東京高判昭和50年1月30日|やむを得ない事情で地域外に執務→20条違反でも登録換の進達拒絶事由に当たらない
1 東京高判昭和50年1月30日|やむを得ない事情で地域外に執務→20条違反でも登録換の進達拒絶事由に当たらない
所属弁護士会を移りたい。ところが移転先の弁護士会が三か月たっても手続を日弁連へ送ってくれない。理由として挙げられたのは、届け出た事務所で執務していないこと、過去の罰金刑を履歴書に書かなかったこと、受任事件の処理に問題があったことでした。この拒絶は認められるのでしょうか。
本記事では、東京高裁がこの拒絶を違法として裁決を取り消した判断を、判決文にそくして説明します。弁護士法20条の違反があることは認めながら、それを理由に登録換えを拒むことはできないとした二段構えが要点です。
法律事務所を所属弁護士会の地域内に設ける義務は、別の記事で説明しています。
二つ以上の法律事務所を設けることの禁止は、別の記事で説明しています。
弁護士法20条3項|複数事務所の禁止と法律事務所の単一性の判断基準
2 結論——登録換えの許否は、認容が特に弊害を生む虞があるかで判断
この判決から取り出せる規範をまとめます。いずれも後述の各節で判決文を挙げて説明します。
判決が明示した規範
(ア)登録換の請求の場合には、新規登録の請求の場合と異なり、請求人の弁護士たる資格そのものが問題になるわけではないから、弁護士法12条の規定する弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞があるか否かを判断するにあたっては、登録換の請求を認容することが特にそのような弊害を生ずる原因となる虞があるか否かを基準とすべきである(イ)そうでなければ、登録換の請求に対する許否が懲戒処分的色彩を帯びることとなって、制度の趣旨を逸脱し、妥当を欠くことになる(ウ)二重事務所の設置を禁止した規定の実質的な理由は、弁護士が二箇以上の法律事務所を設置して法律事務の執務を行えば、責任の所在が不明確となり、ひいては非弁護士と提携する弊害を招く虞があることに存する(エ)届出をした法律事務所では全然執務できず、転居もやむを得ない生活事情によるもので、しかも執務に当るようになってから間もなく登録換を請求しているときは、形式的に弁護士法20条の規定に違反するとしても、その実質的な違法性は軽微である(オ)登録を請求する際に提出する履歴書は、欠格事由の有無を確認するにとどまるものではなく、弁護士会が入会すべき弁護士の身上に関する重要な事項を把握し指導監督に遺憾のないことを期するうえに必要なため提出させるものであるから、罰金刑に処せられた事実のような身上に関する重要事項は洩れなく記載すべきである(カ)和解をなす権限を有し、和解もやむを得ないと判断していたとしても、依頼者が和解の内容に納得していないことを知り、または当然知り得べきであったときは、事件の見とおし及び和解の内容の合理性について充分説明し、その納得を得たうえで和解を成立させるべきである(キ)登録換の請求を拒絶して執務に制約を加えることが弁護士法20条違反の状態を継続せしめることとなるときは、かえって認容するよりも一層弁護士会の秩序若しくは信用を害する結果を招く虞が大きいともいうことができる
3 事案——再登録後に届出事務所で執務できず関西へ転居、第2回の登録換請求が未進達
この弁護士は昭和31年に登録を取り消されたあと、昭和37年8月に再登録して東京の弁護士会に入会し、友人の法律事務所内に事務所を置く旨の届出をしました。ところがその事務所は事実上閉鎖されていて執務ができず、同年12月末に神戸へ転居します。以後は大阪府・兵庫県内の住所で法律事務を扱い、看板も掲げず事務員も置かず、知人の紹介で事件を受任していました。
昭和39年8月の第1回の登録換請求は拒絶され、審査請求も棄却されました。昭和44年10月の第2回が本件で、移転先の弁護士会が3か月を経ても日弁連へ進達しなかったため、弁護士法12条4項により拒絶されたものとみなして審査請求をしたところ、これも棄却されました。その裁決の取消訴訟です。
日弁連が棄却の理由として挙げたのは三つです。二重事務所設置禁止の違反、再登録の際の履歴書に罰金刑の事実を記載しなかったこと、そして受任事件の和解の処理です。判決はこの三つを順に検討しています。
4 判示|形式的に弁護士法20条違反でも、本件の事情のもとでは実質的な違法性は軽微
