【非上場株式の株価算定・評価:所得税・法人税における評価】
1 非上場株式の株価算定・評価:所得税・法人税における評価
非上場株式(未上場株式)の株価算定(評価)には、いろいろな評価方式があり、また、状況によって使う評価方式は異なります。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド
非上場株式の評価をする場面の1つが税務上の株価算定です。この点、相続税と贈与税に関しては、財産評価基本通達により財産の時価評価の方法について細かいルールが定められています。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)
相続税・贈与税以外の税目では、それぞれ独自の評価方式と判断基準が設けられています。本記事では、相続税・贈与税以外の税目における非上場株式評価の算定について説明します。
2 所得税法上の時価評価
(1)みなし譲渡課税での時価認定
個人が法人に対して非上場株式を譲渡する場合、対価が税務上の時価よりも著しく低い価額(時価の2分の1未満)となっているときは、所得税法59条により、時価と対価の差額についてみなし譲渡があったものとされます。この場合の税務上の時価は、所得税基本通達23から35共の9に算定方法が示されており、売買実例等がない場合には、原則として財産評価基本通達178から189の7に一定の条件を加えて株価算定を行います。
重要なのは、所得税基本通達59-6「株式等を贈与等した場合の『その時における価額』」における財産評価基本通達準用の修正点です。同通達では、譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の時価は、原則として財産評価基本通達178から189-7(取引相場のない株式の評価)の例により算定するとされています。株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって中心的な同族株主に該当するときは、当該発行会社は常に小会社に該当するものとして評価します。また、同族株主に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することが明文で定められています。
さらに、純資産価額方式での法人税等相当額の控除は行わないため、1株当たり純資産額は、原則的な算定結果よりも大きくなります。これは、個人が相続により非上場株式に係る資産を取得する場合との課税バランスを図るためです。
(2)個人間取引での時価の考え方
個人間での非上場株式取引においては、第三者間取引での時価認定が重要なポイントとなります。親族関係にない第三者間の取引であっても、その価額形成過程に問題がある場合には客観的交換価値とはいえず、財産評価基本通達によることを求められる可能性があります。
親族間取引では特に注意が必要で、贈与税の課税リスクが発生します。個人間の取引では著しく低い価額について具体的な数値基準を設けておらず、個別に、個々の取引の事情等を総合的に勘案し判断することになっています。実務上、相続税評価額(時価の80%程度)が直ちに「著しく低い」とは言えないという裁判所の判断がある一方で、それ以下の割合であれば該当する可能性が示唆されており、慎重な価格設定が求められます。
3 法人税法上の時価評価
(1)受贈益・寄附金認定での時価判定
法人が非上場株式を取得又は譲渡する場合の税務上の価額については、法人税基本通達9の1の14による法人税法上の時価によるとされるのが一般的です。この通達は、財産評価基本通達による方法を一部修正して適用するものです。
法人税基本通達9の1の14第1号によれば、当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合において、当該法人が当該株式の発行会社にとって中心的な同族株主に該当するときは、当該発行会社は常に小会社に該当するものとして評価します。ただし、所得税法とは異なり、同族株主の判定時期については明文の規定がないため、実務上は取引時点での判定が一般的です。
法人は常に時価取引を前提とするため、時価と譲渡価額の差額について受贈益として課税されます。特定の株主から株式を低額で取得し受贈益が計上されると、相対的に他の株主の株式の価値が増加することになるため、他の株主への課税関係も問題となります。
(2)低額譲渡・高額譲渡での課税関係
法人が資産を役員に対して譲渡した場合において、その対価が著しく低い場合とは、譲渡の時における通常の販売価額(時価)のおおむね50パーセントに相当する金額に満たない場合をいいます。この場合、売り手側では時価との差額が寄附金として課税対象となり、買い手側では時価との差額が受贈益となり課税対象となります。
法人税においては、低額譲渡に特定の許容範囲は存在せず、法人から個人への低額譲渡の場合、売主である法人は原則として時価で譲渡したものとみなされ、時価主義が厳格に適用されます。同族会社の行為計算否認の規定との関係では、経済的合理性に従って行動する主体として常に時価で取引を行うことを前提とした課税が行われます。
4 その他の税目での評価
(1)移転価格税制での独立企業間価格
移転価格税制は、国外関連者との間の取引を通じた所得の不公正な海外移転を防止するため設けられた制度です。国内の企業が国外関連者との取引を行った結果、独立した企業間で通常設定される取引価格(独立企業間価格)で行ったときと比べて利益が減少する場合に、その取引を独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算します。
海外子会社株式の評価方法選択においては、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法の基本三法と、取引単位営業利益法及び取引単位利益分割法のその他政令で定める方法があります。比較可能性分析の実務ポイントとして、純然たる第三者間における種々の経済性を考慮して定められた価額であることが重要です。
(2)国外財産調書での評価
国外財産調書における非上場株式の評価は、財産評価基本通達に準じた評価方法が用いられます。評価方法選択と実務上の取扱いでは、提出期限内に調書を提出することが税務調査を受けない可能性を高める有効な対策となります。
(3)消費税・登録免許税等での評価→不要
消費税においては株式の譲渡は非課税取引であるため、評価額の問題は基本的に生じません。登録免許税においても、非上場株式の名義変更等では評価額に基づく課税は行われないため、特別な評価方法は設けられていません。
5 税目間の評価方式の相違点と実務対応
(1)評価時点・評価方法の差異とその影響
各税目において評価時点が異なります。
相続税では相続開始時点、所得税では譲渡時点、法人税では事業年度末又は取引時点が基準となります。
この評価時点の違いにより、同一の株式であっても評価額に差異が生じる可能性があります。
(2)同族株主判定基準の違いと実務への影響
所得税基本通達59の6では、同族株主の判定を譲渡又は贈与直前の議決権により行うことが明文化されていますが、法人税基本通達9の1の14では判定時期が明確ではありません。この違いにより、同じ取引でも税目によって評価方式が変わる可能性があります。
(3)純資産価額方式での法人税等相当額控除の有無
相続税評価では評価差額に対する法人税等相当額(37パーセント)を控除しますが、所得税法上の時価算定では控除しません。法人税法上の評価でも原則として控除することになっており、この差異が評価額に大きな影響を与えます。
(4)複数税目にまたがる取引での評価方式統一の実務
複数の税目にまたがる取引では、それぞれの税目の評価方式に従って計算する必要があります。実務上は、最も厳しい評価方式を基準として取引価格を設定することで、各税目での課税リスクを最小化する戦略が採られることが多くあります。事前確認制度の活用や専門家への相談により、適切な評価方式の選択と統一的な取扱いを図ることが重要です。
本記事では、所得税・法人税の算定における非上場株式の株価算定・評価について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の株価算定・評価に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。