任発生|失火責任法

2 重過失とは,極めて容易に結果を予見できたという意味である

重過失については,最高裁の基準が用いられています。

重過失の意味>

通常要求される程度の注意すらしないでも、極めて容易に結果を予見できたにもかかわらず、これを漫然と見すごしたような場合を指す
※最高裁昭和32年7月9日;裁判例1の中で引用されている

このように重過失の判断においては,結果予見容易だったのか,容易ではなかったのか,が重要です。
評価を含む,ブレの大きい判断です。
この点,消防職員など,知識と技能のレベルが高い者について,2次火災の発生結果予見容易ではなかったと判断したケースがあります(裁判例1)。
いずれにしても,個別的な事情によって判断されることになります。

3 過失による山火事森林法違反となり,法定刑は罰金50万円以下である

過失により,森林の火災を生じさせた場合の刑事罰もあります(森林法203条1項)。
法定刑は50万円以下の罰金と規定されています。

これに関する裁判例を紹介しておきます。

<過失による森林火災による森林法違反の裁判例>

あ 裁判例2

『消火活動が功を奏しなかった→火災発生を抑えられなかった』

森林法違反が適用された

い 裁判例3

『2箇所での焚き火→森林火災』

2つの罪が成立し観念的競合となる
=重い罪で処罰する(刑法54条1項前段)

4 条文,判例

(1)条文

[民法]
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

[失火ノ責任ニ関スル法律;失火責任法]
民法第七百九条 ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

[森林法]
第二百三条  火を失して他人の森林を焼燬した者は、五十万円以下の罰金に処する。
 2  火を失して自己の森林を焼燬し、これによつて公共の危険を生じさせた者も前項と同様とする。

[刑法]
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条  一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
 2  第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。

(2)判例

(判例1)
[平成 8年12月27日 盛岡地裁 昭62(ワ)364号 山林火災損害賠償請求事件]
(五) そこで、次に重大な過失の有無について検討するに、右に重大な過失とは、通常要求される程度の注意すらしないでも、極めて容易に結果を予見できたにもかかわらず、これを漫然と見すごしたような場合を指すのであるから、結局はほとんど故意に等しいと評価されるべき著しい注意欠如の状態をいうものと解される(最高裁昭和三二年七月九日第三小法廷判決・民集一一巻七号一二〇三頁参照)。そして、本件では、消防職団員及び市長や助役兼消防長としてその消火活動等を総括しあるいはそれを補佐する立場にある者の過失が問われているのであるから、火災の予防、鎮火などを職務としこれに関する知識と技能を習得している者に求められる高度の注意義務を基準として、注意の著しい欠如があるかどうかを判断すべきである。
(略)
 以上検討したところによれば、被告Hらや被告市消防職団員において、本件一次火災の残火である地中火の再燃により二次火災が発生し、本件のような大規模な山林火災となって原告ら所有山林等まで罹災する結果を予見できなかったことは本件二次火災発生の経過から見てやむを得なかったということができる上、被告Hが災害対策本部長として、被告Sがその副本部長として、その指揮の下に被告市消防職団員が行った結果発生の回避措置である本件一次火災鎮火宣言後の消火活動及び警戒体制も、当時の状況に照らして必ずしも不適切なものではなく、被告H及び被告Sは、右消火活動及び警戒体制を予定し、前記二(四)認定の右鎮火宣言前後から災害対策本部廃止頃までの気象状況等を総合して、右鎮火宣言及び災害対策本部の廃止を行ったものであり、また、本件二次火災発生後に被告H及び被告Sが市長等として行った措置や被告市消防職団員の行った消火活動等にも特に結果発生の回避措置として不適切な点は認められないのであるから、それら鎮火宣言等や消火活動等の措置は、前記説示の専門職員に課せられる注意義務を基礎において判断しても、著しく注意を怠ったもので、ほとんど故意に等しいものは判断し難く、過失は認め得るとしても、それが重大な過失の程度に達しているとは到底認めることができない。

