【家事調停における「調停前の処分」(家事事件手続法266条)(理論整理ノート)】
1 家事調停における「調停前の処分」(家事事件手続法266条)(理論整理ノート)
家事調停のオプションといえる制度として「調停前の処分」というマイナーなものがあります。あまり使われませんが、状況によっては解決実現の鍵となる有用な手段となることもあります。本記事では、この制度について、いろいろな理論、解釈を整理しました。
2 家事事件手続法266条の条文
家事事件手続法266条の条文
第二百六十六条 調停委員会は、家事調停事件が係属している間、調停のために必要であると認める処分を命ずることができる。
2 急迫の事情があるときは、調停委員会を組織する裁判官が前項の処分(以下「調停前の処分」という。)を命ずることができる。
3 調停前の処分は、執行力を有しない。
4 調停前の処分として必要な事項を命じられた当事者又は利害関係参加人が正当な理由なくこれに従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。
※家事事件手続法266条
3 調停前の処分の立法経緯と制度趣旨・性質
(1)立法経緯→規則事項から法律事項へ格上げ
立法経緯→規則事項から法律事項へ格上げ
(2)調停前の処分の趣旨と性質→審判以外の裁判
調停前の処分の趣旨と性質→審判以外の裁判
4 調停前の処分の主体→調停委員
調停前の処分の主体→調停委員
あ 原則→調停委員会
原則として合議体としての調停委員会が行う
い 例外→裁判官
急迫の事情があって調停委員会の判断を待つ余裕がない場合は、調停委員会を組織する裁判官が命じることができる
う 当事者→申立権なし
調停前の処分は職権で行う(当事者は職権発動を促すことができる)
5 調停前の処分の要件
(1)調停のために必要であること
調停のために必要であること
ア 「成立」のみが基準 当事者間の合意成立の障害となる事態を排除し、家事調停手続の円滑な進行を図るなど、調停の成立を容易又は可能にする措置を採る必要がある場合に限るという立場
イ 「実現」も基準に含む 調停が係属した後にその内容を実現することを容易又は可能とするための措置を採る必要がある場合も含まれるとする立場
(2)家事調停事件が係属していること
家事調停事件が係属していること
あ 調停係属
調停前の処分は、「調停前」とあるが、調停申立て後の調停係属が要件となる
調停前とは「調停成立前」という趣旨である
い 審判前の保全処分との関係→併存
調停の申立て後は、調停前の処分と審判前の保全処分の両方を行うことが可能である
6 調停前の処分を命ずることができる対象者
調停前の処分を命ずることができる対象者
あ 制限→なし
明文上の制限はなく、調停のために必要と認められる場合は誰に対しても可能である
い 過料の制裁の対象者→当事者・参加人のみ
不遵守に対する過料の制裁は当事者及び利害関係人(参加人)に限られる(家事事件手続法266条4項)
7 調停前の処分の内容の典型例
調停前の処分の内容の典型例
あ 子の連れ去り・隠匿禁止
子の監護に関する処分(子の引渡し)調停事件での子の連れ去りや隠匿の禁止
い 生活費仮払い
婚姻費用分担の調停事件における生活費の仮払い命令
8 調停前の処分の告知
調停前の処分の告知
9 調停前の処分に対する不服申立
調停前の処分に対する不服申立
あ 調停前の処分→不服申立なし
調停前の処分に対しては即時抗告をすることができない
い 過料の制裁→即時抗告
不遵守に対して過料の制裁がされた場合には、即時抗告が可能である(家事事件手続法291条2項において準用する新非訟事件手続法120条3項)
10 調停前の処分の取消・変更→可能
調停前の処分の取消・変更→可能
11 調停前の処分の効力
(1)執行力がないこと及び過料の制裁
執行力がないこと及び過料の制裁
あ 執行力→なし
調停前の処分は執行力を有しない(家事事件手続法266条3項)
い 過料の制裁→あり
当事者及び利害関係人が正当な理由なくその処分に従わなかった場合には、10万円以下の過料に処せられる
過料の対象は当事者及び利害関係人に限られる
(2)調停前の処分の効力の消滅
調停前の処分の効力の消滅
調停成立に至った場合、調停結果との調整が必要である
12 参考情報
参考情報
本記事では、家事調停における「調停前の処分」について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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