東京高判令和元年8月21日|役員賞与の届出漏れ→顧問税理士の助言指導義務違反

1 東京高判令和元年8月21日|役員賞与の届出漏れ→顧問税理士の助言指導義務違反

役員賞与を損金にするには、支給の時期と金額をあらかじめ定め、その内容を事業年度ごとに税務署へ届け出ておく必要があります(事前確定届出給与)。届出が無ければ、その賞与は損金になりません。届出の手続を顧問税理士に任せている会社で届出が漏れたとき、その損失を税理士に負担させられるかが問題になります。

東京高等裁判所は、令和元年8月21日、この問題について、顧問の税理士法人の責任を判断しました。原審は東京地方裁判所の平成28年5月30日判決で、控訴審はその理由を引用したうえで判断を付け加えています。

この判決はほかの争点(債務の株式化に伴う課税の説明など)も扱っていますが、本記事では届出給与制度についての判断を、事案、原判決の判示とその根拠、控訴審の判断、損害、決めていないことの順に説明します。

2 本判決から獲得できる規範(まとめ)

この判決から取り出せる規範を並べます。いずれも後述の各節で、判決文を挙げて説明します。

本判決から獲得できる規範(まとめ)

あ 判決が明示したこと

(ア)顧問税理士は、依頼者から届出給与制度を利用する意思を伝えられず、問い合わせや相談を受けていない場合でも、依頼者が制度を利用する機会を失わないよう、利用意思の有無を確認するか、制度の利用について注意を促すなどの指導助言をすべき義務を負う。(イ)この義務は、顧問税理事務所としての立場に加え、前年度まで毎年利用意思を確認して手続をとってきたことと、その年度の株主総会議事録の写しを受け取って支給額等の確定を知っていたことを経緯として認められた。(ウ)届出をするかどうかは会社が判断するものだという反論は、この義務を否定しない。(エ)義務違反による損害は、役員給与を損金にできなかったことによる法人税等の追加納税額と、再修正申告の税理士費用である。

い 判決に明示なし——判決は触れていない

(ア)毎年の手続の慣行が無い顧問先や、支給の定めを税理士が知らない場合にも同じ義務を負うか。(イ)税理士が自ら届出書を提出すべき義務まで負うか。

3 事案=前年度まで届け出ていた会社の、ある年度だけの届出漏れ

原告は不動産の賃貸と管理などを営む株式会社で、被告の税理士法人と税務顧問契約を結んでいました。会社は前年度までは毎年、届出給与制度を利用して役員給与を損金にしてきました(その経緯は後述の節で見ます)。

問題の事業年度に、会社は平成23年7月と12月に役員給与を支払い、税理士法人はその全額を損金として処理しました。ところが、その事業年度については届出書が提出されていませんでした。

事前確定届出給与の要件は、別の記事で説明しています。

役員賞与を損金にする要件|届出に書いた日と額のとおりに支給する

引用:判例

届出書の不提出→役員給与を損金として処理できず

原告は、平成23年7月31日及び同年12月27日、役員給与として計163万6450円を支払い、被告は、当該役員給与の全額を原告の本件事業年度の損金として処理した。しかし、原告は同期の役員給与について役員給与事前確定届出書の提出をしていなかったため、上記給与は損金として処理することができないものであった。

※東京地方裁判所 2016-05-30 判タ 1439号233頁/金商 1583号19頁<参考収録>/ウエストロー・ジャパン

4 原判決=相談がなくても利用意思の確認・注意喚起をする義務

原審は、顧問税理事務所としての立場と次節で見る経緯から、税理士法人は、会社から相談を受けていなくても、制度の利用意思を確認するか、利用について注意を促すなどの指導助言をすべき義務を負っていたとしました。そして、その事業年度には確認も注意喚起もしなかったとして、債務不履行と不法行為の責任を認めました。

引用:判例

相談がなくても利用意思の確認・注意喚起の義務→怠った

顧問税理事務所としての被告の立場及び上記(1)のとおりの経緯からすれば、被告は、原告から積極的に同制度を利用する旨の意思を伝えられず、明示的に問い合わせや相談を受けていない場合であっても、原告が本件届出給与制度を利用する機会を失することがないように、原告に対し、同制度の利用意思の有無について確認し、又は同制度の利用に関する注意喚起等を行うなどの指導助言をすべき義務を負っていたというべきである。ところが、被告は、本件事業年度については、原告に対して同制度の利用意思の有無について確認せず、何らの注意喚起等も行わなかったものであり、上記義務を怠ったものといえる。被告は、この点につき、債務不履行及び不法行為責任を免れない。

※東京地方裁判所 2016-05-30 判タ 1439号233頁/金商 1583号19頁<参考収録>/ウエストロー・ジャパン

5 原判決の根拠=毎年の意思確認と議事録の写しの受領という経緯

原審が義務の根拠に挙げたのは、この会社との間の経緯です。前年度までは、税理士法人が毎年会社の利用意思を確認し、自ら手続をとって制度を利用させていました。問題の年度も、会社は株主総会と取締役会で役員給与の支給額などを確定させ、税理士法人はその議事録の写しを受け取っていました。原審は、この経緯から、制度を利用することが会社に有利になることを、税理士法人は提出期限までに認識し、または容易に認識し得たとしています。

