【提訴前証拠収集処分(民事訴訟法132条の4)の総合ガイド】

1 提訴前証拠収集処分(民事訴訟法132条の4)の総合ガイド

提訴前の証拠収集処分は、民事訴訟法第132条の4に規定された法的手続で、訴訟提起前に必要な証拠を収集することができます。この制度は平成15年の改正で導入されましたが、実務では十分に活用されていないという課題があります。
本記事では、提訴前の証拠収集処分の制度の全体像を説明します。

2 提訴前の証拠収集処分の目的と概要

この手続は、潜在的な原告が単独で入手困難な重要な証拠が、潜在的な被告または第三者によって保持されている場合に特に有用です。この制度を活用する典型的な紛争は、複雑な技術的事項、医療過誤、知的財産侵害、消費者詐欺に関するものですが、それ以外のケースでも活用することもあります。
メリットとして、訴訟提起後の負担軽減、当事者間の情報格差の解消、情報に基づいた意思決定の促進、和解による解決の可能性向上などがあります。一方、提訴予告通知による秘密性の損失、強力な執行メカニズムの欠如、申請の厳格な要件などの欠点も存在します。

3 調査(情報取得の方法)の種類

提訴前の証拠収集処分では、以下の方法で証拠を収集することができます。

(1)文書送付嘱託

裁判所が文書の所持者に対し、指定期間内に文書を送付するよう嘱託します。
典型例は、医療記録、取引履歴、事故調査報告書などです。

(2)調査嘱託

裁判所が関連機関に調査を実施し、報告書を提出するよう嘱託します。
典型例は、気象状況、印鑑登録、外国法の内容などです。

(3)専門意見陳述の嘱託

裁判所が専門家に書面での意見提供を依頼します。
典型例は、建築瑕疵に関する建築家の意見、土地境界に関する土地家屋調査士の意見などです。

(4)執行官による現況調査命令

執行官が有体物の現状、占有状況などを調査し報告します。
典型例は、建物の欠陥調査や境界紛争における現状調査などです。

4種類の証拠取得方法については別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分による証拠取得方法の種類(解釈整理ノート)

4 提訴前証拠収集処分の要件(概要)

提訴前の証拠収集処分の申立には、以下の要件を満たす必要があります。

(1)立証の必要の明白性

求める証拠が、想定される訴訟において事件を証明するために明らかに必要であること

(2)証拠となるべきもの

収集しようとする情報が証拠として認められるものであること

(3)証拠収集の困難性

申請者が独自に収集することが困難であること

これらの要件は厳格に審査され、申立が認められるかどうかの重要な判断基準となります。
詳しい内容は別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分の要件(民事訴訟法132条の4)(解釈整理ノート)

5 申立の時期

提訴前の証拠収集処分の申立については期間制限があります。

(1)訴え提起前

この手続は訴訟提起前に行われるものであり、提訴予告通知が前提となります。

(2)提訴予告から4か月制限

申立は提訴予告通知から4か月以内に行う必要があります。ただし、相手方が同意した場合、4か月の期限後も申立が可能です。

(3)重複予告通知に基づく申立→不可

以前の通知またはそれに対する回答と重複する提訴予告通知に基づく申立は認められません。つまり、2回目の予告通知をしてカウンターをゼロにリセットすることは認められません。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分のタイミング(提訴前・提訴予告後4か月)(解釈整理ノート)

6 申立の手続

提訴前の証拠収集処分の申立は、申立書に所定の事項を記載して、添付書類とともに裁判所に提出して行います。

(1)証拠収集処分申立の方式・記載事項

申立書には申請者と潜在的な被告の氏名・住所、求める証拠収集の種類、収集される証拠の詳細などを記載します。

(2)証拠収集処分申立の添付書類

提訴予告通知の写し、潜在的な被告の回答(ある場合)、期間経過後の申立の場合は相手方の同意証明などを添付します。

申立の方法については別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分の申立(申立書記載事項、添付書類)(解釈整理ノート)

7 裁判所の審理の内容

裁判所は申立を受けると、以下のような審理を行います。

(1)相手方の意見聴取

裁判所は証拠収集命令を発行する前に、潜在的な被告の意見を聞くことが義務付けられています。

(2)証拠収集処分の決定

裁判所は申請内容と法的要件を検討し、証拠収集命令を出すかどうかを決定します。

(3)申立棄却

申立が要件を満たさない場合、裁判所は申立を棄却します。要件を満たしていて、裁判所の裁量で棄却することもあります。

(4)不服申立→不可

裁判所が証拠収集処分を認めた(発令した)場合も、認めない(棄却や却下)場合も、不服申立をすることはできません(民事訴訟法132条の8)。棄却や却下の場合に、改めて2回目の申立をすることは可能です。

(5)証拠収集処分の取消

状況の変化などにより、裁判所は一度下した決定を取り消すことがあります。
裁判所の審理プロセスについては、別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|提訴前証拠収集処分の裁判所の審理(意見聴取・決定・裁量棄却)(解釈整理ノート)

8 証拠収集処分の結果(回答内容)の証拠化

裁判所が証拠収集処分を出し、処分を受けた者が書面として回答すれば(民事訴訟法132条の6第2項)、めでたくこれを証拠として使える状態になります。
しかし、自動的に訴訟における証拠となるわけではありません。当事者が謄写した上で(民事訴訟法132条の7第1項)、それを書証として使う、ということになります。

9 実務上の注意点と課題

提訴前の証拠収集処分を効果的に活用するためには、以下の点に注意が必要です。

(1)相手方が非協力的な場合の課題

裁判所の命令を受けたものは、対応する「義務」はありますが、強制力はありません。不遵守への罰則、制裁もないという課題があります。

(2)代替手段の検討

弁護士会照会や情報公開請求など、他の証拠収集手段も検討すべきです。

(3)提訴予告通知の慎重な起案

最初に行う提訴予告通知では、請求の要旨と紛争のポイントを明確に記載し、不備がないようにします。記録化するため、実務では内容証明郵便で送付します。

(4)費用対効果の検討

特に専門家の意見や現況調査には費用がかかるため、証拠を入手することの利点と費用を比較検討する必要があります。

10 まとめ

提訴前の証拠収集処分は、訴訟前の重要な証拠収集ツールですが、その活用には法的要件の理解と戦略的な判断が不可欠です。実務では使われる件数が極端に少ないですが、だからといって先入観だけで選択肢から除外してはもったいないです。事案によってはこの制度の活用によって、有利な結果につながることもあります。

本記事では、提訴前証拠収集処分の全体像について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にまだ訴訟を提起する前の段階での証拠集めに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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