民法825条の「共同の名義で」とは何か|共同名義→825条・単独名義→110条
1 民法825条の「共同の名義で」とは何か|共同名義→825条・単独名義→110条
父母の双方が親権者である場合、親権は父母が共同して行うのが原則です。しかし実際には、一方の親だけが子を代理して契約を結び、手続を進めてしまうことがあります。
もう一方の親がそれを知らなかったとき、あるいは反対していたとき、その契約はどうなるのでしょうか。契約の相手方の立場からすれば、親権者の一方と取引しただけで後から無効だと言われるのでは、安心して取引をすることができません。
本記事では、このような場合に相手方がどこまで保護されるのかを、民法825条を中心に説明します。
共同親権か単独親権かの判断基準(民法819条7項)|必要的単独親権と総合考慮
2 相手方を守る条文の分かれ目=共同名義かどうか
共同名義かどうかで、相手方を守る条文が変わる
| 場面 | どうなるか |
|---|---|
| 父母の一方が共同の名義で子を代理し、または子の法律行為に同意した | 他方の意思に反していても効力は妨げられない。ただし相手方が悪意だったときは妨げられる |
| 父母の一方が単独の名義で子を代理した | 825条の適用はない。無権代理となるが、相手方にその親権者の権限があると信ずべき正当な理由があれば110条で保護される |
| 一方が他方の同意を得て単独名義で行った | そもそも共同行使にあたる。同意は黙示でもよく、父母双方の署名押印が必須になるわけではない |
| 訴訟行為 | 825条は適用されない |
| 相手方のない単独行為(相続の放棄など) | 825条は適用されない |
3 民法825条の趣旨=名義の共同性を優先した善意の相手方の保護
民法825条は、父母が共同して親権を行う場合に、その一方が「共同の名義で」子に代わって法律行為をし、または子がこれをすることに同意したときの効力を定めた規定です。
民法825条の条文
父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは、その行為は、他の一方の意思に反したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
※民法825条
本来、父母の一方が他方の同意を得ずに子を代理してした行為は、無権代理です。825条はそれでも効力を妨げられないとしており、父母の意思が実際に一致していたかどうかよりも、書面に父母双方の名が現れているという外形を優先しています。その外形を信頼した相手方を保護し、取引の安全を図る規定だということです。
この点で、825条は110条の表見代理と趣旨を同じくしています。
110条の表見代理と趣旨を同じくする
この意味で、本条は、110条の表見代理の趣旨と軌を一にするものといえる。
したがって、本条は、共同親権の原則と相手方の保護すなわち取引の安全との調整をはかることを目的としたものということができる。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p133
4 本条の4要件の充足→他方の意思に反した行為も有効
825条が働くためには、4つの要件がそろう必要があります。共同名義を用いたこと、他方の許諾がないこと、相手方のある法律行為であること、そして相手方が悪意でないことです。順に見ていきます。
(1)共同名義を用いたこと→単独名義には本条の適用なし
第1の要件は、親権者の一方が「共同名義」を用いたことです。自分の名前だけで代理行為をした場合には、この要件を欠くので825条は働きません。
共同名義を用いたことを要する
(1)親権者の一方が、共同名義で、子に代わって法律行為をし、または、子の法律行為に同意をしたこと親権者の一方が、共同名義を用いたことを要するから、自己単独名義で代理行為をした場合には、110条の表見代理となることはあっても、本条の適用はない。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p133
(2)他方の許諾なし=許諾を求めなかった場合も該当
第2の要件は、共同名義を用いることについて他方の許諾がないことです。条文は「他の一方の意思に反したとき」と書いていますが、これは他方の許諾がないときという意味に読まれています。許諾を断られた場合だけでなく、そもそも許諾を求めなかった場合も含まれます。
したがって、結果として他方の意思に反していなかったときでも、無断で共同名義を用いた以上は「他の一方の意思に反したとき」に当たることになります。
許諾を得ようとしなかった場合を含む
「他の一方の意思に反したときでも」ということは、他方の許諾がないときでもという意味に解すべきである。
他方の許諾が得られなかった場合のみでなく、許諾を得ようとしなかった場合を含む。
したがって、親権者の一方が、他方の許諾なくして単独で共同名義を用いて法律行為をなしまたは同意をした場合には、結果的には、他方の意思に反しなかったときでも、「他の一方の意思に反したとき」に該当する。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p133
(3)相手方のある法律行為であること→相続の放棄など単独行為は除外
第3の要件は、問題となる行為が相手方のある法律行為であることです。825条は外形を信頼した相手方を守るための規定ですから、守るべき相手方がいない行為には働きません。相続の放棄のように相手方のない単独行為は、この要件から外れます。