まず二重事務所です。東京高裁は、届出をしながら関西の住所で執務していたのだから、事務所を設置すべき場所を地域的に制限し二重事務所の設置を禁止した弁護士法20条の規定に違反したことは否定できないとしました。そのうえで、禁止の実質的な理由にさかのぼって違法性の重さを量り、本件では軽微だと結論しています。以下、順に見ていきます。
判示=20条違反はあるが実質的な違法性は軽微
先ず(一)の点について、原告は昭和三七年八月弁護士の再登録をして甲弁護士会に入会し、東京都内に法律事務所を設置した旨の届出をしながら、同年一二年末神戸市に転居し、以後大阪府及び兵庫県下の住所において法律事務の執務をしていたものであるから、法律事務所を設置すべき場所を地域的に制限し、かつ二重事務所の設置を禁止した弁護士法第二〇条の規定に違反したものであることは否定できないところである。しかし、右禁止規定の実質的な理由は、弁護士が二箇以上の法律事務所を設置して法律事務の執務を行えば、責任の所在が不明確となり、ひいては非弁護士と提携する弊害を招く虞があることに存するものと解されるところ、前記認定の事実によれば、原告は甲弁護士会に入会後届出をした法律事務所においては全然執務できなかつたのであり、原告が大阪近辺に転居したのもやむを得ない生活事情によるものと考えられ、しかも、大阪近辺で法律事務の執務に当るようになつてから間もなく、乙弁護士会に登録換の請求をしているのであるから、たとえ原告の行為が形式的に弁護士法第二〇条の規定に違反するとしても、その実質的な違法性は軽微というべきである。第一回目の登録換の請求が拒絶された以上は、東京の届出事務所において執務すべきであるとの被告の見解にも一理あることは否定できないが、右見解は原告に対し再度東京に転居することを要求するに等しいものであり、原告の生活事情に照らし酷に過ぎるものというべきである。従つて右事由をもつて原告の本件登録換の請求を認容することが弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞があるとする被告の主張は採用できない。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
(1)禁止の実質的な理由=責任の所在が不明確となり非弁護士と提携する弊害を招く虞
判決は二重事務所禁止の実質的な理由を、弁護士が二箇以上の法律事務所を設置して法律事務の執務を行えば、責任の所在が不明確となり、ひいては非弁護士と提携する弊害を招く虞があることに存すると述べました。条解弁護士法が複数事務所禁止の趣旨を説明するときに引くのは、この部分です。
(2)届出事務所で執務できず、転居はやむを得ない生活事情、転居後間もなく登録換請求
この理由を本件に当てはめると、届出をした法律事務所では全然執務できなかったこと、関西へ転居したのもやむを得ない生活事情によると考えられること、しかも執務を始めてから間もなく登録換えを請求していることが挙がります。判決は、形式的に20条違反であってもその実質的な違法性は軽微だとしました。
(3)第1回の拒絶後は東京の届出事務所で執務すべきという主張は生活事情に照らして酷
日弁連は、第1回の登録換請求が拒絶された以上は東京の届出事務所で執務すべきだと主張していました。判決は、その見解にも一理あることは否定できないとしながら、それは再度東京へ転居することを要求するに等しく、生活事情に照らし酷に過ぎるとしました。
5 判示|履歴書には欠格事由だけでなく、罰金刑に処せられた事実も洩れなく記載すべき
次に履歴書です。この弁護士は、罰金刑は弁護士の欠格事由に当たらないので記載の必要がないと考えたと弁解していました。
東京高裁は、登録を請求する際の履歴書は欠格事由の有無を確認するにとどまるものではなく、弁護士会が入会すべき弁護士の身上に関する重要な事項を把握し、指導監督に遺憾のないことを期するうえで必要なため提出させるものだと述べ、罰金刑に処せられた事実のような身上に関する重要事項は洩れなく記載すべきだとして、弁解を失当としました。
判示=履歴書の記載義務の範囲
次に(二)の点について、原告は、罰金刑に処せられた事実を履歴書に記載しなかつた理由として、右事実は弁護士の欠格事由に該当しないので記載する必要がないものと考えた旨弁解しているが、弁護士の登録を請求する際に提出する履歴書は、それによつて単に弁護士としての欠格事由の有無を確認するにとどまるものでなく、弁護士会において同会に入会すべき弁護士の身上に関する重要な事項を把握し、指導監督に遺憾のないことを期するうえに必要なため提出させるものであるから、欠格事由の有無のみならず、罰金刑に処せられた事実のごとき身上に関する重要事項は洩れなく記載すべきものであつて、原告の右弁解は失当であるといわなければならない。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
