【不法行為と不当利得の実務的な選択(選択できる状況や選択の着眼点)】

1 不法行為と不当利得の実務的な選択(選択できる状況や選択の着眼点)

多くの場面で、不法行為(による損害賠償請求)不当利得(返還請求)の選択が必要な状況が生じます。共通することが多いのですが、違いもあります。事案に応じて最適な請求権を選択する必要があります。本記事では、2つを選択する、つまり2つの請求権が成り立つ典型的状況と、どのように選択すべきか、ということを説明します。

2 不法行為と不当利得の主な違い(概要)

最初に、不法行為と不当利得の違いを整理しておきます。

<不法行為と不当利得の主な違い(概要)>

比較項目 不法行為 不当利得 法的根拠 民法709条 民法703条 成立要件 故意・過失、権利侵害、損害発生、因果関係 利益の取得、損失の発生、因果関係、法律上の原因の不存在 故意・過失の役割 成立要件として必須 原則として不要(悪意は返還範囲に影響) 消滅時効 知ってから3年(または5年)/行為から20年 知ってから5年/行為から10年 救済方法 損害賠償(財産的・精神的損害を含む) 不当利得の返還(原則として現存利益) 結果 「損害」の発生 「利得」の存在 反対債権との相殺 原則可能(制限あり、平成29年改正による) 可能 弁護士費用 請求できる場合あり 原則として請求できない 立証責任 原告が故意・過失、権利侵害等を立証 原告が利益、損失、因果関係等を立証 遅延損害金の起算点 払戻し時点 請求日の翌日(悪意の場合は利得時点)

詳しくはこちら|不法行為(損害賠償請求)と不当利得(返還請求)の違い

3 両方を請求できる具体的状況

(1)相続における使途不明金問題(財産の使い込み)

相続人の一人が被相続人の預貯金を無断で引き出す行為(いわゆる使途不明金問題)は、不法行為と不当利得の両方が成立することが多いです。
例えば、被相続人が判断能力が不十分な状態で、相続人が無断で預金を引き出した場合、他の相続人はどちらの請求も可能です。なお、使途不明金問題は手続の問題(遺産分割の中で処理できるかどうか)もあり、実際の解決は複雑になりがちです。
詳しくはこちら|相続における使途不明金問題の解決手続(遺産分割か訴訟の選択・平成30年改正対応)

(2)詐欺的契約や無効な契約のケース

詐欺によって相手方を欺き、金銭を支払わせた場合、これは相手方の財産権を侵害する故意の不法行為であると同時に、欺いた側は法律上の根拠なく利益を得ているため不当利得にも該当します。また、契約の取消により「初めからなかったもの」とされた場合、給付された財産は不当利得として返還請求できます。
例えば、不動産の重大な欠陥を意図的に隠して売却したケースで、その後買主が契約の取消をした場合は、不法行為または不当利得として、支払済みの代金(相当額)を請求できることになります。

(4)知的財産権侵害

他者の登録意匠や著作権を無断で使用する行為は、権利者の権利を侵害する不法行為であり、同時に侵害者はその使用によって利益を得ているため不当利得にも該当します。例えば、株式会社サンリオが、自社のキャラクター「ハローキティ」の意匠権を侵害されたとして、侵害行為を行った企業に対し、不法行為に基づく損害賠償請求とともに、侵害行為によって得た利益の返還を不当利得として請求した事例があります。この裁判では、意匠権侵害という不法行為を根拠として、侵害者が得た不正な利益の返還が認められました。

(5)医療過誤

医師の過失による医療行為が患者に損害を与えた場合、これは契約上の注意義務違反(債務不履行)であると同時に、患者の身体という法律上保護された利益を侵害する不法行為にも該当し得ます。同時に、医療行為に対して支払われた報酬は不当利得として返還請求できる場合もあります。医療過誤の事案では、患者側が医師や病院に対して、債務不履行責任、不法行為責任、不当利得返還責任を選択的に主張することがあります。

(6)共有不動産の単独使用・賃料独占(参考)

共有不動産を一部の共有者だけが使用(居住)している、または、賃料を一部の共有者が独占しているケースについては、従来、不法行為と不当利得の両方の請求が可能でした。
これについては、令和3年の民法改正で、償還請求権(償還義務)の規定が新設されました(民法249条2項)。この点、民法709条(や703条)の方がメリットがあることから戦略的にこれを使うことも考えられます。
詳しくはこちら|単独で使用する共有者に対する償還請求(民法249条2項)

4 請求方法の選択の着眼点

(1)時効期間

請求方法を選択する際、時効期間に注意します。
不当利得の場合、改正前の民法では権利を行使することができるとき(基本的には引き出したとき)から10年で時効でしたが、民法の改正後は、権利を行使することができるときから10年または権利を行使することができることを知ったときから5年の早い方で時効となります。
他方、不法行為の場合には、損害及び加害者を知ったときから3年で時効となります。

(2)利得の有無

不当利得は、相手方に「利得」がない場合は成立しません。不法行為は相手方が利益を受けていなくても、単純に被害者(請求者)が「損害」を受けていれば足ります。つまり、相手方に「利得」がないケースでは、不法行為しか選択肢がありません。

(3)証拠の強さと立証のしやすさ

不法行為では、原告が故意・過失、権利侵害、損害、因果関係の全てを立証する責任を負います。特に故意や過失の立証は困難な場合があります。
一方、不当利得では、原告は被告の利益、自身の損失、因果関係、法律上の原因の欠如を立証する必要があります。
一般論としては、不当利得の方が立証しやすい傾向があります。もちろん、個別的な事案によっては現実的に違いがない、ということも多いです。

(4)回復可能な範囲(請求金額)の違い

不法行為に基づく損害賠償請求は、被害者が被った損害の填補を目的とするため、加害者が得た利益よりも損害額が大きい場合に有利です。また、不法行為では弁護士費用も損害として認められる可能性があります。
他方、不当利得返還請求は、原則として受益者が現に保有している利益(現存利益)の返還を求めるものですが、受益者が悪意であった場合には、得た利益の全額に利息を付して返還を求めることができます。「悪意の」というのは、不当利得と知っていたという意味です。

(5)訴訟手続上の戦略(請求の併合)

訴訟戦略として、不法行為に基づく請求を主位的に行い、不当利得に基づく請求を予備的に行うことがあります。これにより、不法行為の成立が認められなかった場合でも、不当利得に基づく返還が認められる可能性を残すことができます。
裁判においては、「予備的併合」(主位的に不法行為に基づく請求を行い、それが認められない場合に備えて予備的に不当利得に基づく請求を行う)や「選択的併合」(不法行為または不当利得のいずれかの構成で損害賠償を求める)といった形態があります。このような併合は、一般的に、事実関係が複雑であったり、どちらの法的構成がより適切であるか判断が難しい場合に、原告の救済の可能性を高めるための戦略として用いられます。
不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求は、これらの手法が有用であることが多いです。

5 まとめ

不法行為と不当利得は、権利侵害や不当な利益取得に対する重要な救済手段です。両者の違いを理解し、事案に応じて適切な請求方法を選択することが、法的問題の効果的な解決につながります。

本記事では、不法行為と不当利得の実務的な選択について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に権利の侵害(不法行為や不当利得)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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