【放置抵当権の抹消登記請求訴訟|『原因日付』が重要】
1 消滅時効の起算日によっては抵当権の相続登記が必要となることも
事例設定
消滅時効による、抵当権消滅が認められた
確定判決を獲得した
具体的にどのような登記申請をすれば良いのか
消滅時効によって抵当権が消滅した場合、消滅のタイミングによって行うべき登記、が変わってきます。
抵当権消滅の効果が発生する時点
抵当権消滅の効果は、消滅時効の起算点にさかのぼる
※民法144条
消滅時効の「起算点」
抵当権が消滅する日よりも前に、抵当権者が亡くなった場合、相続が発生し、相続人に抵当権が承継されます。
抵当権者が相続により承継(変更)した後に、抵当権が消滅する、という順序になります。
登記上も、このとおり忠実に反映させる必要があるのです。
そこで判決上の抵当権抹消の日(登記における原因日付)によって、抵当権抹消登記以外に同時に申請すべき登記の有無が変わってくる、ということになります。
2 抵当権抹消登記請求訴訟の判決文には原因日付が記載されないこともある
発想
抵当権抹消登記請求訴訟の勝訴判決では、抹消する登記は当然表示されます。
しかし、原因日付は記載されないことが多いです。
抹消登記の対象特定のために必要な情報は次のとおりです。
原因日付は含まれていないのです。
抹消登記の対象特定のために必要な情報
・登記の名称
・登記所(の名称)
・受付年月日
・受付番号
※司法研修所編『8訂民事判決起案の手引』p15
3 原因日付を欠く判決→判決確定日を原因日付とする救済措置がある
発想
登記申請書には原因日付としてどの日付を記載したらよいのか
判決主文において、登記原因や原因日付まで明記されることは多くはないです。
一方で、登記原因、原因日付は登記事項とされています(不動産登記法59条3号)。
そして、実際の登記の場面では、法務局(登記官)としては、形式的に、判決書における裁判所の命令内容部分=主文、を読み取ることになります。
そうすると、判決主文に登記原因、原因日付が記載されていない場合は読み取れないということになります。
このような場合、一種の妥協として、次のような救済策があります。
判決主文で原因日付が不明である場合の救済措置
※昭和29年5月8日民事甲938民事局長回答
4 抵当権抹消の原因日付として判決確定日を用いる場合は、多くの相続登記が必要となることが多い
発想
登記の原因日付として判決確定日を用いることとなった
抵当権消滅の原因日付が最近、という場合は、抵当権発生(設定)から最近(抹消の原因日付)の間は、相続のたびに承継されている、ということになります。
消滅する時点までは、存在し続けていた、ということになるからです。
相続が1次か2次で済めばまだ良いですが、5代、6代、となってくると、相続人が異様に増えてきます。
登記手続として抵当権抹消の前処理として抵当権移転登記を申請する必要があります。
申請は、現在の所有者だけでできるので、特に誰かから押印をもらうとかの協力は必要ありません。
しかし、中間の相続人を判明させる必要があります。
数が膨大になることがあります。
戸籍や除籍を取り寄せるなどの調査する作業に労力がかかります。
登記手続自体も、戸籍、除籍謄本を添付し、個々の相続について相続による抵当権移転登記の申請書を作成することになります。
いずれにしても大きな労力を要することにつながります。
仮に抵当権抹消登記の原因日付が、抵当権設定から10年後、という場合は、抵当権者の相続、は、一切ない、か、あっても1代程度、となるはずです。
5 判決主文に原因日付がない場合、理由中の記載から読み取ることも許される
(1)判決主文に原因日付が記載されていない場合、主文以外から読み取る方法もある
法務局側の扱いとしては、大原則として判決主文を元に判断します。
しかし、杓子定規にこれだけを適用すると原因日付の記載がない場合は、すべて判決確定日を流用することになります。
この場合、無駄に多い抵当権の相続登記が必要となることが多いです。
そこで、別の救済措置もあります。
判決主文に原因日付が記載されていない場合の救済措置
※昭和29年5月8日民事甲938民事局長回答
(2)判決書の「理由」の中の「裁判所の判断」から原因日付を読み取る
判決書の理由の記載は、その内容はいろいろあります。
当事者の主張については、認める/認めない、というもので、裁判所の判断(認定)とは関係ない記述です。
原告や被告の主張を整理して記載したものです。
理由の中に「裁判所の判断」というタイトルで、事実認定の内容が記載されています。
この部分については、明らかに裁判所の判断(認定)の内容だと分かります。
原因日付をピックアップしても良い、ということになります。
(3)判決書で引用している訴状の記載から原因日付を読み取ることもできる
実際の判決では、理由の記述が大幅に簡略化されていることがあります。
特に、長期間放置された抵当権の抹消請求訴訟では、実質的な当事者の対立がないのが通常です。
判決も形式的なものとなることが多いです。
「証拠及び弁論の全趣旨により請求原因事実を認める」という単純な記載にとどまるケースをよく見ます。
この場合、理由の中には、抵当権消滅の日付、は出てこない、ということになります。
ただし、引用となっている訴状の「請求原因」の中で、抵当権消滅の日付、が記載されていることもあります。
その場合、裁判所の判断の一環と言えます。
「請求原因」に記載されている、抵当権消滅の日を原因日付として扱う、ということが可能になります。
6 時効による抵当権消滅→抹消登記請求訴訟では、原因日付の記載を裁判所に要請しておくと良い
長期間放置された抵当権の登記を抹消するために、消滅時効を前提に訴訟を利用するケースは少なくありません。
そして、判決主文に原因日付が欠けているために、その後の法務局での登記申請の段階でスムーズに進まないというケースもあります。
一般的に、裁判所と法務局は別の機関なので、裁判所としては、法務局での手続きにあまり興味がない、あるいは詳しい手続きを知らない、という傾向があるのです。
対策としては、提訴の段階で訴状の『請求の趣旨』の中に、抵当権消滅の日=原因日付を明記しておくというのが第1歩です。
次に、訴状や準備書面の中で、原因日付が欠けると登記で面倒が生じるということを丁寧に説明しておきます。
このような理由で、主文中に原因日付を入れるべきであるということをしっかりと明記しておくと良いです。
さらに、口頭でも裁判官に強調して伝えておくと良いです。
このように丁寧に対応すれば、通常は、判決主文中に原因日付を入れる扱いがなされます。
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