弁護士法72条『報酬を得る目的』の切れ目|経費との区別と自己の権利

1 弁護士法72条『報酬を得る目的』の切れ目|経費との区別と自己の権利

弁護士でない者が他人の法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条が禁止しています。もっとも同条は、禁止の対象を「報酬を得る目的で」行う場合に限っています。無償で助言した場合はどうか、受け取った金員に経費が混じっている場合はどうか、自分が買い取った権利を自分で実現した場合はどうか——同条の文言だけでは、どこで切れるのかが読み取れません。

本記事では、弁護士法72条の「報酬を得る目的」という要件がどこで切れるのかを説明します。

弁護士法72条の他の文言(「法律事件」「法律事務」)の解釈については、別の記事で説明しています。

弁護士法72条の『法律事件』の解釈(事件性必要性と不要説)

弁護士法72条の『法律事務』の解釈

「業として」の解釈は、他の法律の「業」との横断で別に説明しています。

『業』『営業』の解釈論(判例・行政見解・文献)の集約

弁護士が非弁行為をする者から事件の周旋を受けることの禁止(弁護士法27条)は、別の記事で説明しています。

非弁護士との提携(非弁提携)の禁止(弁護士法27条)

2 弁護士法72条の条文と、「報酬を得る目的」の位置

弁護士法72条は、禁止される行為を「報酬を得る目的で」「業として」行うことと定めています。以下の条文のうち、本記事が扱うのは「報酬を得る目的で」の部分です。「法律事件」「法律事務」「業とする」の各文言の解釈は、それぞれ別に説明しています。

条文

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

※弁護士法72条

3 弁護士法72条に固有の要件=他法との対比

「報酬を得る目的」は、「業として」とは別の要件です。この 2 つを一体のものとして読むと、反復継続の意思があれば足りることになり、無償の行為まで禁止の対象に入ってしまいます。

別の要件であることは、同じ「業」を使う他の法律との対比で見えます。司法書士法は、業務の遂行について報酬を要件としていません。最高裁は、司法書士法の事案で、報酬を得る目的の有無にかかわりなく業務を行ったものと判断しました。弁護士法72条が「報酬を得る目的で」と明記しているのは、この点で他法と異なる構造を採ったということです。

引用:判例

最判昭和39年12月11日|司法書士法では報酬を得る目的を要しない

原判決が、司法書士法一九条一項の解釈につき、司法書士でない者が継続反覆の意思をもって同法一条一項所定の書類を作成するときは、報酬を得る目的の有無にかかわりなく同条に規定する司法書士の業務を行ったものというべきである旨判示したことは正当であって

※最高裁判所 1964-12-11 裁判集刑 153号647頁/裁判所ウェブサイト/判時 414号48頁/判時 399号56頁

4 「報酬を得る目的」が認められなかった例

要件が別に立つということは、要件が欠ければ同条違反にならないということです。裁判例には、依頼を受けて交渉を行った事実を認めながら、「報酬を得る目的」と「業とする」の要件がいずれも充たされないとして、72条違反の主張を退けたものがあります。

この判断で効いているのは、行為の外形ではなく、その事務を引き受けた経緯です。依頼に基づいて依頼の趣旨に従った事務を行っているにとどまる場合には、要件の充足が認められないことがあります。

引用:判例

東京地判平成26年6月13日|報酬を得る目的と業とするの要件を否定

同法所定の「報酬を得る目的」及び「業とする」の要件の充足を認めることはできず

※東京地方裁判所 2014-06-13 ウエストロー・ジャパン

5 「報酬」と経費の区別

受け取った金員の全部が「報酬」になるわけではありません。明渡しの交渉を受任した事案で、最高裁は、受領した金員について、受任者の報酬に充てられる分と、賃借人へ支払われる立退料等の経費に充てられる分とを区別して認定しています。

∴ 金員を受け取ったことだけでは要件は決まりません。その金員のうち、自己の労務の対価として取得する部分があるかどうかを見ることになります。もっとも、この事案では報酬に充てられる部分があることが前提とされており、経費が混じっていることが要件を否定する方向に働いたわけではありません。

引用:判例

最決平成22年7月20日|報酬分と立退料等の経費分の区別

被告人らの報酬に充てられる分と賃借人らに支払われる立ち退き料等の経費に充てられる分とを合わせた多額の金員

※最高裁判所 2010-07-20 最高裁判所刑事判例集64巻5号793頁/裁判所時報1512号248頁/判例タイムズ1333号115頁/判例時報2093号161頁/金融法務事情1912号92頁/LLI/DB 判例秘書登載

6 自己の権利の実現と「受任」の区別

自分の権利を実現して利益を得る形は、他人から法律事務を受任したことになりません。譲渡制限株式の事案で、裁判所は、報酬を得る目的で株主から交渉や紛議の解決の委任を受けて受任することは72条に抵触する可能性があるとしながら、当該原告は株式を買い取ったのであって現金化を受任したものではないとして、同条の適用を否定しました。

ただし、この形が常に許されるわけではありません。別の裁判例は、占有権限について紛争がある不動産を譲り受けて明渡しを実現し転売して利益を得ることを業とすることは、72条の潜脱につながるおそれがないとはいえないと述べています。

∴ 分かれ目は「権利を取得したか」という形式ではなく、他人の法律事務を引き受けたのと実質において異ならないかどうかにあります。

引用:判例

東京地判令和5年4月18日|買い取った場合は受任にあたらない

原告は、Cから本件株式を買い取ったのであって、Cに代わって本件株式を現金化することを受任したものではないから

※東京地方裁判所 2023-04-18 Westlaw Japan

引用:判例

熊本地判令和元年4月9日|譲り受けて明渡しを実現する形は潜脱のおそれ

不動産の所有者から不動産を譲り受けて明渡しを実現し、転売して利益を得ることを業とすることは、その潜脱につながるおそれがないとはいえない

※熊本地方裁判所 2019-04-09 判例時報2458号103頁

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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