【遺言執行者の権利義務(任務)(民法1012条)(解釈整理ノート)】

1 遺言執行者の権利義務(任務)(民法1012条)(解釈整理ノート)

民法1012条は、遺言執行者の権利義務(任務)の規定です。条文はとてもシンプルなので、実務上のルールは判例や通説で構築されています。本記事では、遺言執行者の権利義務に関するいろいろな解釈を整理しました。
なお、遺言執行者の任務についての全体像は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺言執行者の任務(権利・義務)の総合ガイド

2 民法1012条の条文

民法1012条の条文

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
※民法1012条

3 遺言執行の基本原則

遺言執行の基本原則

あ 被相続人の意思と法の関係→被相続人の意思が優先

遺言執行の内容と範囲は、第一に被相続人の意思(遺言に明示され、あるいは遺言の解釈によって演繹される意思)によって決定される
法の規律は単にそれを再構成(補充)する役割をもつにすぎない

い 被相続人の意思→優先(尊重)

被相続人の意思が正確でないという理由で、遺言執行者が遺言の内容や範囲を変更することは許されない
最終処分以外の事項を執行することも許されない
無効な最終処分や被相続人の単なる道徳的義務を実現する必要もない

う 法による規律の適用→補充的

被相続人が遺言の執行について格別の意思を表示していない場合、特に遺言執行者の権限に触れていない場合には、被相続人の意思に代わって、法による規律が必要となる
民法1012条1項は遺言執行者の権利義務を包括的に規定し、2項は遺言執行者と相続人間の法律関係を規定している

4 遺言執行者の基本的な権利義務

(1)遺言執行者の管理権

遺言執行者の管理権

あ 基本

遺言執行者の管理権には、目的物の保存、権利の現状維持のための相続人に対する遺産処分禁止の仮処分、遺産債権の取立、受領した金銭や返済を受けた貸金の利殖などが含まれる
※最判昭和30年5月10日民集9・6・657
※大決昭和2年9月10日評論16民994
※東京高判平成5年5月31日家月47・4・32(前提として)

い 特定財産承継遺言→管理権否定

「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)の対象となった当該財産に対する管理権は当該相続人にある
※最判平成10年2月27日家月50・7・50

(2)遺言執行者の処分権

遺言執行者の処分権

遺言執行者の処分権には、相続財産の売却換価権(債権譲渡を含む)、債権を相殺する権利、和解契約を締結する権利などが含まれる
不特定物遺贈(金銭の遺贈を含む)の履行のために相続財産全部の換価が必要であれば、それも可能である
相続不動産に担保を設定することもできる
ただし、相続不動産を売却換価する場合には、相続人が任意の売却に同意している場合を除いて、競売(競争締結)によるべきである
不当に廉価な処分は解任事由となる
※名古屋高決昭和32年6月(日不詳)家月9・6・34
※東京高判平成5年5月31日家月47・4・32(前提として)

(3)遺言執行者の占有権

遺言執行者の占有権

管理処分権は、多くの場合、目的物の占有を必要とする
遺言執行者は、執行に必要な範囲内で相続人あるいは第三者に目的物の引渡を請求することができる
※大判昭和15年12月20日民集19・2283

(4)遺言執行者の明渡請求権(使用貸借の解約)

遺言執行者の明渡請求権(使用貸借の解約)

相続人居住の家屋に対する換価のための明渡請求については、現住者の居住が使用貸借に基づく場合には、解約告知をする権利が遺言執行者に与えられる
※東京地判昭和42年9月16日判タ215・165

(5)遺言執行者の抹消登記請求権

遺言執行者の抹消登記請求権

遺言執行者は、遺贈不動産について所有権移転の登記をなすべき立場(登記義務者)にあり、相続人が遺贈不動産に相続登記をなした場合には、その抹消を請求することができる
※大判明治36年2月25日民録9・190
※大判昭和15年2月13日評論29民606

(6)遺言執行者による遺産債務の履行

遺言執行者による遺産債務の履行

あ 相続債務の帰属→預貯金以外は当然分割

遺産債務は相続開始と同時に当然に相続人に分割帰属するのが原則である(預貯金などの例外あり)

い 債権者から遺言執行者への履行請求・催告→可能

しかし、遺産債権者は遺言執行者を相手に、遺言執行者の管理する相続財産からの弁済を求めることができる
遺言執行者は(相続人の代理人として)弁済の催告を受けることができる

