東京高判昭和32年2月12日|所属弁護士会の地域外の自宅で業務・会費2年余の滞納→退会命令は正当

1 東京高判昭和32年2月12日|所属弁護士会の地域外の自宅で業務・会費2年余の滞納→退会命令は正当

所属する弁護士会の地域内に法律事務所を置かず、地域外の自宅を拠点に弁護士の仕事を続けた。あわせて会費も納めないままにしていた。このとき弁護士会は、その人を会から退会させることができるのでしょうか。

本記事では、東京高裁がこの退会命令を正当とした判断を、弁護士法20条違反と会費の不納付のそれぞれについて、判決文にそくして説明します。懲戒委員会が三度にわたって履行の機会を与えていた経過が、処分の重さの判断に効いています。

法律事務所とは何か、という解釈そのものは、別の記事で説明しています。

弁護士法の『法律事務所』の意味と判断基準

二つ以上の法律事務所を設けることの禁止は、別の記事で説明しています。

弁護士法20条3項|複数事務所の禁止と法律事務所の単一性の判断基準

2 結論——地域外の自宅を拠点とする業務と会費の滞納は、あわせて退会命令に値する非行

この判決から取り出せる規範をまとめます。いずれも後述の各節で判決文を挙げて説明します。

判決が明示した規範

(ア)所属弁護士会の会員でありながら、その地域内に法律事務所を設けることなく、地域外に事実上の事務所を有して法律事務を取り扱ったときは、弁護士法20条に違反する(イ)弁護士会の経済的運営は会員の納付する会費で行われるから、会費の納付は会員の重要な義務である(ウ)再三の督促を無視して2年有余にわたり会費の納付を怠ることは、弁護士会の秩序と信用を害し、弁護士の品位を失う非行である(エ)これらの所為は弁護士法56条1項により懲戒に値する(オ)懲戒委員会が相当の審議を尽くし、再度反省を促し、義務を履行するよう十分な期間を提供したにもかかわらず履行されなかったときは、退会処分は関係弁護士会の秩序と信用の維持のためやむを得ない措置であって、著しく裁量を誤ったものとは認められない

3 事案——長野県弁護士会の会員が静岡県内の自宅を拠点に業務、会費は2年余の滞納

この人は長野県弁護士会に所属する弁護士でしたが、昭和27年5月以後、静岡県駿東郡裾野町の自宅を活動の中心として法律事務を扱っていました。静岡地方裁判所沼津支部などに出廷し、自宅で事件の委任を受けて手数料や保証金を受領していたことが認定されています。

会費については、日本弁護士連合会の会費を昭和27年10月以降、長野県弁護士会の会費を昭和28年2月以降納めていませんでした。次の枠は、その滞納についての認定です。

会費の滞納についての認定

三、被告が、原告主張の(一)の(3)につき、原告の滞納した弁護士会費の内容として認定したところは、
(イ) 日本弁護士連合会費一ケ月金二百円宛(但し昭和二十九年四月以後は金三百円宛)を、昭和二十七年十月以降納付しないこと
(ロ) 長野県弁護士会費一ケ月金二百円宛(但し昭和二十九年四月以後は金三百円宛)を、昭和二十八年一月分残額金百八十円と同年二月以降の分を納付しないこと
の二点にあることは、前記乙第一、二号証によつて明白で、原告が長野県弁護士会長より再三の督促を受けたのに拘らず二年有余にわたり依然かかる滞納を続けて来たことは成立に争のない乙第九号証の一ないし六によりこれを認定するに十分である。

※東京高等裁判所 1957-02-12 行集 8巻2号297頁

4 判示|地域外に事実上の事務所を有して法律事務を取り扱う→弁護士法20条違反

まず弁護士法20条です。東京高裁は、所属する長野県弁護士会の会員でありながら、同県内に法律事務所を設けることなく、かえって地域外である静岡県内に事実上の事務所を有して法律事務を取り扱ったものというべきだとして、20条に違反する所為であることは言うまでもないとしました。

判示=地域外に事実上の事務所を有して法律事務を取り扱った

原告が、昭和二十七年五月以後前記裾野町の自宅を活動の中心として法律事務を営んでいたことは前段に認定したとおりであるから、原告は長野県弁護士会の会員でありながら、同県内に法律事務所を設けることなく却て地域外なる静岡県内に事実上の事務所を有して法律事務を取り扱つたものというべきで、原告主張の(一)の(1)、(2)は正に弁護士法第二十条に違反する所為であること言うをまたない。

