【財産分与(審判・訴訟)の中での抵当権設定:金銭支払の履行確保】

1 財産分与(審判・訴訟)の中での抵当権設定:金銭支払の履行確保

夫婦が離婚する時に財産分与として財産を清算します。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与の総合ガイド(法的理論・手続・実務上の問題の全体像)
要するに財産を分けるということですが、分け方にはいろいろな方法があります。
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)
離婚に伴う財産分与の中で、金銭を支払うことが含まれている場合、その後実際に支払いがなされるかという不安要素があります。そこで、不動産に抵当権(担保)を設定するという方法があります。合意で設定するのはもちろん可能ですが、家事審判や離婚訴訟において裁判所の判断として抵当権を設定するケースもあります。本記事ではこのような、財産分与としての抵当権設定について説明します。

2 財産分与における抵当権設定とは(前提)

抵当権設定とは、金銭支払いの確実な履行を担保するため、支払い義務者が所有する不動産に担保権を設定することです。万が一、財産分与として定めた金銭の支払いが滞った場合、担保となった不動産を競売にかけて債権回収を図ることができる仕組みです。

3 財産分与としての抵当権設定の可否

(1)学説における見解の対立

財産分与における抵当権設定については、学説上で見解が分かれています。
金銭の支払いを担保するために不動産に抵当権を設定することは裁判所の裁量としてできる、という肯定説が有力です。
一方、抵当権設定という手法を否定する学説もあります。
また、家事審判では否定、人事訴訟(離婚訴訟)では肯定、という見解もあります。理論的には、家事審判規則(現在の家事事件手続法に相当する)は「給付」を前提とした規定であるため、形成行為である抵当権設定の根拠にはならないが、人事訴訟法32条2項であれば根拠となり得る、という見解です。

(2)実務(採用した裁判例)

実務では、裁判所は、事案によって、抵当権設定を認めています。
東京地判平成11年9月3日では、「原告が平成○○年○月○○日に成立した家事調停に基づく婚姻費用の支払を一部怠っていること等を考慮し、右清算金の支払を担保するため、人事訴訟法15条2項により、原告の取得する本件マンションに抵当権を設定し、その旨の登記手続を命じる」として抵当権設定を命じました。
その他にも新潟家審昭和42年6月6日の事例があります。

(3)抵当権設定が認められる具体的状況の例

抵当権設定が認められやすい状況は、次のように整理できます。

<抵当権設定が認められる具体的状況の例>

過去に裁判所で取り決めた支払い義務を怠った履歴がある
金銭支払いの確実性に対する懸念がある(支払時期が離れている)
将来の退職金分与など将来時点での支払いを命じるケース
扶養的財産分与として定期的な金銭支払いを命じるケース
担保となる不動産が存在する

将来の退職金の分与や扶養的財産分与については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|将来の退職金の財産分与
詳しくはこちら|離婚後の生活費の支払(保障)が認められることもある(扶養的財産分与)

4 主文の記載例

裁判所が抵当権設定を採用した場合、主文の中に記載します。単独登記申請ができるように、給付命令も記載するのが通常です。

<主文の記載例>

原告は、被告に対する前項の支払を担保するために、被告に対し、別紙財産目録一記載の不動産に抵当権を設定し、抵当権設定登記手続をせよ。右登記費用は原告と被告の平等負担とする。

5 抵当権設定のメリット・注意点

(1)支払いの確実性向上

仮に支払義務者が支払いを怠った場合でも、担保不動産の競売により債権回収が可能となります。そこで、支払義務者としては、競売を避けるために、遅れずに支払がすることになるのが通常です。

(2)競売実行のコストとリスク

仮に抵当権を実行(競売をする)するとした場合、申立人(金銭を支払を受けていない側)が裁判所に競売の申立をする必要があります。不動産の競売では、申立人が数十万円の予納金を支払う必要があります(競売の完了後に戻ってきます)。
また、不動産価格の下落により、担保価値が債権額を下回るリスクもあります。

(3)登記手続と費用負担

抵当権設定には登記手続が必要となり、登記手続では、登録免許税などがかかります。なお、東京地裁の事例では「登記費用は原告と被告の平等負担とする」とされています。

(4)完済時の抵当権抹消

財産分与の中で決まった金銭の支払(被担保債権)について、全額の支払が完了した時点で、抵当権登記を抹消することになります。仮に抵当権者となっている者(金銭支払を受けていた側)が抹消登記に協力しない場合、最終的には所有者(金銭を支払っていた側)は訴訟を提起して判決を獲得しないと抵当権登記を抹消できないことになります。

6 参考情報

参考情報

山田徹稿/『判例タイムズ1065号』2001年9月p154〜
岡口基一著『要件事実マニュアル5 第5版』ぎょうせい2017年p149

本記事では、財産分与の中での抵当権設定について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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