【民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍】

1 民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍

民事訴訟の管轄は、申立(提訴)の当初に問題となることがよくあります。
要するに、どの裁判所に申し立てることができるか、という問題です。
管轄の内容(ルール)の内容は多くのものがありますが、その1つが場所に関するものです(土地管轄)。
そして、土地管轄のルールにも多くのものがあり、その代表的なものが被告の住所地というものです。人の居場所によって裁判所の場所が決まるので人的裁判籍と呼びます。
本記事では、人的裁判籍の内容や判断基準について説明します。
なお、人的裁判籍の内容は、通常の民事訴訟だけではなく、家事調停・審判・人事訴訟でも適用されます。

2 土地管轄の基本

民事訴訟の土地管轄の基本的な内容は被告の普通裁判籍とされています。
被告の普通裁判籍の内容は、被告の属性(種類)別に定められています。具体的には、自然人、大使、法人、外国の社団、国などです。
本記事では、問題となる頻度の高い自然人法人の普通裁判籍について、以下説明します。

土地管轄の基本

あ 基本

訴えは、被告の普通裁判籍所在地の裁判所の管轄に属する
※民事訴訟法4条1項

い 『普通裁判籍』の意味

土地管轄を決定する基準となる関係地点を裁判籍という

う 普通裁判籍の具体的内容

『被告の普通裁判籍』の内容は民事訴訟法4条2〜6項に規定される
大きく人的裁判籍(え)と物的裁判籍(お)に分類される

え 人的裁判籍の意味

事件との人的な関係(訴訟の当事者との関係)から定められる裁判籍
※民事訴訟法4条、5条3〜6号

お 物的裁判籍の意味(参考)

事件との物的な関係(訴訟物たる権利義務関係)から定められる裁判籍
※民事訴訟法5条1、2、7〜15号
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p26

3 自然人の普通裁判籍(人的裁判籍)の判定(優先順序)(概要)

(自然人)の普通裁判籍となる場所には優先順序があります。住所が最優先で、次に居所、そして最後が最後の住所となります。

自然人の普通裁判籍(人的裁判籍)の判定(優先順序)(概要)

あ 第1順位=住所

自然人の普通裁判籍は
原則として(日本国内の)住所により定まる

い 第2順位=居所(※1)

日本国内に住所がないまたは住所が知れない場合
居所により定まる

う 第3順位=最後の住所

日本国内に居所がないまたは居所が知れない場合
→その人が日本国内に有していた最後の住所により定まる
※民事訴訟法4条2項

このルールの内容は、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|民事訴訟の自然人の普通裁判籍の決定基準(民事訴訟法4条)(解釈整理ノート)

4 法人・社団・財団の普通裁判籍

会社などの法人やそれ以外の団体(社団・財団)が訴訟の被告となる場合の普通裁判籍は原則として主たる事務所(営業所)となります。
主たる事務所がない場合は代表者(など)の個人の住所が普通裁判籍となります。

法人・社団・財団の普通裁判籍

あ 第1順位=主たる事務所(営業所)

法人その他の社団・財団の普通裁判籍は
原則として主たる事務所or営業所により定まる

い 第2順位=代表者の住所

事務所・営業所がない場合
代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる
※民事訴訟法4条3項

会社の営業所の意味については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|会社の『営業所・本店・支店』の意味(2種類の『本店』の意味)
なお、会社の(組織)内部の問題に関する訴訟では、前記と異なり、本店を基準とする専属管轄が規定されています。
詳しくはこちら|会社の(形式上か実質上の)『本店』が基準となるいろいろな規定

5 住所による普通裁判籍

自然人の普通裁判籍は原則として住所が基準となります。法人でも代表者の住所が普通裁判籍となることがあります(前記)。
では、住所とはどの場所を意味するのか、ということが問題となりますが、民事訴訟法には規定がなく、民法上の規定や解釈が用いられます。
民法上の住所は、生活の本拠とされています。
解釈としては、民法上の住所よりもやや低いハードルで、民事訴訟法の住所として認める傾向があります。

住所による普通裁判籍

あ 『住所』の定義や概念

住所の概念については、民事訴訟法には何らの規定もない
民法上の概念に従って把握される
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p26

い 民法上の『住所』の概念(概要)

定住の事実(客観的要件)生活の本拠とする意思(主観的要件)を必要とする見解が一般的である
詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)