う 債務超過時の破産申立義務

遺言執行者は相続財産の債務超過を発見した場合には、直ちに破産の申立をしなければならない

(7)遺留分の権利行使の相手方→包括遺贈の場合には肯定

遺留分の権利行使の相手方→包括遺贈の場合には肯定

遺贈に対する遺留分減殺請求について
包括遺贈の場合に限って遺言執行者に対しても減殺請求ができる
※大判昭和13年2月26日民集17・275

5 遺言執行者の執行補助者の使用→可能

遺言執行者の執行補助者の使用→可能

遺言執行者は任務の遂行にあたって、その責任において専門家、弁護士、助手などを履行補助者として使用することは差し支えない
補助者に対する儀礼的心付も許される

6 遺言執行者の責任

(1)注意レベル→善管注意義務

注意レベル→善管注意義務

あ 委任の規定の準用

遺言執行者の責任は委任の原則による

い 善管注意義務

委任事務処理の注意レベルは善管注意義務である
善管注意義務の懈怠によって相続人に損害を生じさせたときは、賠償の責を負わなければならない
注意義務の程度は、遺言の執行に要求される専門的知識や執行者の能力、性質を顧慮して決定される

(2)事務の種類別の責任

事務の種類別の責任

あ 報告義務

報告義務の懈怠は債務不履行となる

い 受け取った金銭の引渡義務・権利移転義務

受け取った金銭の引渡義務および権利移転義務の懈怠についても、債務不履行の責任を負わなければならない

う 金銭の消費

受領した金銭を消費した場合には、遅延利息の支払および損害賠償の責を負わなければならない

(3)責任の軽減→相続人との特約可能

責任の軽減→相続人との特約可能

遺言執行者は、相続人との特約によって善管注意義務を執行者自身の事務におけると同一程度の注意義務まで軽減することが可能であり、執行者が無報酬ないし過少報酬で執行にあたっている場合には、損害賠償額は減縮されると解される

7 特定財産承継遺言(相続させる遺言)の執行→原則否定

特定財産承継遺言(相続させる遺言)の執行→原則否定

あ 相続させる遺言の効力(前提)

特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有し、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が当該相続人に相続により承継される

い 登記手続をする抽象的権限→あり

相続させる遺言による権利移転について、当該相続人に不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属する

う 登記手続をする具体的権利義務

ア 被相続人名義ケース→遺言執行者の権利義務なし しかし、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない
イ 不実の登記ありケース→遺言執行者に権利義務あり 相続させる遺言により権利を取得すべき相続人への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由した場合、遺言執行者は遺言執行の一環として、その妨害を排除するため、所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできる
※最判平成11年12月16日民集53・9・1989

8 遺言執行者の被告適格

(1)遺贈の執行を求める訴訟→遺言執行者に被告適格あり

遺贈の執行を求める訴訟→遺言執行者に被告適格あり

遺言執行者が存在する場合、遺言の執行を求める訴え(例えば受遺者が遺贈不動産について所有権移転登記を求める訴え)においては、遺言執行者のみが被告適格を有し、相続人は被告適格を有しない
※最判昭和43年5月31日民集22・5・1137

(2)遺言の無効・解釈に関する訴訟→遺言執行者に被告適格あり

遺言の無効・解釈に関する訴訟→遺言執行者に被告適格あり

相続人や受遺者が、遺言無能力や遺言意思の欠缺、方式違背を理由に遺言の無効を主張する場合、または遺言の内容・範囲の確定を求める場合には、遺言執行者が被告適格を有する
※最判昭和31年9月18日民集10・9・1160
※東京控判大正3年11月5日新聞998・21

(3)相続財産に関する権利の争い→遺言執行者に被告適格あり

相続財産に関する権利の争い→遺言執行者に被告適格あり

相続人や第三者が、遺贈あるいは寄附行為の対象となった相続財産についてその権利の存否を争う場合にも、遺言執行者が被告適格を有する
※東京地判大正3年3月6日新聞950・23

(4)遺贈の効力に関する訴訟→遺言執行者に被告適格なし

遺贈の効力に関する訴訟→遺言執行者に被告適格なし

相続人が、すでに履行された遺贈の無効を主張して目的物の返還を求める場合には、遺言執行者は被告適格を有しない
この場合、相続人は遺言執行者ではなく受遺者を被告とすべきである
※最判昭和51年7月19日民集30・7・706