相手方のない単独行為は除外される
(3)親権者の一方のなした法律行為、または、子が親権者の一方から受けた同意にもとづいてなした法律行為は、相手方ある法律行為であること相手方ある法律行為であることを要するから、相手方のない単独行為(たとえば、相続の放棄のごとく)については、本条は除外される。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p133
(4)相手方が悪意でないこと→無過失までは不要
第4の要件は、相手方が悪意でないことです。ここでいう悪意とは、親権者の一方が他方の許諾を得ずに共同名義を用いたことを知っていた、という意味です。知っていた相手方まで守る必要はないので、その場合は本来どおり効力が妨げられます。
条文は悪意でないことだけを要件としており、無過失までは求めていません。過失によって知らなかった場合をどう扱うかは学説が分かれていますが、保護されるものと解してよいとする見方があります。
なお、相手方が悪意であったことは、行為の無効を主張する側が立証することになります。
無過失は要求されていない
本条但書は、相手方の悪意でないことのみを要件としており、無過失を要求していない。
過失によって知らなかった場合については、悪意と同様に解すべきかいなかについて、学説は、肯定説(島津一郎編・基本法コンメンタール親族〔第3版〕〔平元〕174〔中川良延〕、川井=西原他編・前掲民法コンメンタール(22)858〔川田〕)と、否定説(中川編・注釈下69〔薬師寺〕)とに分かれている。
過失によって知らなかった場合には保護されるものと解してよい(中川淳・逐条解説440)。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p134
5 訴訟行為への適用→否定(最判昭和57年11月26日)
825条が取引の安全を図る規定であることは、適用の範囲にも効いてきます。訴訟行為に825条が適用されるかどうかは、かつて学説が分かれていました。
最高裁は、825条が外形を信頼した善意の相手方を保護し、取引の安全を図ることを目的とした規定であることを理由に、取引行為とは異なる訴訟行為には適用されないと判断しました。
訴訟行為には適用されない
訴訟行為には民法825条は適用されない。
※最高裁判所 1982-11-26 最高裁判所民事判例集36巻11号2296頁/家庭裁判月報35巻9号43頁/最高裁判所裁判集民事137号517頁/裁判所時報851号1頁/判例タイムズ486号77頁/金融・商事判例667号28頁/判例時報1064号51頁/金融法務事情1040号42頁
否定説と肯定説の分岐と、判例の判示
本条が訴訟行為に適用されるかいなかについては、学説は、適用を認めない否定説(田中加藤男「共同親権の規定に違反する訴訟行為の効力」実例法学全集民訴法(上)〔昭63〕49)と、適用を認める肯定説(竹下守夫「訴訟行為と表見代理」実務民事訴訟講座I〔昭44〕182)とに分かれている。
判例は、「民法825条の規定は、共同して親権を行うべき父母の一方が、他方の意思に反して共同名義で未成年者に代わって法律行為をし又は未成年者がこれをすることに同意した場合において、その外形を信頼した善意の相手方を保護し、もって取引の安全を図ることを目的としたものであって、取引行為とは異なる訴訟行為には適用されない」と判示している(最判昭57・11・26民集36・11・2296)。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p133〜134
6 単独名義の代理→無権代理+110条の表見代理
では、親権者の一方が無断で自分の名前だけで子を代理した場合はどうなるのでしょうか。共同名義を用いていない以上825条は働かないので、原則に戻って無権代理になります。
無権代理ですから、他方の親権者が追認すれば有効になります。追認しない場合でも、相手方がその親権者に権限があると信ずべき正当な理由を持っていたときは、110条の表見代理によって保護される余地があります。
単独名義は無権代理=追認と110条
(2)親権者の他方が許諾しない場合(ア)親権者の一方が無断で単独名義で代理行為をしたときは、それは無権代理行為である(最判昭42・9・29家月20・2・29は、このような行為を単に無効とする)から、追認によって有効とすることができる(116)。
この無権代理行為の追認は、代理行為に参加しなかった親権者1人でこれをなしうると解されている。
親権者の一方が無断で、単独名義で代理をした場合に、相手方が、その親権者に、権限ありと信ずべき正当の理由を有しているときは、表見代理の法理によって、本人である子に責任を生ずる(110)。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p135
共同行使に違反した単独の処分行為の効力
親権の共同行使に違反して親権者の父または母が単独でした未成年の子の財産についての処分行為の効力
※最高裁判所 1967-09-29 家庭裁判月報20巻2号29頁/最高裁判所裁判集民事88号611頁/判例タイムズ213号100頁/金融・商事判例83号5頁/判例時報497号59頁/金融法務事情494号43頁
7 825条は110条の特別規定→共同名義の越権代理に110条の適用なし
ここまで見てきたとおり、825条と110条はどちらも外形を信頼した相手方を守る規定です。両者の関係は、825条が110条の特別規定にあたる、と整理されています。