う 民事訴訟法上の『住所』概念

民事訴訟法4条2項の『住所』について
普通裁判籍を決定する基準はできるだけ明確であることが望ましい
定住の事実のみで足りるとする見解(客観説)が有力である
※東京高裁昭和42年10月26日参照
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p26

6 複数の住所の可否(肯定)

ところで、民法上の住所の解釈では、1人の人が複数の住所を持てるのか、という問題があります。
これについて、民法の解釈では複数の住所を肯定する傾向があります。そして、民事訴訟法の解釈では、前記のようにさらに緩く判定するので、複数の住所を肯定する見解がさらに強いです。
複数の住所があることになったとすると、原告がその中の1つを選んで提訴することができることになります。

複数の住所の可否(肯定)

あ 複数の民法上の『住所』(参考)

同一の人が民法上の『住所』を複数認める見解が有力である
詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)

い 複数の民事訴訟法上の『住所』(肯定)

民事訴訟法4条2項の『住所』について
複数の『住所』を認める見解が一般的である
→この場合、各住所に応じて普通裁判籍がある(複数存在する)ことになる
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p26

7 居所による普通裁判籍

自然人の普通裁判籍の2番手は居所です(前記)。
居所の意味も、民法の規定や解釈が用いられます。民法上の居所の意味は、住所ととても似ていますが、住所よりも定着の程度が低いという意味です。
要するに、原告(訴えを提起する者)が把握している被告の滞在場所が、そこまで高頻度で寝泊まりしているものではない場合に、居所として扱うことになるのです。結局、その場所が住所・居所のいずれであっても、その場所の裁判所に提訴することができることになります。

居所による普通裁判籍

あ 居所による普通裁判籍の前提

(日本国内に(被告の)住所がないまたは)住所が知れない場合に居所によって普通裁判籍が定まる(前記※1

い 『住所が知れない』の意味

『住所が知れないとき』とは
住所を普通人の注意でもってさがしても分からない場合をいう
民法23条の解釈と同様である
詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p26

8 複数の居所の可否(肯定)

居所住所よりも生活と場所の結びつきが弱いので、認めやすいです。そこで、1人について複数の居所を認めることができます。
この場合、(複数の住所が認められる場合と同じように)原告が複数の居所から1つを選んでその場所の裁判所に提訴することができます。

複数の居所の可否(肯定)

あ 複数の民法上の居所(前提)

民法上の『居所』について
同一の人について複数の居所を認める見解が一般的である
詳しくはこちら|民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)

い 複数の裁判籍

複数の居所が存在する場合
→原告がその1つを選択できる
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p27

9 住所・居所に関する立証

以上の説明は、民事訴訟法の人的裁判籍に関する住所・居所の意味や判断基準でした。
実際の訴訟では、管轄の判断に必要な事情という位置づけになりますので、原則どおりに原告が立証責任を負うことになります。

住所・居所に関する立証

あ 管轄原因の立証責任

管轄原因は、原告が立証(証明)しなくてはならない

い 住所・居所に関する立証

被告の住所・居所に関する事情は、普通裁判籍の要件である
管轄原因なので、原告が立証しなくてはならない
※賀集唱ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法1 第3版追補版』日本評論社2012年p27

10 家事調停・審判・人事訴訟における人的裁判籍

以上の説明は、民事訴訟法(の管轄)に関するものでした。
一方で、家事事件手続法や人事訴訟法でも基本的に民事訴訟法の管轄の規定や解釈は用いられます。
つまり、家事調停・審判や人事訴訟(離婚訴訟など)における人的裁判籍の判断も本記事の説明が当てはまります。

家事調停・審判・人事訴訟における人的裁判籍

あ 家事調停・審判における人的裁判籍

家事事件において
当事者の住所により管轄が定まる(人的裁判籍)規定が多く存在する
例;家事調停は相手方の住所地(家事事件手続法245条)

い 人事訴訟における人的裁判籍

人事訴訟(離婚訴訟など)は
原則として当事者の住所により管轄が定まる(人的裁判籍)
※人事訴訟法4条1項

う 人的裁判籍の内容

家事調停・審判(あ)と人事訴訟(い)の人的裁判籍について
家事事件手続法・人事訴訟法に規定はない
→民事訴訟法の解釈が適用される
※家事事件手続法4条参照
※人事訴訟法1条

本記事では、民事訴訟や家事調停・審判、人事訴訟の土地管轄の中の人的裁判籍の内容について説明しました。
実際の裁判で、申し立てる裁判所について見解が対立して、メインの審理に入る前に前哨戦が始まることがよくあります。
実際に裁判の管轄に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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