【受領済解決金を控除しない請求による弁護士懲戒事例(ダブル取りシャーク事件)】

1 受領済解決金を控除しない請求による弁護士懲戒事例

弁護士の業務内容が不当であったために弁護士が懲戒の処分を受ける事例があります。
本記事では、損害賠償請求について、本来得られる金額よりも多く獲得したことが不当であると判断された事例を紹介します。
勝ち過ぎたことによってペナルティを受けたということです。

2 交通事故の発生と弁護士への依頼

この事案は、交通事故による受傷があったというケースです。
その後の診療のミスもあり、加害者(請求する相手)が2者存在しました。

交通事故の発生と弁護士への依頼

あ 交通事故

Aが交通事故により負傷した
その後搬入された病院で受けた診療にミスがあった
その結果、Aは死亡した

い 弁護士への依頼

Aの相続人(遺族)Bが弁護士Yに依頼した
※日弁連平成22年10月12日議決

3 弁護士が行った業務内容

受任した弁護士が行った業務の内容をまとめます。
病院側から既に6600万円を受領していたのに、交通事故の加害者への請求の金額から、これを控除しませんでした。
結果的に、交通事故の加害者は本来差し引くべき6600万円も含めて支払うことになりました。

弁護士が行った業務内容

あ 病院に対する請求

弁護士Yは、病院に対して、医療ミスによる損害賠償を請求した
最終的に、和解が成立した
病院側は解決金として6600万円を支払った

い 交通事故の加害者に対する請求

弁護士Yは、交通事故の加害者に対して損害賠償を請求する訴訟を提起した
請求額として、病院から受領した解決金を控除していなかった
病院の解決金の受領については言及していなかった
最終的に、訴訟上の和解が成立した
交通事故の加害者は、賠償金9000万円を支払った
この金額は、病院からの解決金の支払がないという前提のものであった
実質的に6600万円を重複して受領できたことになる
※日弁連平成22年10月12日議決

4 弁護士会の判断

以上の弁護士の業務について、弁護士会は業務停止6か月の懲戒処分としました。

弁護士会の判断

あ 懲戒処分

業務停止6か月(原処分)
(審査請求棄却により原処分維持)

い 理由

弁護士Yの業務は、弁護士の品位を失うべき非行である
※弁護士法56条1項
※日弁連平成22年10月12日議決
※『弁護士懲戒事件議決事例集 第13集』日本弁護士連合会2011年p112〜

5 考慮する事項のまとめ

弁護士が行った業務は、依頼者の利益を最大化するという意味では正しいといえます。
一方で、この利益は正当でなくてはならないのです。
角度を変えて、訴訟法のルールで考えると、本来、6600万円の控除の点は、交通事故の加害者の代理人弁護士が指摘すべき事項でした。加害者代理人弁護士が指摘しないことが不備であったと思えます。
しかし、結局、6600万円を控除しないで請求すること自体が不当(正当な範囲を逸脱する)と判断されたのです。
角度を変えて依頼者の視点で考えると、有利な結果を獲得してくれたのであり、最高に頼もしい弁護士(業務)といえます。しかし、有利にも程度があり、有利過ぎると違法となってしまう、ということがいえるのです。

考慮する事項のまとめ

あ 訴訟法上の立証責任

損益相殺は被告(交通事故の加害者)が主張・立証責任を負う
→訴訟法上は、原告(弁護士Y)が主張する義務はない

い 依頼者の利害

損益相殺(解決金を受領済みであること)は
(弁護士Yが)主張すると依頼者にとって不利になる事情である

う 利益の正当性(正当な利益)

受領済みの解決金を実質的に重複して獲得することは正当な利益を逸脱する
※弁護士職務基本規程21条参照

え 控除を否定する主張(参考)

仮に、解決金の受領を明示した上で、控除すべきではないという主張をした場合
→これは正当な利益の範囲内であると思われる

6 過剰な交通事故の被害の作出による懲戒事例(参考)

