【遺産分割における特別受益の持戻し計算の方法(計算式・基準時)】

1 遺産分割における特別受益の持戻し計算の方法(計算式・基準時)

遺産分割では、単純に遺産(相続財産)法定相続分(割合)で分けることになります。この点、相続人の一部に被相続人からの生前贈与や遺言によって財産を受けた者がいる場合、この原則ルールどおりに進めると不公平になります。そこで、特別受益として計算上持ち戻す処理がなされます。
詳しくはこちら|相続・遺産分割における特別受益の総合ガイド(判断基準や計算方法など)
本記事では、特別受益の持戻しの計算方法の基本的事項を説明します。

2 特別受益による持戻し計算の基本

(1)持戻し計算の計算式(全体)

特別受益は、不公平となる生前贈与や相続による財産の移転を計算上持ち戻すものです。不公平な財産の移転分の金額を、実際の遺産に加算する、ということになります。その上で改めて相続分(割合)を出し直します。修正した相続分のことを、当該事案で使う相続分、という意味で、具体的相続分といいます。

持戻し計算の計算式(全体)

あ 持戻し

みなし相続財産
=相続財産+特別受益の内容

い 具体的相続分(全体)

具体的相続分(全体)
=みなし相続財産(あ)×各相続人の法定相続分

う 具体的相続分(特別受益控除後)

具体的相続分
=具体的相続分(い)−各相続人の受けた特別受益の内容

え 遺産分割

『う』の相続分を基準として
遺産分割により承継する具体的財産を決める

(2)特別受益の対象となる贈与や遺言による財産移転(概要)

特別受益に該当するものは一定の生前贈与と、遺言による財産移転(条文上は「遺贈」)です。この内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特別受益に該当するか否かの基本的な判断基準

3 特別受益(持戻し計算)における評価の基準時

(1)特別受益における評価の基準時(基本)→相続開始時(概要)

特別受益の計算では、前述のように、生前贈与や遺言によって移転した財産の価値を戻す(加算する)ことになります。この点、たとえば不動産の場合は、評価する時点によって価値(金額)が違ってきます。
これについては、相続開始の時点(被相続人が亡くなった時点)を基準にするのが実務の一般的扱いです。
詳しくはこちら|遺産分割における評価の基準時(遺産・特別受益・寄与分・死後認知の価額請求)(解釈整理ノート)

(2)特別受益における金銭(贈与金額)の評価→相続開始時

特別受益に該当する贈与や遺言により移転したものが金銭である場合も、基準時の考え方は同じです。相続開始時が基準時です。普通はこのことを意識しなくてもよいですが、遺産分割の協議や調停、審判に長期間を要して、その間に物価が大きく変動した場合にだけ計算し直す必要がある、ということになります。

特別受益における金銭(贈与金額)の評価→相続開始時

あ 生前贈与

贈与を受けた時の金額・評価額について
→相続開始時の貨幣価値に換算する
※最高裁昭和51年3月18日

い 換算方法

一般的に消費者物価指数(CPI)を用いる
総務省統計局が作成している
外部サイト|総務省統計局|消費者物価指数

(3)遺産分割における評価の基準時→遺産分割時(概要)

特別受益は、遺産分割の前処理という位置づけですが、メインの遺産分割では、財産(遺産)の評価の基準時は遺産分割時(成立時)です。結局、特別受益の主張がある場合は、2つの時点の評価が必要ということになります。もちろん、2つの時点が離れていなければ評価額は(ほぼ)同じなので意識しなくてもよいことになります。
詳しくはこちら|遺産分割における評価の基準時(遺産・特別受益・寄与分・死後認知の価額請求)(解釈整理ノート)

4 特別受益の計算の具体例(概要)

前記のように、特別受益の計算式だけをみても、実際の計算方法を理解しにくいです。そこで、具体例を用いた計算内容を、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特別受益の計算の具体例

5 遺留分における「持戻し計算」(参考)

相続に関する、特別受益とは別の制度として遺留分があります(実務では両方が主張されることも多いです)。遺留分の計算でも、特別受益の持戻し計算を行います。基本的に計算方法は同じですが、持戻し免除ができるかどうかの点では、遺留分と特別受益(遺産分割の前処理)では違いがあります。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)
詳しくはこちら|特別受益の持戻し免除の意思表示と遺留分との関係(基本・改正前後)

本記事では、遺産分割における特別受益の持戻し計算の方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に特別受益など、相続や遺産分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【寄与分の基本(制度の趣旨や典型例)】
【大学の学費の負担(贈与)と特別受益(判断基準と実例)】

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