【遺言と異なる内容の遺産分割|民事・課税上の解釈】

1 遺言と異なる内容の遺産分割|法的性格の重要性
2 遺言の内容により『遺産分割』ができるかどうかが違ってくる
3 遺言による財産移転のタイミングの解釈
4 遺言と異なる内容の遺産分割;例外的に否定される場合
5 遺言と異なる遺産分割×税務

1 遺言と異なる内容の遺産分割|法的性格の重要性

通常,相続の際,遺言があった場合,この内容どおりに遺産が承継されます。
遺言は,むしろ『遺産分割協議をしなくて済むようにする』ということも目的の主要なものです。

しかし,相続人間で遺言とは別の希望があり,その意向が合致することもあります。
最終的には『全員が納得している状態にする』ということは実現できます。
しかし,法的な性格が違ってきます。
具体的には,課税上,非常に大きな違いが生じることがあるのです。

そこで,以下『法的性格』を中心に説明します。

2 遺言の内容により『遺産分割』ができるかどうかが違ってくる

遺言の内容によって,理論的に,これとは異なる『遺産分割』ができるかどうかが違ってきます。

<遺言の内容による,遺言とは異なる内容の遺産分割の可否>

あ 『遺言執行者選任』または『遺産分割協議の禁止』がある

→遺言内容とは異なる遺産分割はできない
※民法1013条,907条1項

い 『遺言執行者選任』『遺産分割協議の禁止』のいずれもない

→遺言内容とは異なる遺産分割はできる
単純な民法解釈では遺言内容によって異なるが,裁判例において,原則的に遺産分割が認められている。
※さいたま地裁平成14年2月7日
※東京地裁平成13年6月28日

遺言の内容によっては,『確定的な財産の承継(移転)が完了』という解釈が取られます。
この場合,次のように考えることになります。

<遺言による財産移転が『確定・完了』している場合の解釈>

遺言により,財産移転が確定・完了した
→その後の遺産分割は不可能
→(遺産分割ではなく)『新たな取引(契約)』として財産が移転する

ただし,裁判例において,この部分はある程度柔軟な解釈が認められています。
原則的に,相続人などの当事者全員で協議がまとまった以上は,この協議を優先・尊重する,ということです。
その結果,『遺言の種類』にこだわらず,『遺産分割』として扱う,という解釈の方向性となっています。

3 遺言による財産移転のタイミングの解釈

上記のとおり『遺言により財産移転が確定,完了した』かどうかは,その後の『遺産分割』が認められるかどうかに直結します。
遺言によって,遺産が確定的・最終的に移転するタイミングについて説明します。

遺言による財産移転の性格は,遺言内容によって異なります。
『その後の遺産分割協議が可能かどうか』について,理論的な結論を以下,示します。
ただし,実際には裁判例において,ある程度柔軟な解釈が主流となっています。
あくまでも解釈論の基本,として説明します。

<遺言による財産移転の性格;遺言と異なる内容の『遺産分割』の扱い(形式論)>

あ 相続分の指定→『A』
い 遺産分割方法の指定→『B』
う 遺贈

(ア)特定遺贈→『C』(イ)包括遺贈→『A』;民法990条
『A』の場合
→遺言では割合だけが指定されている=遺産共有=その後の遺産分割協議で具体的承継内容が特定する
→その後の遺産分割協議は遡及効あり(民法909条)
『B』の場合
→遺言により確定的・最終的に財産の移転が完了する
※最高裁平成3年4月19日
→その後の遺産分割の性質=新たな取引(契約)≠民法上の『遺産分割協議』(※注1)
『C』
→『遺贈の放棄』がなされた場合は遡及的に遺贈が効力を生じない
※民法986条
→その後の遺産分割の性質=『遺贈の放棄』+『遺産分割協議』=『遺贈がなされない状態での遺産分割協議』

<捕捉;上記※注1>

この理論を柔軟に解釈し『遺産分割協議』とみる
※裁判例の主流

4 遺言と異なる内容の遺産分割;例外的に否定される場合

『遺言執行者選任』『遺産分割協議の禁止』が遺言に書かれている場合について説明します。

遺言において『遺言執行者選任』が記載されている場合,遺言内容と異なる遺産の移転が行われたとしても,その効果は否定されます。
※民法1013条
次に,遺言上『遺産分割が禁止されている』場合は,文字どおり,遺産分割ができません。
※民法907条1項
これらの場合に,『遺言と異なる内容の遺産承継の協議が成立した』時には,この協議(合意)は『遺産分割』としては認められません。
『遺言がないものとして=遡及的に,遺産分割協議が行われた』として扱われることはありません。
一方で,他の状況によっては,『遺言どおりに財産が承継された後の新たな取引(契約)』として認められる可能性があります。
この場合,相続後の新たな『贈与・売買・交換』契約として財産が移転する,ということになります。

5 遺言と異なる遺産分割×税務

遺言と異なる内容の『遺産承継の協議が成立した』という場合の法的性質は以上説明したとおりです。
この法的性質が課税上の扱いに直結する,というのも既に説明したとおりです。
しかし,最後に改めてこの部分について曖昧であることを指摘しなくてはなりません。

極力整理してまとめます。

<遺言と異なる遺産分割;民事上,課税上での扱いのまとめ>

あ 遺言に『遺言執行者の選任』『遺産分割禁止』が記載されていない場合

民事上,課税上のいずれも『遡及的な遺産分割』として扱う方向
※国税庁タックスアンサーNo.4176;後掲

い 遺言に『遺言執行者の選任』『遺産分割禁止』が記載されている場合

民事上→『遺産分割』ではなく『新たな取引』
課税上→原則的に『新たな取引』,ただし例外もあり得る
※国税庁タックスアンサーNo.4176
外部サイト|国税庁|タックスアンサーNo.4176

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