最判昭和36年4月27日|未登記を知りつつ復讐の意図で低廉に買い受けた二重売買→民法90条で無効
1 最判昭和36年4月27日|未登記を知りつつ復讐の意図で低廉に買い受けた二重売買→民法90条で無効
山林を買ったが登記をしないまま 20 数年が過ぎた。その事情をよく知っている者が、売主の相続人から同じ山林を安く買い受けて登記まで済ませてしまう。この二度目の売買は有効なのでしょうか。
本記事では、最高裁がこの売買を公の秩序、善良の風俗に反して無効とした判断を、民法90条の無効を裁判所が当事者の主張なしに判断できるとした部分まで含めて、判決文にそくして説明します。
当事者が主張しない一般条項について裁判所が判断できるかという論点の側は、別の記事で説明しています。
信義則・権利濫用・公序良俗と弁論主義|主張なしでも判断可→釈明は必要
2 結論——熟知・復讐の意図・低廉な価格での二重売買は公序良俗に反して無効
この判決から取り出せる規範をまとめます。いずれも後述の各節で判決文を挙げて説明します。
判決が明示した規範
(ア)未登記のまま長年月を経た買主がいることを熟知しながら、別の紛争について復讐しようとして売主の相続人に売却を懇請し、低廉な価格で買い受けて登記を得た売買契約は、公の秩序、善良の風俗に反する行為であって無効である(イ)その売買が無効であるときは、買い受けた者は民法177条にいう「第三者」に該当しない(ウ)売買が無効である以上、処分禁止の仮処分が適法有効に取り消され、その後に所有権移転登記がされても、買い受けた者は所有権を取得するに由ない(エ)裁判所は、当事者が特に民法90条による無効の主張をしなくとも、同条違反に該当する事実の陳述さえあれば、その有効無効の判断をなしうる(オ)代金が著しく廉価であることだけを理由に横領の共謀となり公序良俗に反して無効となるのではない(カ)本訴と反訴とで請求原因を異にし訴訟物が同一とはいい難いときは、民事訴訟用印紙法4条の場合に当たらず、反訴に印紙の貼用を要する
3 事案——20数年未登記の買主/熟知した者が復讐の意図で低廉に買い受けて登記
買主は山林を買い受けて引渡しも受けましたが、登記をしないまま長い年月が過ぎました。その事情を十分に知っていた者が、買主との別の紛争について復讐しようと考え、売主の相続人にその意図を打ち明けて売却を頼み込み、低廉な価格で買い受けて登記を得ます。
この者は刑事訴追も受けました。買主は所有権移転登記などを求めて訴え、原審は二度目の売買を無効と判断しました。
4 判示|公序良俗に反して無効→買主は民法177条の「第三者」でない
最高裁は、原審の事実認定を肯認できないことはないとしたうえで、二度目の買主が売主の相続人と通謀して不動産の横領を企てたものというべきだとし、その売買契約は公の秩序、善良の風俗に反する行為であって無効を免れないとしました。したがってこの者は民法177条にいう「第三者」に該当しない、という原審の判断も正当だとしています。
判示一・二=公序良俗で無効・民法177条の「第三者」でない
しかし、本件山林を被控訴人(被上告人、原告)が買受け判示のごとく未登記のまま長年月を経過したこと、控訴人(上告人、被告)長野がこれを十分熟知しながら判示意図の下判示経緯で判示低廉な価格で買受け、判示仮処分に関する経緯の下で登記を得、その仮処分が判示のごとく回復されたこと、控訴人らが判示のごとく刑事訴追を受けたこと等に関する原判決の事実認定は、挙示の証拠並びに争のない事実を綜合すれば、これを肯認できないことはない。そして、その認定した事実関係の下において控訴人長野が大久保貞良と通謀の上本件不動産の横領を企てたものというべく、本件山林につき控訴人長野と貞良との間に締結された売買契約は、公の秩序、善良の風俗に反する行為であつて無効たるを免れない旨、並びに、従つて、控訴人長野は、民法一七七条にいわゆる「第三者」に該当しない旨の原判決の判断は、いずれもこれを正当として是認することができる。所論引用の判例は、すべて本件に適切でない。それ故、原判決には、所論の違法は認められない。
※最高裁判所 1961-04-27 民集 15巻4号901頁
5 判示|売買が無効なら、仮処分の取消し後に登記を得ても所有権を取得するに由ない
上告理由は、買主がした処分禁止の仮処分が取り消されたあとに登記を得たのだから所有権を取得したはずだ、とも述べていました。最高裁は、売買契約が無効である以上、仮処分が適法有効に取り消されその後に登記がされたとしても、所有権を取得するに由ないことは明らかだとしました。
判示三=無効なら登記を得ても所有権を取得しない
