1 特別受益(持ち戻し)の対象に関する規定
2 相続させる遺言と特別受益
3 相続人以外への贈与・遺贈と特別受益(概要)
4 婚姻・養子縁組の費用の特別受益性(概要)
5 『生計の資本』の解釈論(概要)
6 生前贈与の代表的な使途と特別受益の判断(概要)
7 特別受益と寄与分による対消滅

1 特別受益(持ち戻し)の対象に関する規定

『特別受益』は相続における不公平を解消する制度です。
詳しくはこちら|特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)
特別受益に該当するかしないかについて,熾烈に見解が対立するケースが多いです。
本記事では『特別受益』の該当性の判断について説明します。
最初に条文上の基本的な要件・基準をまとめます。

<特別受益(持戻し)の対象に関する規定>

あ 基本事項

相続人に対する『遺贈』・『生前贈与』のうち
『い・う』に該当するもの
→特別受益に該当する

い 遺贈

相続人への遺贈について
→無条件に特別受益となる

う 生前贈与

相続人への生前贈与のうち
『ア・イ』のいずれかに該当するもの
→特別受益となる
ア 婚姻・養子縁組のための贈与
イ 『生計の資本』としての贈与
※民法903条1項

要するに実質的な『相続分の前渡し』といえるものを計算上戻すという制度なのです。

2 相続させる遺言と特別受益

特別受益として計算上持ち戻す対象は,条文では『贈与・遺贈』の2つだけが規定されています。この点,一般的に,相続させる遺言も特別受益の対象とされています。

<相続させる遺言と特別受益>

あ 『相続させる』遺言(概要)

『相続させる』遺言について
→対象物は,物権的に当該相続人に帰属する
当該相続人が確定的に取得する
詳しくはこちら|『相続させる』遺言の法的性質や登記申請・対抗関係の法的解釈

い 相続させる遺言と特別受益

特別受益には『遺贈』だけしか規定されていない
→解釈上『相続させる』遺言も持戻しの対象となる
※広島高裁岡山支部平成17年4月11日
※山口家裁萩支部平成6年3月28日

3 相続人以外への贈与・遺贈と特別受益(概要)

特別受益の条文規定では『相続人』への贈与・遺贈だけが対象とされています(前記)。そのため,相続人に該当しない者への贈与や遺贈は形式的には特別受益にはなりません。
しかし,実質的に不公平が生じることもあります。
そこで,状況によっては,相続人以外への贈与・遺贈についても特別受益として認められます。
詳しくはこちら|相続人以外への贈与や遺贈の特別受益該当性(判断基準と実例)

4 婚姻・養子縁組の費用の特別受益性(概要)

条文上,婚姻・養子縁組のための贈与は特別受益として明記されています(前記)。しかし,解釈としてはむしろ特別受益として否定される傾向があります。もちろん肯定されることもあります。この大きな傾向についてまとめます。

<婚姻・養子縁組の費用の特別受益性(概要;※1)>

あ 婚姻・養子縁組のための贈与の具体例

ア 婚姻や養子縁組のための費用
持参金・支度金・結納金
イ 挙式や披露宴の費用

い 特別受益性の判断の傾向

大きい傾向としては否定の方向である
個別的事情によって肯定されることもある
詳しくはこちら|婚姻・養子縁組のための贈与の特別受益該当性(判断と実例)

5 『生計の資本』の解釈論(概要)

生計の資本のための贈与は,特別受益の対象として条文に規定されています(前記)。実際にはこれに該当するかどうかは明確に判断できないことが多いです。
『生計の資本』の解釈は判断の傾向や実例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特別受益の規定の『生計の資本』の基本的解釈論

6 生前贈与の代表的な使途と特別受益の判断(概要)

以上のように,特別受益の対象となる贈与は条文上2種類が示されています。『婚姻・養子縁組』と『生計の資本』のための贈与のことです。
しかし実際の判断においては,贈与した資金の使途,つまり贈与の目的を軸にすると分かりやすいです。
資金の使途の代表例と,それぞれについての判断の傾向については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|生前贈与の代表的な内容(使途)と特別受益該当性の判断の傾向

7 特別受益と寄与分による対消滅

親族間の贈与は背景にいろいろな目的があります。さらに実際には,相互に利益を与える関係が存在することも多いです。このような相互のサポートがある場合は,特別受益と寄与分の両方があるような状況になります。
詳しくはこちら|寄与分|全体|趣旨・典型例
このようなケースでは,特別受益と寄与分の両方を認めないのが一般的です。もちろん,金額に過不足がある場合は,一方のみが残るということになります。

<特別受益と寄与分による対消滅>

あ 対消滅の理論

贈与が何らかの寄与に対する対価性を持つ場合
→特別受益と寄与分の両方を否定することが合理的である
→特別受益(寄与分)は否定される傾向がある
※能見善久ほか『論点体系 判例民法10相続』第一法規出版p87

い 実例(概要)

被相続人が相続人の1人Aに贈与した
Aは被相続人の財産の維持に貢献した
→贈与・貢献の等価部分について
特別受益・寄与分を否定した
※神戸家姫路支部昭和49年8月10日
詳しくはこちら|その他の目的の生前贈与と特別受益(実例と判断)