【生命保険などの免責期間中の自殺における生命保険金請求の可否】

1 生命保険などの免責期間中の自殺における生命保険金請求の可否
2 免責となる『自殺』の解釈と判断基準
3 業務起因の精神障害による自殺への免責を否定した裁判例
4 重度のうつ病による自殺への免責を否定した裁判例
5 精神障害による自殺的行為への免責を否定した裁判例

1 生命保険などの免責期間中の自殺における生命保険金請求の可否

生命保険は被保険者が死亡した場合に,高度障害保険では,高度の障害を負った場合に保険金が支払われます。しかし通常は,約款で,保険への加入後1年間の自殺(自死)については免責となる(保険金が支払われない)ことになっています。
しかし実は,自殺であっても保険金が支払われることが多いです。本記事では,自殺が免責となっている場合であっても保険金が支払われる(請求できる)状況について説明します。

2 免責となる『自殺』の解釈と判断基準

保険契約における『自殺』とは,文字どおりに解釈するわけではなく,自身で故意に生命を断つことと解釈されます。この解釈は古くから判例で認められています。
ということは,過失によって自身の死に至ってしまった場合には,故意ではないので『自殺』にはあたりません。精神障害が原因で自身の死に至った場合も,自身の判断(故意)とは違うので『自殺』にはあたらないのです。

<免責となる『自殺』の解釈と判断基準>

あ 商法678条の『自殺』の解釈

商法431条1項(当時)(その後商法678条となり,その後削除された)の自殺とは,被保険者が故意に自己の生命を断ち死亡の結果を生ぜしむる行為をさす・・・
自殺には死亡が過失行為若しくは精神障害中の動作に起因する場合を含まない
※大判大正5年2月12日
※東京地裁平成11年8月30日(同趣旨)

い 免責条項の『自殺』の解釈

免責条項の『自殺』も,商法678条の『自殺』と同じ解釈があてはまる
※通説,判例

う 判断基準

被害者の自由な意思決定能力が喪失したといえるのと同程度に著しく減弱した結果なされたものである場合,『自殺』にあたらない
※裁判例多数(後記)

3 業務起因の精神障害による自殺への免責を否定した裁判例

前記のように,自身で死に至った場合でも,保険契約の『自殺』にあたらないことがあります。実際の裁判例から具体例を紹介します。
まず,仕事上のストレスが原因となって精神障害を発病した後に自殺(自死)に至ったというケースです。要するに,仕事が自殺に追い込んだ状況なので,保険契約における『自殺』にはあたらないと判断されています。

<業務起因の精神障害による自殺への免責を否定した裁判例>

あ 事案

被害者は,上司の叱責,暴行等により重度ストレス反応及び適応障害の精神障害を発症した

い 裁判所の判断

精神障害が被害者の自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させ自殺に至らせたといえる
免責条項所定の支払免責事由である『自殺』には該当しない
(保険金は支給される)
※甲府地裁平成27年7月14日

4 重度のうつ病による自殺への免責を否定した裁判例

うつ病が重症であった中で自殺に追い込まれたケースです。計画的な経緯があったため,故意とも思えるものでしたが,全体としては自由な意思決定ではないという判断になりました。

<重度のうつ病による自殺への免責を否定した裁判例>

あ 事案

ア 重度のうつ病の影響 被害者は,少なくとも中等症以上のうつ病に罹患しており,当該うつ病は,重症かこれに近い程度であった可能性が高い
被害者が自由な意思決定をする能力は,相当程度うつ病の影響によって制約を受けていた
イ 計画性 自殺行為は,3週間程度前から買い求めていたザイルを二重に巻き,首をつるという点で,ある程度計画的な態様であるともいえる

い 裁判所の判断

『死』に関しては,自由な意思決定能力が著しく減弱していた
自殺行為は,免責約款所定の支払免責事由である『自殺』には該当しない
(保険金は支給される)
※大分地裁平成17年9月8日

5 精神障害による自殺的行為への免責を否定した裁判例

精神障害が発病した後にマンションから転落して大怪我をしたというケースです。高度障害保険金の請求を認めるかどうかが問題となりました。
判断の内容は前記の裁判例と同様です。少なくとも自由な意思決定として飛び降りたわけではないので,保険契約における『自殺』にはあたらない,という結論です。

<精神障害による自殺的行為への免責を否定した裁判例>

あ 事案

精神障害を発病した者が,マンションの6階から転落した
被害者には,下肢痳痺等の後遺障害が残存した
被害者は,2000万円の高度障害保険金を請求した

い 裁判所の判断

転落は,被害者の自由な意思決定能力が喪失したといえるのと同程度に著しく減弱した結果なされたものである
→『自殺』(故意)ではない
(保険金は支給される)
※奈良地裁平成22年8月27日

本記事では,生命保険や高度障害保険の免責期間中の自殺(自死)であっても保険金が支払われる状況について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張立証のやり方によって結論は違ってきます。
実際に自殺(自死)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求が認められる要件】
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