売買代金が時価と大きく離れる|無効となるのは比率ではなく相手の状態に乗じたとき

1 売買代金が時価と大きく離れる|無効となるのは比率ではなく相手の状態に乗じたとき

売買の代金が時価と大きく離れているとき、その売買は民法90条の公序良俗違反として無効になることがあります。

もっとも、裁判例を並べると、時価に対する代金の比率が低いほど無効になりやすい、という関係にはなっていません。時価の約22%の代金で有効とされた事案があり、適正価格の6割に満たない代金で無効とされた事案があります。

本記事では、売買の代金額そのものが争われた裁判例を、無効とされたもの、有効とされたもの、古くて結論が記録に残っていないものに分けて説明します。違約金や損害賠償額の予定が過大な場合は別の記事で扱います。

2 比率の大小と結論は一致しない=時価の約22%で有効・6割未満で無効(まとめ)

代金額の不均衡の大きさは、それだけでは結論を決めていません。裁判所が見ているのは、不均衡とあわせて、相手の状態に乗じたかどうかです。

売買の代金額が争われた裁判例の並び

あ 無効とされた事案

(ア)時価の約10%=法律的な無知と経済的な窮乏、覚せい剤で精神の平静を失った状態に乗じた(東京高判昭和58年9月5日)(イ)適正価格の6割に満たない代金=認知症で高齢の売主に売却の必要性がなかった(大阪高判平成21年8月25日)(ウ)競売価格の約5倍で元所有者へ転売=売買と競買の申出の両方が無効(青森地決昭和38年12月23日)

い 有効とされた事案

(ア)時価の約22%=売主の無知・軽率・無経験に乗じたとはいえない(東京高判昭和46年7月30日)(イ)時価の約46%=暴利行為を無効とする考え方が採られていなかった時代の事案(名古屋控判大正12年5月23日)

う 決め手になっているもの

(ア)給付と反対給付の客観的な不均衡と、行為者の主観的な非難性の2つ(イ)不均衡が約5倍でも、主観的な非難性が認められなければ無効にならない

3 売買代金の額そのものも民法90条の対象

暴利行為が問題になる典型は高い利息や違約金ですが、売買の代金額そのものについても民法90条違反が問題になります。

引用:文献・公開情報

売買代金額そのものも民法90条違反になりうる

売買代金額に比べて不当に高額の賠償額予定、違約金がとりきめられる
(たとえば、買主が代金債務を履行しないとき、または、買主の債務不履行によって契約が解除されたときには、違約金として金〇○○円を支払う旨とりきめる)
ことも往々見られるところであり、これについても第九〇条違反が問題になり、その種の判例も見出される
(それころか売買代金額そのものについても、同条違反は問題になりうる。
たとえば売主の窮迫に乗じて不当に低額の代金で買い受けたような場合がそれである)。

※米倉明稿『公序良俗違反の法律行為』/『法学教室68号』1986年5月p47

引用:文献・公開情報

売買代金についても暴利行為として無効となりうることを示した

本判決は、売買代金についても暴利行為=無効とされることがありうるということを示した点では重要である。

※大村敦志著『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283

4 無効とした事案=認定の中心は相手の状態への乗じ方

無効とされた事案では、代金額の不均衡だけでなく、売主がどのような状態にあり、買主がそれをどう利用したかが認定されています。以下、不均衡の大きいものから順に見ていきます。

(1)時価の約10%=法律的な無知・経済的な窮乏・精神の平静の喪失に乗じた

夫が服役することになった妻から、実質的に数十万円の対価で土地建物の共有持分を取得した事案です。売買契約書の代金は350万円でしたが、実際に交付された金員は数十万円にとどまっていました。

