【離婚時の財産分与における金融資産の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)】

1 離婚時の財産分与における株式投資の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)

夫婦が離婚する際に、財産分与として財産の清算をします。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与の総合ガイド(法的理論・手続・実務上の問題の全体像)
ここで、財産の中に、金融資産(株式など)の投資がある場合、これを分与の対象に含めるかどうかが問題となることがあります。本記事では、この問題について、理論と実務上の扱いを説明します。
なお、主に金融資産の代表例として株式を前提として説明しますが、他の金融資産(国債、市場公募地方債、社債、株式投資信託、ETF、REIT、暗号資産(ビットコイン等)、FX証拠金、非上場株式など、も基本的に同じ扱いです。

2 結論の要点(まとめ)

最初に、結論の要点だけをまとめておきます。それぞれの内容は以下説明します。

結論の要点(まとめ)

婚姻後取得の株式は原則共有財産
婚姻前の取得・相続・贈与による取得は特有財産
特有財産原資の投資も特有財産だが混在時は証明が重要
専業投資家の収益は夫婦の協力で得た財産とみなされる傾向あり
評価は上場株式は市場価格、非上場株式は純資産価額等で算定
分与方法は現物・代償・換価分割があり、自社株は経営権考慮
配偶者の貢献度は原則2分の1だが投資スキル等で変動

3 財産分与の基本原則(前提)

財産分与とは、離婚に当たって、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を、その貢献度に応じて分配する制度です。
財産分与の中心となるのは清算的財産分与であり、夫婦の協力で形成・維持してきた財産を、その名義にかかわらず「夫婦の実質的共有財産」と考え、それぞれの貢献度に応じて公平に分配する、というものです。
財産分与の対象となるのは(実質的な)「共有財産」です。これに対して、夫婦の一方が婚姻前から有する財産や、婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産(相続や贈与など)は、「特有財産」として財産分与の対象外となります。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
分与の割合は一般的に、夫婦の貢献度は等しいという前提で、「2分の1」とするのが原則です。
詳しくはこちら|財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる

4 株式投資の財産分与における法的位置づけ

株式投資も他の財産と同様に、婚姻中に夫婦の協力によって築いた財産であれば、財産分与の対象となります。株式が財産分与の対象となるかどうかは、主に次の3つの基準で判断されます。

(1)取得時期

第1に、取得時期です。
婚姻後に取得した株式は、原則として「共有財産」として財産分与の対象となります。一方、婚姻前から保有していた株式は、特有財産として分与の対象外です。

(2)取得方法

第2に、取得方法です。
婚姻中であっても、相続や贈与によって取得した株式は、個人の特有財産とみなされ、財産分与の対象外となります。配偶者の協力とは無関係に獲得されたものだからです。

(3)名義(実質重視)

第3に、株式の名義です。
財産分与の対象となる財産は、その「名義」ではなく「実質」で判断すべきです。夫婦のいずれかの名義になっていても、夫婦の協力によって形成・維持されたなら、財産分与の対象となります。ただし、会社名義の株式については、原則として財産分与の対象外とされます。

5 株式投資のケース別分類

株式投資が財産分与の対象となるかどうかを、具体的なケース別に詳しく見ていきましょう。

(1)婚姻前から保有する株式の扱い

婚姻前から保有していた株式は、夫婦の共有財産ではなく、一方の特有財産となり、財産分与の対象外です。たとえば、夫が独身時代から持っていた株式は特有財産となります。婚姻前から保有しているなら、夫婦の協力によって築き上げた財産とは言えないからです。
ただし、婚姻前から所有する株式であっても、婚姻後に夫婦が協力したことによって価値が維持されたり、価値が増加したりした場合には、貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる場合もあります。

(2)婚姻中の収入(給与)から投資した場合

婚姻期間中に夫婦が稼いだ給料などから株式を購入した場合、その株式は共有財産として財産分与の対象となります。たとえば、夫が会社員として稼いだ給与で株を購入した場合、その株式は財産分与の対象となります。妻が専業主婦であっても、夫が収入を得られるのは妻が家事などで夫を支えているからという側面があるためです。
夫婦が稼いだ給料などが元手になっている限り、貯金のままにせず、投資資金に回していたとしても、財産分与からは逃れられません。NISA口座内の株式や投資信託も、単に非課税の恩恵を受けられる口座に過ぎず、財産分与の対象となります。

(3)相続・贈与で取得した資金での投資

婚姻中であっても、相続や贈与によって取得した株式は、一方の特有財産とみなされ、財産分与の対象外となります。例えば、夫が親から贈与された株式を保有している場合や、同族会社の株式を親から相続した場合などは、財産分与には含まれません。
一方で、相続や贈与で取得した株を売却し、新たに購入した株式の場合は、財産分与の対象となる可能性があります。特有財産で購入したことを明らかにするためには、共有財産と特有財産をきちんと区別して管理する必要があります。