※東京高等裁判所 1957-02-12 行集 8巻2号297頁

5 判示|再三の督促を無視した2年余の会費滞納→弁護士の品位を失う非行(56条1項)

次に会費です。東京高裁は、不納付が日弁連および長野県弁護士会の各会則・会規に違反することを確認したうえで、弁護士会の経済的運営は会員の納付する会費で行われるのだから会費の納付は会員の重要な義務だと述べました。

そのうえで、再三の督促を無視して2年有余にわたり会費の納付を怠ることは、弁護士会の秩序と信用を害し、弁護士の品位を失う非行だとして、地域外の業務とあわせて弁護士法56条1項により懲戒に値するとしています。

判示=会費の不納付と弁護士法56条1項

又、原告主張の(一)の(3)は日本弁護士連合会の会費の納付を規定した同会会則第九十五条、長野県弁護士会の会費の納付を規定した同弁護士会会則第九十七条、同会会規第三十八条及び旧同会規第三十七条に違反する行為であることは疑のないところである。(右各会則、会規の存在することは当裁判所に顕著である。)思うに、弁護士が、所属弁護士会の地域内に事務所を設けることは、会の秩序と信用を維持する上に極めて必要であるのみならず、弁護士会の経済的運営は、一般に、所属会員の納付する会費を以て行われるものであるから、会費の納付は会員の重要な義務に属するものと言はざるを得ない。殊に、さきに認定したとおり、会員が再三の督促を無視して二年有余にわたつて会費の納付を怠ることは、弁護士会の秩序と信用を害し、弁護士の品位を失う非行であると認むべきであるから、原告の前記(一)の(1)ないし(3)の所為は弁護士法第五十六条第一項により懲戒に値いするものというべきである。

※東京高等裁判所 1957-02-12 行集 8巻2号297頁

6 判示|三度の懲戒委員会で履行の機会を与えた経過→退会命令は裁量を誤っていない

最後に処分の重さです。この人は退会命令を過重で苛酷だと主張していました。判決は、懲戒委員会が三度開かれ、一度目は事務所の移転と滞納金の納付を勧告し、二度目は本人が月末までの完納を誓約したので経過を見ることとし、三度目にそれも実行されなかったため退会を相当と議決した、という経過を認定しています。

そのうえで、相当の審議を尽くし、再度反省を促し、義務を履行するよう十分な期間を提供したにもかかわらず実行されなかったのだから、退会処分は関係弁護士会の秩序と信用の維持のためやむを得ない措置であり、著しく裁量を誤ったものとは認められないとしました。

判示=退会処分は裁量を誤っていない

以上の経過に徴すれば、被告が本件懲戒処分をするまでには、相当審議を尽し、原告に対しても再度反省を促し、進んで義務を履行するよう十分な期間を提供して来たにも拘らず、原告は口に善処を約しながら、何等理由もなくこれを実行しなかつたため被告はついに前記退会処分をするに至つた事情が明瞭であるから、右処分は関係弁護士会の秩序と信用の維持のため誠にやむを得ない措置であると認めざるを得ない。又、本件事案に対する処分としても著しく裁量を誤つたものと認むるを得ないから、被告のなした右退会処分は正当というの外はない。

※東京高等裁判所 1957-02-12 行集 8巻2号297頁

7 主文——請求棄却

東京高裁は、懲戒処分の不当を理由とする請求を排斥しました。

主文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

※東京高等裁判所 1957-02-12 行集 8巻2号297頁

8 決めていないこと——20条違反だけで退会命令が相当になるかの線

この判決は、弁護士法20条違反だけで退会命令が相当になるかを決めていません。本件は地域外での業務と2年余の会費滞納が併せて認定され、しかも三度の履行の機会が与えられた事案で、そのうえでの裁量判断です。どちらか一方だけならどうか、滞納がどれだけ続けば非行になるかという線は示していません。

9 おわりに

本記事では、所属弁護士会の地域外の自宅を拠点に業務を行い、会費を2年余滞納した弁護士への退会命令を正当とした判決を説明しました。弁護士法20条違反と会費の不納付が、それぞれ56条1項の懲戒事由として評価されています。

法律事務所とは何か、という解釈そのものは、別の記事で説明しています。

弁護士法の『法律事務所』の意味と判断基準

二つ以上の法律事務所を設けることの禁止は、別の記事で説明しています。

弁護士法20条3項|複数事務所の禁止と法律事務所の単一性の判断基準

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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