(5)遺留分減殺請求→遺言執行者に被告適格あり

遺留分減殺請求→遺言執行者に被告適格あり

あ 遺留分減殺を原因とする登記請求訴訟

遺言執行者がある場合における、相続財産である不動産につき遺留分減殺を原因とする所有権移転等の登記を求める訴えは、相続財産の管理・処分に関する訴訟であるから、その被告適格を有するものは相続人ではなく、遺言執行者である
※東京高判平成5年5月31日家月47・4・32

9 遺言執行者の原告適格

(1)遺言無効確認訴訟→遺言執行者に原告適格あり

遺言無効確認訴訟→遺言執行者に原告適格あり

遺言執行者は、遺言無効確認の訴えについて原告適格を有する
※大決昭和2年9月17日民集6・501
※大阪控判大正6年5月24日新聞1285・23

(2)所有権確認・登記抹消請求訴訟→遺言執行者に原告適格あり

所有権確認・登記抹消請求訴訟→遺言執行者に原告適格あり

遺贈の目的物が相続人あるいは第三者の所有名義になっている場合には、その権利の存否確認および登記抹消請求訴訟について、遺言執行者が原告適格を有する
※東京控判昭和6年3月30日新聞3271・11

(3)目的物引渡訴訟→遺言執行者に原告適格あり

目的物引渡訴訟→遺言執行者に原告適格あり

遺言執行者は、自己の名において相続人あるいは第三者に目的物の引渡を訴求することができる

10 身分上の事項における遺言執行者の権限

(1)遺言認知の届出→遺言執行者の権限

遺言認知の届出→遺言執行者の権限

遺言認知の執行については、遺言執行者の権限は戸籍への届出に限られる
成年の子の認知、胎児の認知および成年の直系卑属を残して死亡した子の認知について、それぞれ子、母、直系卑属の承諾を得る必要がある(民法782条・783条)
遺言執行者は遺言認知の執行が自己の任務であることを知った場合には、遅滞なく認知の届出をしなければならない
届出を遅滞することによって非嫡出子から遺産分割参加の権利を奪うことがあってはならず、時期を失した届出は善管注意義務の懈怠となる

(2)未成年後見人等の指定→執行不要

未成年後見人等の指定→執行不要

未成年後見人の指定(民法839条1項)および未成年後見監督人の指定(民法848条)については、特に執行を必要としない
指定未成年後見人(指定未成年後見監督人)は、遺言の効力発生時に当然に未成年後見人(指定未成年後見監督人)に就職したものとみなされる

11 狭義の相続に関する遺言執行者の権限

(1)廃除・廃除の取消→遺言執行者の権限

廃除・廃除の取消→遺言執行者の権限

遺言による廃除および廃除の取消については、その請求を家庭裁判所になし、審判の確定をまって戸籍に届け出るのが遺言執行者の任務である(民法893条・894条2項)
廃除の審判が確定するまでの相続財産の帰属の浮動的状態に対しては、民法895条による相続財産の管理に必要な処分(相続財産の管理人の選任、遺産の処分禁止あるいは占有移転の禁止)で対応する

(2)相続分の指定・遺産分割方法の指定等→執行不要

相続分の指定・遺産分割方法の指定等→執行不要

相続分の指定またはその委託(民法902条)、特別受益者の相続分に関する意思表示(民法903条3項)、遺産分割方法の指定またはその委託(民法908条)、遺産分割の禁止(民法908条)、遺留分減殺の制限(民法1034条但書)については、格別の執行を要しないとされるのが一般的である

(3)特定財産の分配の指示あり→遺言執行者の権限あり方向

特定財産の分配の指示あり→遺言執行者の権限あり方向

特定の財産をあげて相続人間の遺産分配を具体的に指示し、それと併せて遺言執行者を指定してある場合には、遺言執行者に遺言の実現(当該相続人への特定遺産の帰属)を委ねたものと解するのが素直である
遺産分割の実行も遺言執行者の職務権限に付随させることができる

(4)遺産分割の実行を遺言執行者に委託する発想(深掘り)

遺産分割の実行を遺言執行者に委託する発想(深掘り)

遺言執行者に遺産分割の実行を委託することが可能とすれば、遺言執行者は遺言の趣旨に従って相続財産を相続人に分配するために、原則として相続財産全体に管理処分権を有するものと解される
例=「全遺産を2人で等分に相続すべし」という遺言に遺言執行者の指定がある
(判例はこのような解釈をとっていない)