6 判示|和解の権限があっても依頼者の納得を得ずに成立させたのは遺憾な点
三つ目は受任事件の和解です。東京高裁は、和解の権限が与えられていたこと、事件の処理を一任されていた監査役と相談して承諾を得ていたこと、目的物件が後に競売され依頼者に返還されるべき残額が全然なかったことからみて和解が必ずしも不利益ではなかったと考えられること、この三点については一応主張を肯認できるとしました。
しかし依頼者が示談金の額に不満の意を表していたのだから、法律上の権限があり和解もやむを得ないと判断していたとしても、依頼者の信頼に応え誠実に職務を行うべき弁護士としては、事件の見とおしと和解内容の合理性を充分説明し納得を得たうえで成立させるべきだったとして、説明を尽くさず和解の席に立会させなかったことを受任事件の処理につき遺憾な点だとしました。
判示=和解の処理についての遺憾な点
しかし、右和解に先ち、竹田外次郎が原告及び加藤恭次郎に対し、示談金は一〇〇〇万円以上にするよう株式会社千代田工業所と折衝するように告げ、同会社の提案した和解の内容に不満の意を表していたのであるから、たとえ原告が法律上和解の権限を有し、かつ示談金五五〇万円で和解するのもやむを得ないと判断していたとしても、依頼者の信頼に応え、誠実にその職務を行うべき弁護士としては、竹田外次郎に対し、事件の見とおし及び和解の内容の合理性について充分説明し、その納得を得たうえで和解を成立させるべきであつたといわなければならない。しかるに原告は、竹田外次郎が和解の内容に納得していないことを知り、または当然知り得べきであつたにも拘らず、和解の成立を急ぐ余り、竹田外次郎に対して説明を尽さないばかりか、和解の席上に同人を立会させないで和解を成立させ、同人をして右和解に不満の念を抱かせたことは、弁護士として受任事件の処理につき遺憾な点があつたといわなければならない。また、右和解成立後原告が取得した報酬の点についても、その額の当否は別として、依頼者の充分な納得が得られていなかつたため、後に加藤恭次郎から一部の返還を求められる事態を招いたものであつて、弁護士の社会的信用にとつて好ましくない出来事というべく、原告にとつて反省を要するものと考えられる。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
7 判示|登録換えの許否は、認容が特に弊害を生む原因となる虞があるかが基準
ここが本判決の中心です。東京高裁は、履歴書と和解の点について弁護士としての社会的信用にかかわる遺憾な点がなかったとはいえないとしながら、それが登録換えの請求を拒絶すべき事由になるかは別の考慮が必要だと述べました。
理由は、登録換えの請求では新規登録の場合と異なり請求人の弁護士たる資格そのものが問題になるわけではない、という点です。そこから、弁護士法12条の「弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞」があるかを判断するにあたっては、登録換えを認容することが特にそのような弊害を生ずる原因となる虞があるか否かを基準とすべきだとしました。そうでなければ、許否が懲戒処分的色彩を帯び、制度の趣旨を逸脱して妥当を欠くことになるからです。
判示=登録換えの許否の判断基準
以上のとおり、(二)及び(三)の点において原告に弁護士としての社会的信用にかかわる遺憾な点がなかつたとはいうことができない。しかし、右の事実が原告の本件登録換の請求を拒絶すべき事由たり得るか否かつにいては、更に別の考慮が必要である。即ち、登録換の請求の場合には、新規登録の請求の場合と異り、請求人の弁護士たる資格そのものが問題になるわけではないから、弁護士法第一二条の規定する弁護士会の秩序若しくは信用を害する虞があるか否かを判断するに当つては、登録換の請求を認容することが特に右のような弊害を生ずる原因となる虞があるか否かを基準とすべきものと解すべきである。けだし、もし然らずとすれば、登録換の請求に対する許否が懲戒処分的色彩を帯びることとなつて、制度の趣旨を逸脱し、妥当を欠くことになるからである。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