民法110条の条文
前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
※民法110条
つまり、共同代理の形で行われたのに共同代理にならなかった越権代理については、825条だけが適用され、110条は適用されません。単独名義のときのように825条の適用がない場面で、はじめて110条が出てきます。
825条は110条の特別規定
VI本条と110条との関係
本条は、110条の表見代理と趣旨を同じくする規定である。
代理行為が共同代理の形式で行われたにもかかわらず、それが共同代理とならない場合の越権代理については、本条は、110条の特別規定であるから、110条の規定の適用は排除される。
しかし、それ以外の場合、たとえば、親権者が単独名義で代理行為をした場合には、本条の適用はなく、110条が適用される。
※中川淳稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p136
8 父母双方の署名押印は不要=他方の黙示の同意があれば単独名義でも共同行使
ここまでは、共同名義かどうかで825条が働くかどうかが決まると述べてきました。しかし、そもそも何をもって「共同して親権を行った」といえるのかは、別の問題です。
共同して行うとは、親権の行使が父母の共同の意思で決定されることをいいます。共同名義で行う場合だけでなく、一方が他方の同意を得て単独名義で行う場合も含まれ、その同意は黙示のものでかまいません。契約のたびに父母双方の署名押印をそろえる必要はない、ということです。
共同の意思での決定=単独名義+黙示の同意を含む
新民法第824条の2が親権を「父母が共同して行う」と定める趣旨は、旧民法の解釈と同様に、身上監護や財産管理等の親権行使が、父母の共同の意思で決定されることをいう。
父母の共同の意思での決定には、父母の共同の名義によって親権の行使をした場合のみならず、例えば、父母の一方が、他方の同意を得て、単独名義で親権の行使をする場合も含まれるところであり、後者の場合の他方の親権者の同意は、黙示的なものでもよい。
※父母の離婚後の子の養育に関する民法等改正法の施行準備のための関係府省庁等連絡会議『Q&A形式の解説資料(民法編)』法務省(ウェブサイト公開)令和8年4月22日改訂p18
黙示の同意が認められた例として、売買契約の場に同席して反対の意思を示さず、実地の測量にも立ち会っていた母について、親権者としての承諾があったとされた事案があります。
同席して反対しなかった母→共同行使にあたる
而して、かゝる事実関係の下においては、他に特段の事情が認められない以上、右売買については、上告人Aの親権者たるEおよびDが共同して親権を行使したものというを相当とする。
※最高裁判所 1957-07-05 最高裁判所裁判集民事27号27頁
9 離婚後の共同親権への拡大=824条の2第1項(令和6年改正)
令和6年の民法改正は、825条の文言を一字も変えていません。しかし、825条が働く場面は改正によって大きく広がりました。
改正前、親権の共同行使を定めていたのは818条3項で、その対象は婚姻中の父母に限られていました。改正によってこの規定は824条の2第1項へ移り、婚姻中か離婚後かを問わず、父母の双方が親権者である限り共同行使が原則になります。
民法824条の2第1項の条文
親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
※民法824条の2第1項
825条は「父母が共同して親権を行う場合において」と定めていますから、離婚後に父母の双方が親権者と定められた場合にも、そのまま適用されることになります。
婚姻中と離婚後の双方に適用される
新民法第824条の2は、父母の婚姻中と離婚後の双方に適用される。
また、同条は、親権の行使方法について、婚姻中の父母双方が親権者である場合と、離婚後の父母双方が親権者である場合とで、異なる取扱いを要求しているものではない。
※父母の離婚後の子の養育に関する民法等改正法の施行準備のための関係府省庁等連絡会議『Q&A形式の解説資料(民法編)』法務省(ウェブサイト公開)令和8年4月22日改訂p18
10 営業の許可への類推適用→共同名義なら取消不可
825条は、代理と同意という条文が名指しする場面の外へも、類推によって及ぶことがあります。未成年の子が親権者の許可を得て営業を営む場合がその例です。
父母の一方だけの許可で営業している場合でも、その許可が共同の名義でされている限り、営業に関する行為は相手方が善意であれば有効で、後から取り消すことはできないと解されています。
共同名義の営業許可→825条の類推適用
もっとも、父母が共同に親権を行う場合にあって、一方のみの許可を得て営業を営んでいる場合には、当該許可が共同の名義でなされているかぎり、その営業に関する行為は、825条を類推適用して、相手方の善意であるかぎり有劾であって、後に取り消しえないものと解すべきであろう。
※明山和夫・國府剛稿/於保 不二雄 (元京都大学教授)・中川 淳 (広島大学名誉教授)編『新版 注釈民法(25)改訂版』有斐閣2010年 10月p122
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
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