相反する依頼者の受任と辞任|顕在化の前後・不利益事項の説明と適切な措置
1 相反する依頼者の受任と辞任|顕在化の前後・不利益事項の説明と適切な措置
依頼者が複数いる事件では、その依頼者どうしの利害が反対を向くことがあります。共同被告、共同相続人、共同保証人——どれも、一方の取り分が増えれば他方の取り分が減る関係になりえます。
受任してよいのか、受けたあとに対立が表に出たらどうするのか。この2つは、分けて考えられています。
本記事では、依頼者どうしの利害が反対になる事件について、受任の時点と、相反が現実のものになった後とに分けて、何が許され何が許されないかを説明します。
どのような場面が利益相反にあたるのかは、別の記事で説明しています。
依頼者相互間の利益相反にあたる場面|資金の食い合いと主張の食い違い
2 顕在化前なら受任でき、顕在化後は同意があっても続けられない
依頼者どうしの利害が反対になる事件について、現在どういう規律が置かれているのかを先にまとめます。
顕在化前なら受任でき、顕在化後は同意があっても続けられない
あ 受任の可否(顕在化していない間は受任できるか)
利益相反の状況にあっても受任は可能とされている。ただし、将来その利益相反が顕在化する可能性がある点に注意を要する
い 顕在化後の継続(同意があれば続けられるか)
依頼者の同意があっても職務を続けられない、とする見解が有力。弁護士職務基本規程28条3号の問題であり同意があれば許されるとする見解もあるが、相反する側の依頼者から同意を得ることはできないため、どちらの見解でも職務を行い得ない
う 受任時の説明(何を説明しておくか)
利益相反があるのに不利益事項の説明(弁護士職務基本規程32条)をしなかったことが、懲戒審査相当とされた例がある
え 顕在化後の措置(何をするか)
顕在化した段階で辞任等の適切な措置(同42条)を採らず、漫然と代理業務を継続したことも、同じ事例で問われている
お 受任時の備え(何を書面にしておくか)
顕在化したときには辞任せざるを得ない旨を事前に十分に説明し、辞任する場合の弁護士報酬の清算を定めて、依頼者の同意を書面にしておく
3 相反が顕在化していない間は、利益相反の状況にあっても受任は可能
では、依頼者どうしの利害が反対になりうる事件は、一切受任できないのでしょうか。ここからは、受任の時点と、相反が現実のものになった後とに分けて見ていきます。まず受任の時点です。
(1)遺産分割で一方のグループの2名からの受任→可能
分かりやすいのは遺産分割の場面です。相続人が2つのグループに分かれて争っているときに、1つのグループに属する2名から遺産分割手続の依頼を受けられるか、という問いの立て方になります。実務の解説書は、次のように述べています。
2名の依頼者が利益相反の状況にあることは認めたうえで、受任そのものは可能である、という答えです。線が引かれているのは、その利益相反が「顕在化」したかどうかです。以下では、この解説書の言葉にならって、依頼者どうしの利害の反対が現実のものになることを「顕在化」と呼びます。
相続人2名から遺産分割手続の依頼→受任は可能
例えば、相続人が2つのグループに分かれて争っている場合に、1つのグループに属する2名から遺産分割手続の依頼を受けることはできるかという点については、2名の依頼者が利益相反の状況にあるといえますが(民826II参照)、受任は可能で、ただし、依頼者の利益相反が顕在化したときは、弁護25条1号及び職務基本規程27条1号に抵触するとする見解が有力です(総合文献①「解説弁護士職務基本規程」91頁)。
※京野哲也・林信行/編著 中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実/著『Q&A 若手弁護士からの相談374問』日本加除出版2019年 4月p243
(2)民法826条2項=親権者と数人の子の利益相反は特別代理人の選任(参考)
なお、上の解説書が参照として挙げているのは、親権者と子の間の利益相反を定めた民法の規定です。
親権を行う者が数人の子について親権を行う場面では、法は特別代理人の選任という手当てを置いています。弁護士が複数の依頼者から受任する場面について弁護士職務基本規程28条3号が置いているのは、ただし書の同意による例外だけです。
民法826条2項(利益相反行為)
親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
※民法826条2項
4 顕在化した後は、依頼者の同意によっても職務を続けられない(有力説)