以上で紹介したのと同じタイプの懲戒事例がほかにもあります。ついでに類例として紹介しておきます。
交通事故の被害による損害賠償請求をする立場でしたが、過剰な被害を作り出したのです。もちろん一般的に大きめに請求するということはありますが、それは一定の評価の幅の範囲内です。このケースでは、住民票の住所を本来の住所とは別の場所としておくという工作を弁護士が依頼者にアドバイスしていました。さらに、相手方(保険会社)に実際の住所がばれないように、外出する時には変装することもアドバイスしていました。
最後に、このことが発覚した後に、主張を改めるとか謝罪する、ということをしないばかりか、依頼者への責任追及を予告するなど、事後的な対応も非難すべきものでした。そこで4か月の業務停止という処分となっています。

過剰な交通事故の被害の作出による懲戒事例(参考)

あ 最終的な処分内容

業務停止4月(の処分が維持された)

い 議決書の引用(抜粋)

Ⅲ 結論
ア (事実)以上認定した諸々の事実を総合判断すれば、対象弁護士は懲戒請求者が常時介護を要する状態になかったことを知りながら、母親の常時介護を受けているとの虚偽の事実を前提に、本来認められる筈のない介護費用約6、400万円を損害額に含めた高額な賠償請求を行い、相手方(加害者・任意保険会社)がその請求に不審の念を抱き強く争ったのに対し、介護費等の請求を維持するために、実際に常時介護を受けており、将来もその必要性があるとの虚偽の事実を主張するとともに、懲戒請求者の訴状や訴訟委任状等の住所を実際の住所であった中野区ではなく、母親らの住所とさせ、その後懲戒請求者が中野区から柏市に転居した際も、同人に住民票を柏市ではなく上記母親らの住所地に異動させ、或いは外出時には変装するよう懲戒請求者にアドバイスしたり、さらには訴訟の途中で、母親が実際には同居も常時介護もしていないことを知りながら、母親が同居して常時介護している旨の同人名義の陳述書を虚偽と知りつつ証拠として提出したことが認められる。
イ (評価)対象弁護士のかかる行為は、誤った裁判がなされる虞れをもたらすもので、裁判における真実の発見という重大な目的をないがしろにし、公正な裁判の実現を危うくするとともに、弁護士に対する社会の信頼を失わせる虞れのある重大な行為である。本件の場合、裁判の過程で、相手方から懲戒請求者の行動を撮影したビデオという決定的証拠が提出されたことから、結果的にその目的を達しなかったものの、もし対象弁護士の行為がそのまま露見しなかった場合には裁判の結果に重大な影響を与えたであろうことは容易に想像し得るところであり、対象弁護士の行為は、信義に従い、誠実且つ公正に職務を行い(基本規程第5条及び旧倫理第4条)、裁判の公正及び適正手続の実現に努め(基本規程第74条び旧倫理第53条)、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない(基本規程第75条及び旧倫理第54条)との弁護士として遵守すべき義務に著しく違反するものであり、その責任は重大である。
ウ (事後的な対応・態度)ところが、対象弁護士は、ビデオが提出され形勢が不利となった後、中間金や実費の支払いがなされなかったことを理由に訴訟代理人を辞任し、その後懲戒請求者から着手金の返還を求める紛議調停を申し立てられた際にも、虚偽と知りながら証拠を提出するなどした自己の非を顧みることなく、本件訴訟において常時介護費用等の請求をしたことに何らの問題もないなどと述べ、同人に返還すべき金員はないと強く主張して全く話し合いに応じようとしなかったうえ、現在も自己の責任を全く認めようとせず、対象弁護士が受任中、懲戒請求者は常時介護が必要な状態にあったのであり、そのことは医療記録からも明らかである旨強く主張し続け、反省の態度は全く認められず、懲戒請求者を「虚偽告訴罪で告訴することも辞さない所存である」とまで主張している状況である。
エ (まとめ)従って、対象弁護士に対して、強く反省を求めるとともに、弁護士としての職務に対する自覚を促すためには厳しい処分をすることもやむを得ないと判断される。
よって、主文のとおり議決する。
※日弁連平成23年7月11日議決
※『弁護士懲戒事件議決例集 第14集』日本弁護士連合会2012年p99〜118

本記事では、弁護士が相手方に対して過剰な請求をしたことによって懲戒処分が課せられたという事案を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって懲戒その他の責任の判断は違ってきます。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が「,」の場合を含みます)。

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