1 賃料供託×賃貸人の対応|まとめ
2 賃料供託×賃貸人の対応|留保付き還付
3 供託金還付×『損害金の内入れ』の留保の効力|通達
4 『賃料として』の供託金還付×賃貸借の承認|判例
5 賃料供託×賃貸人の対応|供託金を放置するリスク
6 賃料供託→賃貸人が放置→賃借人の無資力|弁護士の責任論
7 賃料供託×賃貸人の対応|取戻請求権の仮差押

1 賃料供託×賃貸人の対応|まとめ

賃貸借の解除通知がなされた場合に,賃借人が『賃料の供託』をすることが多いです。
詳しくはこちら|賃貸借・解除後の賃料支払vs受領拒否|留保付き受領・供託
このような場合に,賃貸人としての対応にはバリエーションがあります。

<賃料供託×賃貸人の対応|まとめ>

あ 単純還付

『単純受領』と同様のリスクを負う(前述)

い 留保付き還付

通達で否定されている

う 解除の主張が明確な状態で還付を受ける

明渡請求訴訟の継続中などであればリスクは少ない

え 何もしない=供託金放置

担保を失う,という意味でリスクを負う

お 取戻請求権の仮差押

リスクを最小限に抑制することができる

それぞれの内容については次に説明します。

2 賃料供託×賃貸人の対応|留保付き還付

通常の『賃料支払』に対して実務的には『留保付きで受領する』を多用します(別記事;リンクは前記)。
これを『供託金』についても流用する,という発想が昔からあります。

<賃料供託×賃貸人の対応|留保付き還付>

供託金の還付請求に『留保の意思表示』を付けることはできない
※後記通達

通達で『留保付き還付(受領)』は否定されているのです。

3 供託金還付×『損害金の内入れ』の留保の効力|通達

供託金還付に『留保』を付けることの効力の解釈に関する通達を紹介します。

<供託金還付×『損害金の内入れ』の留保の効力|通達>

あ 解釈論

賃料として供託がなされた
被供託者による次の留保を付した受諾は効力を認めない

い 留保=意思表示の内容

『すでに家賃値上げ通告済みにつき家賃相当額の損害金の内入としてこれを受諾する』
※昭和39年7月20日民事甲2591号民事局長回答

4 『賃料として』の供託金還付×賃貸借の承認|判例

『供託金還付』の手続として『留保を付けない』場合の効力については判例があります。

<『賃料として』の供託金還付×賃貸借の承認|判例>

あ 供託→還付

建物の占有者が『賃料の弁済』として供託をした
建物の所有者が供託金の還付を受けた

い 建物所有者の態度=『賃貸借』の否定

建物所有者は,一環して次のような主張を行っていた
ア 建物所有者の主張
『建物の賃貸をしていない』
『占有権原は一切ない=不法占有である』
イ 裁判手続
占有者に対する明渡請求訴訟が係属していた

う 裁判所の判断

『供託金の還付を受けた事実』をもって『賃貸借を承認した』とは言えない
※最高裁昭和44年7月24日

供託金の還付を受けることのリスクはある程度限定的と言えます。
ただし,規模が大きい賃貸借の争いの場合『わずかのリスクも回避する』要請があります。
そこで『供託金の還付請求はしない』という方針・発想もあります。

5 賃料供託×賃貸人の対応|供託金を放置するリスク

供託された供託金の還付を受けない,という選択は一定のリスクがあります。

<賃料供託×賃貸人の対応|供託金を放置するリスク>

あ 取戻しの制度

供託者(元賃借人)は供託金の『取戻し』をいつでも行うことができる
※民法496条1項

い 担保を失うリスク

元賃貸人が無資力となったor財産の把握ができない場合
→差押による回収ができなくなる

6 賃料供託→賃貸人が放置→賃借人の無資力|弁護士の責任論

『賃料』としての供託金を賃貸人が放置することは一定のリスクがあります(前述)。
これが具体的な問題となったケースを紹介します。
『弁護士の責任』として問題になっています。
しかし,背景にあるものは『供託金の放置の影響』です。参考になる実例です。

<賃料供託→賃貸人が放置→賃借人の無資力|弁護士の責任論>

あ 賃貸人代理人弁護士の作戦

賃貸人は賃借人に対して解除を通知した
賃貸人は明渡請求訴訟を提起した
元賃借人が『賃料供託』を行った
賃貸人代理人弁護士は『還付を受けない』という選択をした(推奨した)
『取戻請求権の仮差押』(後述)も行わなかった

い 賃借人の供託金取戻し+無資力

訴訟係属中に賃借人は供託金の取戻しを受けた
訴訟終了時には無資力となっていた

う 賠償保険の判断|弁護士の責任論

弁護士の選択は不適切であった
賠償責任を認めた
※『弁護士賠償責任保険の解説と事例 第5集』全国弁護士協同組合連合会p25

7 賃料供託×賃貸人の対応|取戻請求権の仮差押

『賃料』としての供託金について,賃貸人の対応としてパーフェクトな方法をまとめます。

<賃料供託×賃貸人の対応|取戻請求権の仮差押>

あ 供託金の仮差押

ア 仮差押申立
賃貸人は次の債権について仮差押を行う
イ 仮差押|対象債権
元賃借人が供託所に対して有する供託金取戻請求権

い 効果

ア 元賃借人が『供託金の取戻し』を受けられなくなる
イ 『還付』ではない→『単純受領のリスク』を回避できる

完成度の高い方法です。
しかし,手間・コストも含めて『常に最適選択肢』であるとは限りません。
逆に,供託金の金額や不動産の規模が大きいケースでは必須と言える手法です。