受任が可能だとしても、そのまま最後まで進められるとは限りません。同じ解説書は、顕在化した場合について次のように続けています。
利益相反の顕在化→同意があっても許されない(28条3号とする別説あり)
この見解を前提とすれば、利益相反状態が顕在化した場合は、依頼者の同意があっても許されません(このような場面は、職務基本規程28条3号の問題であり同意があれば許されるとする見解もありますが、弁護士は、依頼者との信頼関係が無ければ真に依頼者の利益になる職務はなし得ないと思われ、利益相反が顕在化した際には、辞任すべきでしょう)。
※京野哲也・林信行/編著 中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実/著『Q&A 若手弁護士からの相談374問』日本加除出版2019年 4月p243
ここには2つの見解が並んでいます。有力説は、顕在化すると弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程27条1号に抵触するとします。いずれも、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件を対象とする条文です。
弁護士法25条のただし書が同意による例外を認めているのは3号と9号だけで、1号は入っていません。弁護士職務基本規程27条のただし書も同じで、同意による例外は3号だけです。有力説によれば、顕在化した場面は同意で解ける号ではないところへ落ちることになります。
これに対して、この場面は弁護士職務基本規程28条3号の問題であり、同意があれば許されるとする見解もあります。前述の引用は、この見解を挙げたうえで、弁護士は依頼者との信頼関係が無ければ真に依頼者の利益になる職務はなし得ないとして、顕在化した際には辞任すべきであるとしています。
顕在化した場合に有力説が挙げる条文(弁護士法25条1号・弁護士職務基本規程27条1号)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
※弁護士法25条
相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
※弁護士法25条1号
相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
※弁護士職務基本規程27条1号
5 弁護士職務基本規程28条ただし書によっても、相反する側の依頼者の同意は得られない
上の対立は、顕在化した場面ではもう一段のところで決着します。同じ解説書は、顕在化した場面そのものを取り上げた設問を、続けて置いています。
共同受任した兄弟の一方から解任→他方の代理人も辞任
兄弟であるA、Bの委任を受けて他の相続人Cとの交渉をしていたところ、Aとの関係が悪化してAから代理人を解任されました。
Bは、代理人としてCとの交渉を続けてほしいと言っており、代理人を続けたいと思うのですが続けても大丈夫でしょうか。
A
続けることはできませんので、Bの代理人も辞任することとなります。
※京野哲也・林信行/編著 中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実/著『Q&A 若手弁護士からの相談374問』日本加除出版2019年 4月p243〜244
この設問に対する解説は、次のとおりです。
弁護士職務基本規程28条3号のただし書は、その依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合に例外を認めるものです。したがって、28条3号の問題だとする見解に立っても、相反する側の依頼者から同意を得られなければ例外は働きません。関係が悪化して解任された依頼者から同意を得ることは、通常は期待できません。
見解の対立がどちらであっても職務を行い得ない、という結論になるのはこのためです。同意で解ける道を選んでも、その同意が現実には取れないという形で閉じます。
28条ただし書によっても→相反する依頼者の同意は得られない
本設問はまさに依頼者の利益相反が顕在化したときに当たります(§250参照)。
したがって、弁護25条1号及び職務基本規程27条1号に抵触するとする見解が有力です。
この見解を前提とすれば、利益相反状態が顕在化した以上は、依頼者の同意があっても受任の継続は許されないこととなります。