8 判示|拒絶は20条違反の状態を継続させる→認容するより一層害を招く虞が大きい
この基準を本件に当てはめます。東京高裁は、やむを得ない生活事情で関西へ転居したこと、東京では業務に成功の見込みがなく転居の意思も執務の意思もないこと、経歴と知人関係からも関西のほうが活動分野が大きいこと、移転先の弁護士会所属の相当数の弁護士が請求を支持していることを挙げました。
そのうえで、拒絶して関西での執務に制約を加えることは20条違反の状態を継続させることとなり、かえって認容するより一層弁護士会の秩序若しくは信用を害する結果を招く虞が大きいともいえるとしました。履歴書と和解の点も今後の自省による是正を期待できないわけではなく、むしろ認容して移転先の弁護士会の監督指導に遺憾のないことを期し、弁護士としての更正を期待することが弊害発生の害を少なくする、というのが結論です。
判示=あてはめ(拒絶はかえって害が大きい)
本件においては、前記のごとく、原告はやむを得ない生活事情のもとに大阪近辺に転居したものであり、また、東京においては弁護士としての業務に成功の見込がなく、そのため、原告は現在東京に転居する意思も、また東京で法律事務に従事する意思もなく、原告の経歴及び知人関係からみても、東京よりは大阪近辺において弁護士としての活動分野が大きいことも明らかであり、しかも現在乙弁護士会所属の相当数の弁護士が原告の登録換の請求を支持していることが認められるのである。この際、原告の本件登録換の請求を拒絶することにより、原告の大阪近辺での法律事務の執務に制約を加えることはさきに(一)の点として述べた弁護士法第二〇条違反の状態を継続せしめることとなり、却つて登録換の請求を認容するよりも一層弁護士会の秩序若しくは信用を害する結果を招く虞が大きいともいうことができるのであつて、さきに(二)及び(三)の点として述べたような事実についても、原告の今後の自省によつてこのような過を是正することを期待できないわけではなく、むしろこの際原告の乙弁護士会に対する登録換の請求を認容し、原告に対する同弁護士会の監督指導に遺憾のないことを期するとともに、原告の弁護士としての更正を期待することが、弊害発生の害を少くする所以であるというべきである。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
9 主文——審査請求棄却の裁決を取消し
東京高裁は、日弁連がした審査請求棄却の裁決を取り消しました。
主文
被告が昭和四七年一〇月一九日原告に対してなした審査請求棄却の裁決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
※東京高等裁判所 1975-01-30 行集 26巻1号87頁/東高民時報 26巻1号9頁/判タ 326号235頁
10 決めていないこと——20条違反がどこまでなら軽微かの線と、新規登録での扱い
この判決は、弁護士法20条違反がどこまでなら実質的違法性が軽微になるかという線を示していません。本件は届出事務所で執務が不可能だったこと、転居がやむを得ない生活事情によること、転居後間もなく登録換えを請求していることが重なった事案で、そのうえでの評価です。
また、判断基準は登録換えの場合について述べられたもので、新規登録の請求ではどうかは述べていません。判決はむしろ、登録換えでは資格そのものが問題にならない点で新規登録と異なると明示しています。
11 おわりに
本記事では、やむを得ない生活事情で所属弁護士会の地域外で執務していた弁護士の登録換えを拒絶した裁決を、違法として取り消した判決を説明しました。20条違反があることは認めながら、登録換えの許否は認容が特に弊害を生む原因となる虞があるかで判断すべきだとし、拒絶がかえって違反状態を継続させることを指摘した点が、この判決の形です。
法律事務所を所属弁護士会の地域内に設ける義務は、別の記事で説明しています。
二つ以上の法律事務所を設けることの禁止は、別の記事で説明しています。
弁護士法20条3項|複数事務所の禁止と法律事務所の単一性の判断基準
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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