6 専業投資家(デイトレーダー)のケース→共有財産方向

専業的なデイトレーダーのように、株式投資に多くの労力を投入している場合、その株式の運用益は夫婦の協力で築いた財産と言えることになります。これは、配偶者が家事などを分担することにより、投資活動を支えているという考え方によるものです。通常のサラリーマンの勤務と同様に考え、株式の運用益も夫婦の協力で築いた財産として財産分与の対象となります。
ただし、理論的には、特有財産である結婚前の株式を売却したお金で、結婚後に新たな株式を購入した場合には、新たに購入した株式は特有財産となり、財産分与の対象にはならないとされています。しかし、実際には特有財産と共有財産が混在していることが多く、特有財産部分の証明が難しいケースもあります。

7 分与割合→2分の1以外もあり

財産分与では、夫婦それぞれの貢献度が考慮されます。一般的には、夫婦の貢献度は等しいものと考え、分与の割合は「2分の1」とするのが原則的な考え方です。これは、婚姻期間中については、夫婦は協力して生活を送る義務を負っており(民法752条)、一方が収入を得られるのは他方が家事などで支えているからという側面があるためです。
株式投資についても同様に考えられますが、投資家は投資という特殊なスキルによって財産を獲得したと考えることもできるため、財産分与の割合で主張が対立することもあります。例えば、結婚前に夫が1000万円の株を持っていたところ、結婚後に給料も入金した上で株式の売買を繰り返し、離婚時点では評価額が3000万円になっていたという場合、特有財産部分の証明ができず、3000万円の株式全部が財産分与の対象になったとしても、その割合を夫6:妻4にして、夫から妻に1200万円だけ財産分与するという例もあります。
また、会社のオーナー経営者であり、婚姻後にその会社の株式の一部を保有している場合は、出資持ち分も財産分与の対象となります。ただし、婚姻期間中に社を設立し、その際に配偶者または配偶者の実家から資金援助があった場合においても注意が必要です。もし当該資金援助が会社の設立とその後の事業展開に大きく貢献し、それによって夫婦の財産形成に大きく貢献したと認められる場合は、配偶者や配偶者の実家が会社の株主ではなかったとしても当該資金援助の金額や経緯などが考慮され、財産分与に反映される可能性があります。

8 株式投資の財産分与の実例

具体的な裁判例から株式投資の財産分与について見ていきましょう。株式投資に関する財産分与の裁判例では、主に以下のような点が争点となっています。

(1)特有財産による投資が認められた具体的事例

実務では、婚姻前から保有していた株式や相続・贈与により取得した株式が特有財産と認められるケースが多く見られます。ただし、それを明確に証明できるかどうかが重要になります。特有財産と共有財産を区別して管理していなかった場合、すべてが財産分与の対象となることもあります。
また、特有財産を原資として婚姻中に新たな株式を購入した場合でも、その経緯を明確に証明できなければ、共有財産とみなされることがあります。裁判所は、株式の取得経緯や資金の流れを詳細に検討し、特有財産か共有財産かを判断しています。

(2)共有財産と判断された投資事例

実務では、婚姻中に夫婦の一方が給与収入等から購入した株式は、共有財産と判断されることが一般的です。特に、サラリーマン世帯において、給与から株式投資を行っていた場合、その株式は財産分与の対象となると判断されています。
また、婚姻前から保有していた株式であっても、婚姻中に売却して新たな株式を購入した場合、その区別が明確でなければ共有財産と判断されるケースもあります。裁判所は、株式取引の履歴や資金の流れを詳細に検討し、共有財産か特有財産かを判断しています。

(3)専業投資家(デイトレーダーなど)

専業的な投資家については、その投資活動が夫婦の生計を支える主な収入源となっている場合、その収益は共有財産と判断される傾向にあります。これは、一般的なサラリーマンの給与と同様に、家庭生活を維持するための収入源として扱われるためです。
実務では、投資活動に費やす時間や労力、その収益が家計に占める割合などを考慮して、専業投資家の収益が共有財産か特有財産かを判断しています。専業的なデイトレーダーの場合、多くの労力を投入していることから、配偶者が家事などを分担することにより支えているとみなされ、その運用益は夫婦の協力で築いた財産と判断される傾向があります。

9 関連テーマ

(1)デイトレーダーの婚姻費用・養育費算定:収入の認定方法と実務対応

以上は財産分与についての説明でしたが、婚姻費用・養育費でも、株式その他の金融資産が問題となることがあります。具体的には株式などの取引などによる収入をどのように扱うか、という問題です。
詳しくはこちら|デイトレーダーの婚姻費用・養育費算定:収入の認定方法と実務対応

本記事では、離婚時の財産分与における金融資産の扱いについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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