なお、職務基本規程28条ただし書によっても、利益の相反するAの同意を得ることはできないと考えられますので、この点でも職務を行い得ないこととなります。
※京野哲也・林信行/編著 中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実/著『Q&A 若手弁護士からの相談374問』日本加除出版2019年 4月p244
6 潜在的な状況から顕在化へ|受任時の説明(32条)と顕在化後の措置(42条)
ここまでは、受任してよいか、続けてよいかという問いでした。受任してから顕在化するまでの間に何をしておくべきかは、別の条文が定めています。
弁護士の懲戒例を分析した書籍は、3兄弟の相続をめぐる事例を挙げています。当初は兄との交渉で利害が一致していた弟2人の間に、追徴課税の交渉を受けた段階で対立が生じた、という経過です。
この事例で問われたのは2つで、どちらも弁護士職務基本規程の条文が名指しされています。受任にあたっての不利益事項の説明(32条)と、顕在化した段階での辞任等の適切な措置(42条)です。
潜在的状況から顕在化へ→受任時の不利益事項の説明(32条)と顕在化後の辞任等の措置(42条)
D㉟は、3兄弟の相続案件について、弟2人から兄との紛争解決を受任した弁護士が、さらに相続の追徴課税に関する国税庁との交渉を受任するに当たり、弟2人に利益相反があるのに、職32条の不利益事項の説明をしていないとし、また、弟2人の利益相反が現実化した段階で、職42条の辞任等の適切な措置を採らずに漫然と弟2人の代理業務を継続したとし、懲戒審査相当とした。
同一事件で複数の依頼者間に利害対立のおそれがある事例であり、2人の弟が当初は兄との交渉に関し利害が一致し利益相反の潜在的状況にあったが、相続の追徴課税が被相続人から上の弟の妻に対する多額の送金に関するものであり、2人の弟間の利益相反が顕在化したものである。
※溝口敬人(弁護士)、清水俊順(弁護士)、藤川和俊(弁護士)著『弁護士懲戒の状況と分析』新日本法規出版2023年 8月p160
7 顕在化時の辞任の事前説明と、辞任時の弁護士報酬の清算を書面にしておく
受任はできるが、顕在化すれば辞任することになる——この2つを前提にすると、受任の時点で決めておくことが出てきます。同じ解説書は、受任が許されるとして何に留意すべきかを、続けて述べています。
挙げられているのは3つです。顕在化したときには辞任せざるを得ない旨を事前に十分に説明しておくこと、辞任する場合の弁護士報酬の清算を明確に定めておくこと、そしてこれらについて事前に書面を作成し、依頼者の同意を書面にしておくことです。
2つめの弁護士報酬の清算が入っているのは、辞任が事件の途中で起きるためです。着手金を受け取ったまま事件を離れることになるので、そのときにどう清算するのかを決めていないと、依頼者との間に新たな争いが生まれます。
受任するときに書面にしておくこと
この点については、のちの依頼者との対立を避けるためにも、利益相反が顕在化したときには辞任せざるを得ない旨、事前に十分に説明しておくことは必須となります。
また、辞任する場合には、弁護士報酬の清算等が問題となる可能性が高いため、その点についても、明確に定めておくべきでしょう。
そしてこれらの点については、事前に書面を作成して、依頼者の同意を書面にしておくことが望ましいでしょう。
※京野哲也・林信行/編著 中川佳男・山田圭太・花房裕志・佐々木久実/著『Q&A 若手弁護士からの相談374問』日本加除出版2019年 4月p243
8 おわりに
依頼者が複数いる事件で問われるのは、受任してよいかと、受けたあとどうするかの2つです。顕在化していない間は受任でき、顕在化した後は同意があっても続けられません。
境目は顕在化です。そこを越えたら辞任することになるので、受任の時点で、顕在化したら辞任する旨と、そのときの弁護士報酬の清算を書面にしておくことが要ります。
受任にあたって不利益事項を説明しなかったこと、顕在化した後に適切な措置を採らなかったことは、どちらも懲戒の手続で問われています。規律は受任の可否だけに掛かっているのではありません。
どのような場面が利益相反にあたるのか——資金の食い合いと主張の食い違い——は、別の記事で説明しています。
依頼者相互間の利益相反にあたる場面|資金の食い合いと主張の食い違い
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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