1 所有の意思・自主占有|判断基準
2 占有取得の原因×所有の意思|典型例
3 相続の法律を誤解→所有の意思を認めた|判例
4 自主占有|否定する間接的事実|典型例
5 自主占有×固定資産税の負担|基本
6 自主占有×固定資産税の負担|判例
7 自主占有・所有の意思×立証責任

1 所有の意思・自主占有|判断基準

取得時効のためには『所有の意思』が必要です。
(別記事『取得時効|基本』;リンクは末尾に表示)
『所有の意思をもった占有』のことを『自主占有』と呼びます。
本記事では『所有の意思・自主占有』について説明します。
まずは『所有の意思・自主占有』の判断基準をまとめます。

<所有の意思・自主占有|判断基準>

あ 判断基準|基本

占有取得の原因たる事実によって外形的客観的に定められる

い 判断基準|詳細

ア 占有取得の原因である権原又は占有に関する事情によって判断する
イ 『外形的客観的』に判断する
ウ 占有者の純粋な内心の意思は判断要素ではない
※最高裁昭和58年3月24日

2 占有取得の原因×所有の意思|典型例

『占有取得の原因』について,具体例を使って説明します。

<占有取得の原因×所有の意思|典型例>

あ 譲り受けたタイプ

例=贈与,売買
→自主占有
→取得時効が成立する

い 貸し借りタイプ

例=賃貸借,使用貸借,寄託
→他主占有
→取得時効は成立しない
※最高裁昭和45年6月18日

3 相続の法律を誤解→所有の意思を認めた|判例

自主占有の判断は『占有開始時の権原』が重要です(前述)。
これに関して『法律の内容を誤解した』というレアケースがあります。
これについての裁判所の判断を紹介します。

<相続の法律を誤解→所有の意思を認めた|判例>

あ 事案

親族の一部が実家を去った
親族の1人Aが実家に残った
Aが実家の土地・建物を占有していた
占有者は,次のような誤解をしていた

い 占有者の誤解|内容

本来は新民法が適用される状態であった
しかし,旧民法の家督相続が適用されると誤解していた
→長男が相続すると信じていた
=Aが単独で所有していると信じていた

う 不動産売却

Aは自分が単独の売主として土地・建物を売却した

え 裁判所の判断

Aの土地・建物の占有には『所有の意思』が認められる
=自主占有が認められた
※東京高裁昭和52年7月19日

4 自主占有|否定する間接的事実|典型例

自主占有は『占有開始時の事情』だけで判断するわけではありません。
他にも多くの事情が判断材料になります。
一般的な事情の判断の目安・方向性をまとめます。

<自主占有|否定する間接的事実|典型例>

あ 占有権原の種類

類型的に『所有の意思なし』と言える占有権原であった
占有開始時の占有権原である

い 矛盾する言動あり

占有者に『真の所有者であれば通常取らない言動』があった

う 言動がないことが矛盾

占有者に『真の所有者であれば当然取るべき言動』がなかった
※最高裁昭和58年3月24日

5 自主占有×固定資産税の負担|基本

自主占有の立証で重視される事情として『固定資産税の負担』があります。
これについてまとめます。

<自主占有×固定資産税の負担|基本>

あ 基本

固定資産税を負担している場合
→通常,所有の意思が前提となっている
→『所有の意思=自主占有』が認められやすい
ただし例外もある

い 例外|使用貸借

親族間で土地を無償で貸す場合
→土地の固定資産税を借主が払うことが多い
使用貸借契約における『通常の必要費』と呼ぶ
※民法595条1項

う 例外|賃貸借

賃貸借の『賃料』の代わりという趣旨もあり得る

6 自主占有×固定資産税の負担|判例

固定資産税の負担の扱いは単純ではありません。
いくつかのバリエーションがあります。

<自主占有×固定資産税の負担|判例>

あ 原則的判断|基本

占有者が固定資産税を負担していた
→所有の意思が推定(認定)された
※東京地裁平成21年9月15日

い 原則的判断|裏から認定

土地の占有者は『贈与を受けた』と主張していた
占有者は30年近く固定資産税を負担していなかった
→所有の意思を否定した
※大審院昭和10年9月18日

う 例外的判断

占有者は固定資産税を負担をしていなかった
→このことが所有の意思を否定することにならない
※最高裁平成7年12月15日

7 自主占有・所有の意思×立証責任

所有の意思の立証は大きく対立することが多いです。
『立証責任』によって結論が決まる,というケースもあります。
所有の意思の立証責任の分配はちょっと複雑です。
これについて整理します。

<自主占有・所有の意思×立証責任>

あ 原則論

時効成立を『否定する側』に立証責任がある
理由;『所有の意思』は推定される
※民法186条

い 実務上の扱い

『占有開始時の占有権原』の比重が大きい
『占有権原』の種類は明確(争いがない)場合が多い
この時点で,判定が大きく傾いている
→『拮抗=判定不可能』となることが比較的少ない
→『立証責任で決着が付く』ということが生じにくい