(裁判例2)
[昭和54年10月23日 大阪高裁 昭52(う)628号 森林法違反被告事件]
【判旨】
 被告人らは、和歌山県M郡K町(略)に所在する山林約0.8ヘクタールを共同で開墾して畑に造成することを計画し、昭和四五年一月一三日その開墾準備として、同山林に生育する雑木、ささ、しだ等の雑草等に対して山焼をしたのであるが、同地方は数十日来の晴天続きで付近山野の草木を始め地面の可燃物が著るしく乾燥し、山焼の火やその残り火が風にあおられて飛散して飛火し森林火災を起すおそれがあつたのであるから、山焼を行うにあたつては、草木等の燃焼した箇所及びその周辺に十分放水して残り火を完全に消火した上、これを確認し、もつて森林火災を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、同日午前九時ころから前記気象条件に拘わらず山焼を開始し、前記山林を三区画に分割し第一区画から順次火入れを行ない、同日午後三時ころ、第三区画の火入れの後、同所の燃焼した箇所の残り火の有無の点検・消火を十分に行わず、残り火を完全に消火せずに放置した過失により、同所の残り火の火の粉が折りからの北風にあおられて舞い上がり、保火のままで飛行し、同所の南側から約四、五〇メートル南方のYH所有の雑木林内(OH所有の雑木林との境界付近)に着地して飛火した結果、同日午後六時ころ、火災を発生させ、同所の東南に連なる別表記載のYT他九名所有の森林等合計約7.86ヘクタール(損害額合計約五五九万四、四八〇円相当)を焼燬したものである。
(略)
 本件の場合、被告人らは右火入許可をえたのち、万一に備え川辺町消防団員の応援を求め、山焼当日には消防団長以下三名の消防団員が山焼に応援参加して作業に従事したことは前認定のとおりであるばかりでなく、その実施については、事実上主として消防団長の指示に従つて消火撤水を行つたことが認められるけれども、これらの事実があつたからといつて、被告人らが本件山焼の実行主体でなくなるいわれはなく、よつて生じた失火の結果については、各人の過失の有無、程度等に応じた刑事責任を負担すべきは当然であつて、残り火の消火の打ち切りについて右消防団長の指示に従つたからといつて、本件過失責任を免れるものではない。所論は採りえない。

(裁判例3)
[昭和41年 2月17日 笠岡簡裁 昭40(ろ)11号 森林法違反被告事件]
   主  文
 被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。
(略)
 なお、被告人は上記芋畑の中央部寄りと、周辺部との二個所において、前記枯草に点火焚火をなし、その火をいずれも上記過失により延焼させたものである。
 (証拠の標目)〈省略〉
 さて、思うに、放火ないし失火の罪は(刑法上も、特別法たる森林法上も)、いうまでもなく、法理上いわゆる公共危険罪に属し、(故に講学上抽象的或は具体的=とくに構成要件とされるもの=各危険罪と称せられる)、従つて本件犯罪は、抽象的ないし観念的な公共危険罪と解せられ、主たる被害法益は、公衆の生命・身体・財産が包括的な保護法益だから、単一行為で、同種の罪責により、数個の客体を焼燬しても、単純一罪というべく(大判大正一二・一一・一五参照)、一個の行為で、異種の罪責により、数個の客体を焼燬すれば、包括一罪として、重い焼燬罪の一罪に吸収され(大判昭和九・一一・二四参照)るか、あるいは、包括一罪ではなくて、刑法第五四条第一項前段所定のいわゆる観念的競合として、重い罪で処罰すべきである(大判大正一二・八・二一参照)、というのが、判例の通則とされている。
 ところで、本件証拠を検討すると、証人FKの当公判廷でした供述並びに同人(司法警察員)作成に係る実況見分調書の記載に徴すれば、本件発火地点は二個所あることが明らかで、少くとも被告人の失火行為はこの二地点で、各別になされたことが、明確に肯認できるのである。
 そうすると、本件失火行為はもとより単一行為ではなく、このように各別に行われた失火行為により、生じた森林失火罪は、法理上当然に上述の公共的法益と、同時に半面では個人の財産的法益をも侵害する行為にほかならないのであるから、純理上はその犯罪個数は単一でなくて、数個だといわなければならない(大判大正七・三・一三参照)。
 しかしながら、これらの二個の行為は時と所を殆んど同じくしている限り、物理的には必ずしも身体的の一挙一動であることを要しないのであるから、刑法第五四条第一項前段の『一個の行為』に該当するものと、解するのが相当である
 そこで、本件を科刑上の一罪、すなわちいわゆる観念的競合として把握認定し、該当の法条を適用した次第である(後記法令適用の項参照)。
 ((もつとも、かかる科刑上の一罪とは、上述のように本来は数罪であるものを、科刑上一罪として一括処断するものであつて(最判昭和二三・五・二九参照)、これを本来の一罪とみる説は、当裁判所の左袒しないところである。だから、本件のように同種類の観念的競合は、これを果して観念的競合の一種と認めるべきか否かが、学説上は争われているが、判例はこれを認めている(大判大正六・一一・九参照)。けれども、仔細にこれを考察すれば、実質的には単純一罪とみることと、科刑上において殆んど何ら相違はないが、ただ形式的には考え得ることであるし、このように認めるのが論理に一貫性があり、正鵠である。それで、これを否定する学説は、包括一罪とみるわけで、もとより当裁判所の採用しない見解である。))