【財産的損害による慰謝料の発生の基本(理論と特別事情の分類)】

1 財産的損害と慰謝料の関係(全体)
2 財産的損害による慰謝料の発生(判例)
3 財産的損害による慰謝料の発生(学説)
4 財産的損害の賠償責任の範囲(通常/特別損害)
5 財産的損害による慰謝料を認める事情の分類
6 財産的損害により慰謝料を認めた具体的事例(概要)

1 財産的損害と慰謝料の関係(全体)

精神的苦痛についての賠償のことを『慰謝料』と呼びます。
詳しくはこちら|慰謝料(精神的損害の賠償責任)の基本的理論
例えば,不法に物が毀損されたケースでは,財産的損害の賠償責任が認められます。
これとは別に精神的損害の賠償,つまり慰謝料を請求するという発想があります。
本記事では財産的損害が生じたケースにおける慰謝料の法的扱いについて説明します。
まずは原則的な関係性の解釈論をまとめます。

<財産的損害と慰謝料の関係(全体)>

あ 原則

不法行為により財産的損害が生じた
例;物の毀損
財産的損害が賠償された場合
→精神的損害も一応回復される
=慰謝料が別に発生することはない
※最高裁昭和42年4月27日

い 例外(概要)

特殊な事情がある場合
→財産的損賠償とともに慰謝料が認められる(後記※1),(後記※2

『財産的損害の賠償と慰謝料』の『両方とも生じる』ことはない,という原則です。
これについては例外もあります。

2 財産的損害による慰謝料の発生(判例)

財産的損害の賠償と慰謝料の『両方が生じる』という例外もあります(前記)。
これについて,判例で示されている理論をまとめます。

<財産的損害による慰謝料の発生(判例)(※1)

あ 例外となる前提(要件)

不法行為によって生じた損害について
財産価値以外に考慮に価する主観的精神的価値が認められる

い 例外的な扱いの内容(効果)

財産的損害とは別に慰謝料が発生する
※最高裁昭和42年4月27日
※最判昭和35年3月10日;類似する判断
※大判明治43年6月7日;類似する判断

3 財産的損害による慰謝料の発生(学説)

上記の例外的解釈は最高裁判例によるものです。
これとは別に学説としての解釈論もあります。

<財産的損害による慰謝料の発生(学説)(※2)

あ はみ出しの要件

財産的損害の外にはみ出した精神的損害がある場合
→特別事情による損害とする

い 予見可能性の要件

当事者に予見可能性があった

う 効果

『あ・い』の両方に該当する場合
→財産的損害とは別に慰謝料が発生する
※加藤一郎『不法行為 増補版』有斐閣p230

判例と学説で,現実的・実質的な違いはないと思われます。

4 財産的損害の賠償責任の範囲(通常/特別損害)

以上の理論について,別の視点でまとめてみます。
『賠償責任が認められる範囲』に着目します。
一般的に不法行為の賠償の範囲は『通常損害・特別損害』に分類できます。
これに沿って,物の毀損による賠償責任の内容を整理します。

<財産的損害の賠償責任の範囲(通常/特別損害)>

あ 損害賠償責任の分類

財産的損害の賠償責任について
→通常損害(い)と特別損害(う)に分類される

い 通常損害

通常生ずべき損害は『財産的損害』である

う 特別損害

特別事情により『精神的損害』が生じることがある
賠償責任を認める要件として
→『因果関係+予見可能性』が必要である
※民法416条
※加藤一郎『法律学全集22−2 不法行為 増補版』有斐閣1986年p230
※遠藤浩ほか『基本法コンメンタール 債権各論2 第4版』日本評論社1996年p57

5 財産的損害による慰謝料を認める事情の分類

以上の説明は慰謝料を認める理論の内容でした。
ところで,実際に財産的損害による慰謝料が認められるケースはたくさんあります。
それぞれについて,例外的な『慰謝料を認める特別な事情』があります。
特別な事情は大きく2つに分類できます。

<財産的損害による慰謝料を認める事情の分類>

あ 特別な物

目的物が被害者にとって特別な価値を有する

い 違法性の高い加害行為

加害行為の違法性が著しく高い
※遠藤浩ほか『基本法コンメンタール 債権各論2 第4版』日本評論社1996年p57

6 財産的損害により慰謝料を認めた具体的事例(概要)

財産的損害により慰謝料が認められた具体的な事例は別の記事で紹介しています。
前記の特別な事情の分類に沿って整理してあります。
詳しくはこちら|財産的損害による慰謝料が認められた事例(裁判例の集約)

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