引用:判例

法律的な無知・経済的な窮乏・精神の平静を失った状態に乗じた→民法90条により効果を生じない

右1及び2の各事実に徴すれば、本件売買契約は、被控訴人が控訴人の法律的な無知及び経済的な窮乏、さらには覚せい剤注射により精神の平静が失なわれた状態に乗じて、自分が太郎の服役中控訴人の生活の面倒をみている優越的・庇護者的な立場にあるのを利用して、本件土地・建物についての同人の共有持分を不当に取得しようとして同人との間で締結されたものと認められ、しかも、前認定のとおり被控訴人が控訴人に生活資金などとして手交した金員はせいぜい数十万円にとどまり、同人に注射した覚せい剤の費用は不法原因給付であるから、同人に対し法律上返還を請求することができない性質のものであり、また、当時、被控訴人の太郎に対する貸金債権は存在しなかったのであるから、被控訴人が控訴人に対し弄した前認定の言辞は真実に反するものであったといわざるをえない。
 そうすると、本件売買契約は、その内容、目的、動機、締結方法において、公の秩序又は善良の風俗に反すると認められるから民法九〇条によりその効果を生じないというべきである。

※東京高等裁判所 1983-09-05 判時 1093号77頁

(2)適正価格の6割に満たない代金=認知症で必要性のない取引

認知症の高齢者から、鑑定された価格の6割に満たない代金で土地を買い受けた事案です。売主には賃料収入と年金があり、売却の必要性がありませんでした。

引用:判例

判断能力の低い状態に乗じた、必要性の全くない取引→公序良俗に反し無効

このような事情を総合考慮すれば、本件売買は、被控訴人の判断能力の低い状態に乗じてなされた、被控訴人にとって客観的な必要性の全くない(むしろ被控訴人に不利かつ有害な)取引といえるから、公序良俗に反し無効であるというべきである。

※大阪高等裁判所 2009-08-25 判時 2073号36頁

(3)競売価格の約5倍で元所有者へ転売=売買と競買申出の両方が無効

競売ブローカーが農地を7万2000円で競落し、競落期日の前に、債務者である農民へ35万円で転売する約束をした事案です。裁判所は売買を無効としたうえで、競買の申出そのものも無効としました。

引用:判例

債務者の窮迫に乗じた売買は無効・暴利を得る目的の競買申出も公序良俗に反する

右の事実からみると右平山と債務者の売買契約は債務者の窮迫に乗じて締結したものと認められるので公序良俗に反し無効と解すべきであるばかりでなくその競買も右のような暴利を得る目的で申出たものと認められるので(同様の事件が他にも存在し目下当裁判所に民事事件としてけい続している)該申出もまた公序良俗に反するものというべく、さらに自ら耕作する意思のない者に農地を取得させるのは農地法の精神にも反し

※青森地方裁判所五所川原支部 1963-12-23 判タ 156号204頁

5 有効とした事案=不均衡が大きくても主観的な非難性が認められない

不均衡の大きさだけでは結論が決まっていないことは、有効とされた事案を見るとはっきりします。判例解説は、暴利行為の成否を判断するときに重視される2つの面を次のように整理しています。

引用:文献・公開情報

暴利行為の判断で重視される2つの面=客観的な不均衡と主観的な非難性

これら暴利行為の成立を判断する際の基準としては、「給付と反対給付との間の客観的な不均衡」および「行為者の主観的な非難性」という二つの面が重視されねばならない
(通説(たとえば幾代・前掲二一四頁)であり、判例(たとえば大判昭六・二・一三民集一〇巻六九頁)もこれを認める)。

※『判例タイムズ270号』p235〜

(1)時価の約22%でも無知・軽率・無経験に乗じたとはいえない

時価46万4000円相当の土地建物を、代金10万円で売った事案です。売主が長年遠方に住んでいて土地建物にほとんど関心がなく、その代金額を特に安いとも思わず、現地を調査することもなく承諾していました。

引用:文献・公開情報

相当価格の約5分の1の代金でも客観的不均衡がないとみている

本判決は、その理由中に説示の諸事情にてらして、本件売買契約が売主の無知、軽率、無経験に乗じて締結されたものではないとし、暴利行為の成立を否定している。
判決理由では、行為者の主観的な非難性が認められないことに重点を置いて説示されているが、相当価格の約五分の一の代金であつても、事情によつては給付と反対給付との間の客観的不均衡がないとみている点が注視される。

※『判例タイムズ270号』p235〜

(2)不均衡が大きくない・商取引である=否定例の残り

否定例はほかにもあり、無効を否定した理由は事案ごとに違います。

引用:文献・公開情報

否定例の理由は事案ごとに違う

(3](4] (5] (6) [8](9】は否定例であるが、〔3]ではXYの売買が商取引である点が重視されている。
〔5]〔9]は給付の不均衡がそれほど大きくないとしている。
注意すべき裁判例は〔8]である。
これは、約五倍の不均衡があるにもかかわらず、この契約はXの「無知・軽率・無経験」によるものではないとして暴利行為=無効を否定している。

