1 マンスリーマンションのNHK受信契約者事件
2 NHKの目的と制度の構造
3 NHK受信料の性格と負担者の判断の枠組み
4 NHK受信料の負担者の判断基準

1 マンスリーマンションのNHK受信契約者事件

NHKの放送受信契約の締結義務や受信料の負担は放送法で定められています。これらの規定は非常に特殊なものです。
詳しくはこちら|NHK放送受信契約締結義務と受信料負担(放送法・NHK規約の規定)
本記事では,マンスリーマンションのNHK受信料の負担について,裁判所が判断した事例を紹介します。
まずは事案の概要と結論だけをまとめます。

<マンスリーマンションのNHK受信契約者事件>

あ 事案

Aがマンスリーマンションに入居・滞在した
滞在期間=32日間
当初から建物にテレビジョン受信機が設置されていた

い 裁判所の判断

受信機を設置する権限がある+設置した者について
→オーナーor管理会社である
→入居者Aではない
→Aには受信契約締結義務はない
※東京地裁平成28年10月27日

この結論自体は単純に思えますが,裁判所は制度の趣旨に遡って規定の解釈を示しています。
以下,順に説明します。

2 NHKの目的と制度の構造

最初に,裁判所はNHKの使命ともいうべき目的や制度の構造を整理します。とにかく制度自体が特殊なので,大きく基礎まで戻って検討・判断をしているのです。

<NHKの目的と制度の構造>

あ 目的

NHKは公共放送機関である
公共の福祉の維持・発展を目的とする
日本全国に豊かで良い放送を提供する
※放送法1条,15条

い 営利・広告の禁止

営利目的の業務・広告放送は禁止されている
公共性・中立性が理由である
※放送法20条4項,83条1項

う 経済的自律性

営利業務・広告がない(『い』)ことから
政府は,NHKの自律的な財政的基礎の確保を政策として採用している
→具体的方法・仕組みとして,受信契約・受信料の制度を採用した
広く国民に公平に負担を求める趣旨である
※放送法64条1項

3 NHK受信料の性格と負担者の判断の枠組み

前記の目的や制度の構造から,受信料の負担者の判断のベースとなる枠組みを示しています。

<NHK受信料の性格と負担者の判断の枠組み>

あ 受信料の性格

『ア・イ』のような特殊性がある負担金である
ア 国民の具体的な受益とは関係ない(※1)
イ 強制徴収の仕組みを伴わない

い 受信料負担者の判断の枠組み

前記※1の特殊性があるため
→『ア・イ』の事情は負担者の判断に影響しない
ア 実際に被告の放送を受信し視聴しているか否か
イ 実際に被告の放送を受信し視聴している者が誰か
※東京地裁平成28年10月27日

4 NHK受信料の負担者の判断基準

以上の判断を前提として,裁判所は受信料の負担者の判断基準を示しています。

<NHK受信料の負担者の判断基準>

あ 受信料負担者(受信契約締結義務者)の判断基準

一定の受信設備の設置という行為により捕捉する
→物理的・客観的にNHK放送を受信することができる状態を作出した行為者

い 受信可能状態の作出の具体例

『ア・イ』に該当する者
→『受信可能状態の作出(=受信契約締結義務者)』に該当する
ア 受信機を据え付ける私法上の権原を有する
イ 実際に設置した

う 否定された見解

受信設備を現実に占有・管理する者=受益者について
→受信契約締結義務者ではない
※東京地裁平成28年10月27日