しかし、原判決は、本件山林についての大久保貞良と控訴人長野との間の判示売買契約が無効と認められること前叙説示のとおりであるから、仮に本件山林につき被控訴人のなした処分禁止の仮処分が適法有効に取り消され、その有効な取消後に貞良より控訴人長野への所有権移転登記がなされたとしても、控訴人長野は本件山林につきその所有権を取得するに由ないこと明らかであると判示しており、その判示は正当である。されば、所論は、原判決に影響を及ぼさない法令違背の主張に帰し、採るを得ない。
※最高裁判所 1961-04-27 民集 15巻4号901頁
6 判示|民法90条の無効は、主張がなくても該当事実の陳述があれば判断可
ここが本判決のもう 1 つの見どころです。上告理由は、代金が著しく廉価だという理由だけで横領の共謀とし公序良俗違反としたのは違法だ、と述べていました。最高裁はまず、原審は廉価だけを理由にしたのではないと退けます。
そのうえで、裁判所は当事者が特に民法90条による無効の主張をしなくとも、同条違反に該当する事実の陳述さえあれば有効無効の判断をなしうる、と述べました。本件では買主が一審以来、横領と仮処分に関する不法行為の主張をしていたので、違法はないとしています。
判示四=民法90条は主張がなくても事実の陳述で判断できる
しかし、原判決は、所論のごとく単に本件山林の代金が著しく廉価の故だけで横領の共謀となり公序良俗に反し無効だと認めたものでないことは、その判示に照し明白である。しかのみならず、裁判所は当事者が特に民法九〇条による無効の主張をしなくとも同条違反に該当する事実の陳述さえあれば、その有効無効の判断をなしうるものと解するを相当とする。そして、原告(被控訴人、被上告人)は、一審以来大久保貞良と被告長野は共謀の上本件不動産を横領して刑事訴追をうけその他原判示のごとき仮処分に関する不法行為をした旨の主張をしていることが明らかであるから、原審が判示事実認定の下にこれを公の秩序、善良の風俗に反し無効であると判断したからといつて、所論の違法あるということはできない。
※最高裁判所 1961-04-27 民集 15巻4号901頁
7 判示|訴訟物が同一でない反訴には印紙の貼用が必要(民事訴訟用印紙法4条)
最後の上告理由は訴訟費用についてでした。最高裁は、本訴と反訴は同一の不動産に関する請求ではあるが請求原因を異にし訴訟物が同一とはいい難いという原審の判断を正当とし、民事訴訟用印紙法4条の場合に当たらないので反訴に印紙の貼用を要するとしました。
判示六=反訴の印紙(民事訴訟用印紙法4条)
しかし、民事訴訟用印紙法四条は、「本訴ト反訴ト其目的カ同一ノ訴訟物ナルトキハ反訴ノ訴状ニ印紙ヲ貼用スルヲ要セス」と規定するところ、原判決は、本件反訴請求と本件本訴請求とは、同一の不動産に関する請求ではあるが、その請求原因を異にし且つ訴訟物すなわち審判の対象となる権利または法律関係が同一であるとはいい難い旨判示しており、その判示は正当として是認することができる。右の判示によれば、本件では右の法条の場合に当るものでないことは明白であるから、本件反訴には印紙の貼用を要するものとした原判決は正当であつて、所論の違法は認められない。
※最高裁判所 1961-04-27 民集 15巻4号901頁
8 主文——上告棄却
最高裁は上告を棄却しました。裁判官の全員一致の意見です。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
※最高裁判所 1961-04-27 民集 15巻4号901頁
9 決めていないこと——廉価だけで無効になるかの線
この判決は、代金が著しく廉価であることだけで公序良俗違反になるかを決めていません。原審が廉価だけを理由にしたのではないと確認しただけで、どこからが無効かという線は示していません。民法90条の判断を主張なしにできるとした部分についても、どこまで踏み込めるかは述べていません。
10 おわりに
本記事では、未登記の買主がいることを熟知しながら復讐の意図で低廉に買い受けた二重売買を公序良俗に反して無効とした判決を説明しました。民法90条の無効は当事者の主張がなくても該当事実の陳述があれば判断できる、とした部分は、一般条項と弁論主義の関係として読めます。
当事者が主張しない一般条項について裁判所が判断できるかという論点の側は、別の記事で説明しています。
信義則・権利濫用・公序良俗と弁論主義|主張なしでも判断可→釈明は必要
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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