【相続による承継の対象についての見解(権利義務・地位・人格・法律関係)】

1 相続による承継の対象についての見解
2 民法896条の条文
3 相続の対象についての議論とその実益
4 一般的な見解
5 中川善之助氏見解(地位(人格・法律関係))
6 穂積重遠氏見解(人格)
7 仮想通貨の相続の法的扱い(概要)
8 相続承継における一身専属権の除外(概要)

1 相続による承継の対象についての見解

相続によって,財産が承継するというのは誰でも知っている常識といえます。ただ,法律的な理論としては,相続によって承継するのは何なのか,ということについていくつかの見解(解釈)があります。
この解釈論そのもので実際の法的扱いに違いが出る,ということはまずありません。しかし,別の法解釈の中でこの解釈論が使われる(違いを及ぼす)ことがあります。
本記事では,相続による承継の対象についての解釈を説明します。

2 民法896条の条文

最初に条文を押さえておきます。相続によって(被相続人の財産に属した)権利義務が承継されると規定されています。

<民法896条の条文>

相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
※民法896条本文

3 相続の対象についての議論とその実益

条文上は,相続によって承継されるものは権利義務であると定められています。これについて,純粋な権利義務ではなく法的な地位人格法律関係が承継される,という解釈もあります。
ただし,この解釈自体で実際の結果に違いが出るということは普通ありません。一方,この解釈論が別の法律の解釈の中で使われることはあります。

<相続の対象についての議論とその実益>

民法896条によって承継されるものは,被相続人の権利義務なのかそれとも財産法的地位なのかという議論がある
いずれにしても両説の間に格別実質的な開きはないとも評されている
※潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p155,156

4 一般的な見解

相続によって承継されるものが何か,ということについて,基本的な解釈は,条文どおりに権利義務と考えるものです。ただし権利義務が一体となっている場合はひとまとめにしたものを法的地位と呼んでいます。

<一般的な見解>

あ 包括承継原則(一般承継)

被相続人に属していた一切の権利義務が相続人に承継される
相続人への承継が原則として権利義務の種類・性質および由来によって左右されないということを宣言することにある

い 権利義務の一体化した法的地位の承継

個別の権利義務が有機的に一体をなし,財産法上の法的地位(典型的には契約上の地位)と呼ぶべき実体を有している場合には,その法的地位が承継の対象とされる
※潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p154

5 中川善之助氏見解(地位(人格・法律関係))

相続によって承継されるものをよく考えてみると,純粋な権利や義務,には収まらないものも出てきます。たとえば,無権代理人としての地位や占有(権),善意・悪意といった状態も承継されます。また,取消権などの形成権は単体の権利として承継されるわけではなく,法的地位が承継され,その法的地位の1つとして形成権が存在する,という関係にあります。
そこで,相続によって承継されるものはストレートに(法的)地位である,と解釈するという発想につながります。中川善之助氏はこのような見解を示しています。
法的人格の承継,法律関係の承継,と捉えることも同じ考え方です。

<中川善之助氏見解(地位(人格・法律関係))>

相続は,権利義務の承継というより,むしろ被相続人の財産法的地位の承継だという方が,漠然としたようで,かえって正確だといえるのである。
人格の承継という説も,法律関係の承継という説も,趣旨とするところは同じで,大差はない。
※中川善之助ほか著『法律学全集24 相続法 第4版』有斐閣2000年p162

6 穂積重遠氏見解(人格)

穂積重遠氏も,同様に,権利義務以外にも承継されるものがある,という着眼点から,人格が承継される,という見解を示しています。

<穂積重遠氏見解(人格)>

しかし私は其後,相績を権利義務の承継と見るよりも人格の承継と観念する方が適切ではあるまいか,といふ疑を起し,・・・
・・・相績の効果が権利義務の承継以外にも存しはせぬか,といふ考なのである。
※穂積重遠著『相続法 第1分冊』岩波書店1946年p14,15

7 仮想通貨の相続の法的扱い(概要)

以上で説明した,相続によって承継されるものが何か,ということが他の解釈に影響する1つとして,仮想通貨(暗号資産)の相続,があります。

<仮想通貨の相続の法的扱い(概要)>

(仮想通貨を保有することの権利性が否定されることを前提として)
相続の対象は権利義務に限定されないという解釈をとることによって,仮想通貨(財産的価値)が相続で承継されるという結論を導くことができる
詳しくはこちら|仮想通貨(暗号資産)を保有することの「権利」性

8 相続承継における一身専属権の除外(概要)

ところで,被相続人の財産(権利)であっても,一身専属的なものは例外的に,相続により承継されません。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|相続財産の範囲|一身専属権・慰謝料請求権・損害賠償×損益相殺・継続的保証

本記事では,相続によって承継されるものは権利義務なのか,法的な地位や人格なのか,という解釈論を説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,相続や権利義務といった基礎的理論に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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