※大村敦志著『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p283

6 結論が記録に残っていない古い事案|代金額への民法90条の適用

戦前から昭和20年代までの事案には、判例集に結論がはっきり残っていないものがあります。実務でそのまま使える事案ではありませんが、売買の代金額そのものに民法90条が及ぶことを示した点では意味があります。

(1)時価の33%=外地の裁判例で結論ははっきりしない

時価6000円の不動産を、代金2000円で売った事案です。

引用:文献・公開情報

時価6000円の不動産を代金2000円で売却=自由意思なら有効・乗じたなら公序良俗違反

(2) 朝鮮高院判昭和三年一一月一七日評論一八巻民法一一四頁
事案は不明(ただし、時価六、〇〇〇円相当の不動産を二、••〇円で売却したとされている)。
判決は、売買代金が目的物の価格に比し著しく低廉であっても自由意思に基づくのであれば有効であるとした上で、売主の軽率、無経験、急迫な困難に乗じたものであれば、売買契約は公平の観念に反し公庁良に反するとした。

※大村敦志著『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p276〜277

(2)時価の46%で有効=暴利行為を無効とする考え方を採っていない時代

時価1万4000円以上の土地を6400円で売った事案で、売主は若年で事理に疎く、酒食に溺れていたとされています。有効とされましたが、この時期はまだ暴利行為を無効とする考え方が採られていなかったとみられています。

引用:文献・公開情報

若年で事理に疎く酒色に耽溺する売主から時価の約46%で買い受けた事案=有効

(1) 名古屋控判大正一二年五月二三日新聞二一五七号一七頁(所有権移転登記請求事件)
事案は、XがYにその所有する土地を売却させることを企て、Yが若年で事理に疎く酒色に耽溺しているのに乗じて売買契約を締結したというものであった(なお、Yの主張によれば、本件土地の時価は一四、〇〇〇円以上であったが売買価格は六、四〇〇円であったという)。
判決は、Xの企画が不穏当であっても、他の法規に触れるまたは詐欺強迫その他の事由がない限り、売買は有効に成立し公序良には反しないとした。

※大村敦志著『公序良俗と契約正義 契約法研究Ⅰ』有斐閣1995年p276

7 客観的交換価値を大きく下回る代金での取得→無効

近年の事案でも、切迫した状況に乗じて不動産を取得したものが無効とされています。

引用:判例

切迫した状況に乗じて莫大な利益を得ようとした、合理性を著しく欠く取引→公序良俗に反する暴利行為

これらを全体としてみたとき、本件第1売買契約は、エリットが上記のような控訴人の状況等に乗じて莫大な利益を得ようとして行った、経済的取引としての合理性を著しく欠く取引であり、公序良俗に反する暴利行為に当たるといわざるを得ない。

※東京高等裁判所 2018-03-15 判時 2398号46頁/消費者法ニュース 117号202頁/ウエストロー・ジャパン

8 要件と効果は類型を横断する=ここで扱うのは売買代金の事案だけ

暴利行為の要件と効果は、売買に限らず共通です。本記事で扱ったのは、売買の代金額そのものが争われた事案だけです。

(1)窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得→無効(概要)

要件と効果は、別の記事で説明しています。

暴利行為|窮迫・軽率・無経験に乗じた著しく過当な利益の獲得は民法90条で無効

(2)どの程度の不均衡で無効になるかの数値の目安(概要)

どの程度の不均衡で無効になるのかの目安は、別の記事で横断的に扱っています。

暴利行為の客観的要素(売買の代金額や違約金)の判断基準

9 おわりに

本記事では、売買の代金額そのものが争われた裁判例を見てきました。実際の判断は、不均衡の大きさだけで決まるものではなく、売主の状態と買主の関与の仕方によって変わります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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【暴利行為の客観的要素(売買の代金額や違約金)の判断基準】
売買の違約金が過大|過大なだけでは無効にならず、乖離の程度と約款の作り方で決まる

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