引用:判例

前年度までの手続と議事録の写し→提出期限までに認識し得た

被告は、本件事業年度の前年度までは、毎会計年度ごとに本件届出給与制度について原告の利用意思の有無を確認し、被告側で手続をとることによって原告は同制度を利用して役員給与について損金処理を行ってきたものであり、また、原告は、従前どおり、平成23年6月に開催された株主総会及び取締役会の決議において、本件事業年度の役員給与支給額等を確定させ、被告は、同年度の原告の株主総会議事録の写しを徴求してこれを認識していたことが認められるのであるから、被告は、本件届出給与制度を利用することが原告にとって有利になることについて、役員給与事前確定届出書の提出期限までに認識し、又は容易に認識し得たものといえる。

※東京地方裁判所 2016-05-30 判タ 1439号233頁/金商 1583号19頁<参考収録>/ウエストロー・ジャパン

6 控訴審→「届出の判断は会社のもの」という反論を退けた

税理士法人は控訴し、届出をするかどうかは会社が判断することで、税理士に制度の採用を助言指導する義務は無いと主張しました。控訴審は、原判決が示した義務を引用して、この主張を退けました。

引用:判例

届出の判断は会社のものという主張→採用し得ない

控訴人は、事前確定届出給与を損金に算入するためには、予め株主総会等の決議をもって支給時期、支給金額を定める必要があるから、届出を行うか否かの判断は、当該会社が行うものである、現に被控訴人は平成19年から平成23年までは同制度を利用していたのであり、控訴人に、被控訴人が制度を採用するよう助言指導する義務はないと主張する。
しかし、この点については、税務の専門家である控訴人において、被控訴人から積極的に本件届出給与制度を利用する意思を伝えられず、明示的に問い合わせや相談を受けていない場合であっても、被控訴人が本件届出給与制度を利用する機会を失することがないように、被控訴人に対し同制度の利用意思の有無について確認し、または同制度の利用に関する注意喚起等を行うなどの助言指導をすべき義務を負っていることは、上記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の5(2)のとおりであって、控訴人の上記主張は採用し得ない。

※東京高等裁判所 2019-08-21 金商 1583号8頁/ウエストロー・ジャパン

7 控訴審→「決議が無く因果関係なし」という反論も退けた

税理士法人は、会社はその年度の株主総会で届出に必要な事項を決議しておらず、届出をしても損金にはならなかったのだから、助言指導をしなかったことと損失との間に因果関係は無い、とも主張しました。控訴審は、会社が株主総会と取締役会で支給額などを確定させ、税理士法人も議事録の写しを受け取っていたという原判決の認定を引いて、この主張も退けました。

引用:判例

決議が無く因果関係なしという主張→採用し得ない

また、控訴人は、被控訴人は、平成23年6月の株主総会でも、事前確定給与届出に必要な事項の決議をしておらず、届出をしても損金算入は認められないから、損金不算入による損失と控訴人が助言指導を行わなかったことに因果関係は存在しないと主張する。
しかし、被控訴人が、平成23年6月に開催された株主総会及び取締役会の決議で、本件事業年度の役員給与支給額等を確定させ、控訴人も、同年度の被控訴人の株主総会の議事録の写しを徴求したことは、上記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の5(1)のとおりであって、控訴人の上記主張は採用し得ない。

※東京高等裁判所 2019-08-21 金商 1583号8頁/ウエストロー・ジャパン

8 損害=追加納税75万7200円と再申告の税理士費用10万円

会社は別の税理士法人に依頼して再修正申告をし、追加の納税をしました。原審は、指導助言義務の違反によって役員給与を損金にできなかったことによる損害として、追加納税額とその申告の税理士費用を認めました。控訴審は控訴を棄却しています。

引用:判例

指導助言義務違反による損害→合計85万7200円

被告が本件届出給与制度についての指導助言義務を怠ったことにより、原告は、本件事業年度の役員給与について損金算入をすることができず、以下の合計85万7200円の損害を被ったと認められる。
ア 法人税等の追加納税額 75万7200円
イ 本件再修正申告に係る税理士費用 10万円

※東京地方裁判所 2016-05-30 判タ 1439号233頁/金商 1583号19頁<参考収録>/ウエストロー・ジャパン

9 本判決が決めていないこと=手続の慣行が無い顧問先への義務

原審が義務の根拠に挙げたのは、顧問税理事務所という立場だけではありません。前年度まで毎年利用意思を確認して手続をとってきたこと、問題の年度の議事録の写しを受け取って支給額などの確定を知っていたこと、という経緯があわせて挙げられています。判決は、こうした経緯が無い顧問先、たとえば制度を一度も利用したことのない会社や、支給の定めを税理士が知らない場合にも同じ義務を負うかについては述べていません。

また、判決が認めた義務は、利用意思の確認や注意喚起といった指導助言の義務です。税理士が自ら届出書を提出すべき義務まで負うかについては、判断していません。

専門家が確認を怠ったときの責任は、司法書士や不動産の仲介業者についても、別の記事で説明しています。

不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類

権利(所有権・担保負担)に関する仲介業者の調査・説明義務

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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