12 包括遺贈に関する遺言執行者の任務

(1)単純な包括遺贈→移転登記・引渡

単純な包括遺贈→移転登記・引渡

あ 基本→遺産共有となる

包括遺贈とは、遺産の全部または分数的一部を受遺者に与えるものである
包括受遺者は、相続開始と同時に当然に遺産の上に権利を取得し、共同相続人あるいは他の包括受遺者と共同所有関係に入る(民法990条・896条・898条・899条・906条以下)

い 遺言執行者の権限

ア 移転登記 遺贈を原因とする権利の移転登記について共同申請人となる
※昭33年4月28日民甲779号民事局長心得通達
包括遺贈にもとづく移転登記は、遺言執行者(または相続人)と受遺者の共同申請によるとするのが実務であり、民法990条の適用が排除されている
相続人が存在しない場合には、包括受遺者に登記を移転するために遺言執行者を選任しなければならない
※東京高決昭44年9月8日家月22・5・57
イ 引渡 目的物の引渡も執行者の手によってなされる
※名古屋高判昭58年11月21日判時1107・80

(2)清算型の包括遺贈→遺産全体の管理処分権

清算型の包括遺贈→遺産全体の管理処分権

遺産債務弁済後の一定割合を第三者に与えまたは分配すべきことを内容とする遺贈の場合、遺言を実現するために、遺言執行者に相続財産を清算分配する権限が与えられ、遺言執行者は相続財産全体に管理処分権を有する
この場合、遺言執行者によって遺言の実現を図る方がより合目的的である
少なくとも遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者に遺産の清算・分配権が帰属すると解される
※大判昭5年6月16日民集9・550(清算型の包括遺贈の事案)

13 特定遺贈

(1)特定遺贈における遺言執行者の任務

特定遺贈における遺言執行者の任務

あ 完全に移転する任務

特定の物または権利が遺贈の目的とされた場合には、受遺者にその物または権利を完全に移転せしめることが遺言執行者の任務となる
目的物の引渡および移転登記が主たる内容となる
※最判昭39年3月6日民集18・3・437

い 相続人の管理処分権→否定

遺言執行者のみが目的物に管理権を有し、相続人の管理処分権は完全に否定される(民法1013条)
遺言執行者は、遺贈目的の完全な移転を妨げる事情がある場合にはそれを排除する権利義務を有する

(2)特定遺贈における遺言執行者の任務の具体的内容

特定遺贈における遺言執行者の任務の具体的内容

あ 抹消登記請求

ア 所有権 相続人が遺贈の目的である不動産に相続登記をしているとか、第三者が虚偽の移転登記をしている場合には、登記の抹消を請求できる
※大判明36年2月25日民録9・190
イ 抵当権 相続人が遺贈不動産に抵当権を設定した場合には、その登記の抹消請求も可能

い 引渡請求

遺贈債権の債権証書を第三者が占有している場合には、その引渡を求めることができる
※大判昭15年12月20日民集19・2283

う 賃料の受領

遺贈の目的が賃貸家屋である場合には、家賃の受領も遺言執行者の権限に属する
※大決昭2年9月17日民集6・501参照

(3)特定遺贈の受遺者による履行請求

特定遺贈の受遺者による履行請求

あ 履行請求の相手方→遺言執行者のみ

遺言執行者がいる場合には、遺言執行者が遺贈義務者となるため、遺贈の履行請求(目的物の移転登記請求など)は遺言執行者のみを相手とすべきであり、相続人はその適格を有しない
※最判昭43年5月31日民集22・5・1137

い 移転登記手続

受遺者への移転登記は、被相続人名義から、直接、受遺者名義に移すべきものとされている
※大決大3年8月3日民録20・641
受遺者への移転登記は、遺言執行者と受遺者の共同申請による
※昭44年6月5日民事(3)発203号民事局第3課長回答
遺言書は不動産登記法35条1項2号にいう登記原因証書にあたらないため、遺贈による移転登記申請にあたっては、申請書副本を提出しなければならない(旧法)
※昭34年9月9日民甲1995号民事局長回答

(4)受遺者から相続人に対する抹消登記請求→可能

受遺者から相続人に対する抹消登記請求→可能

相続人に対して不法な相続登記の抹消を請求したり、第三者に不法な移転登記の抹消を請求する場合には、受遺者も所有権にもとづいて当然にその排除を請求できる
※千葉地判昭36年12月27日判タ130・109
※大判昭5年6月16日

(5)受遺者による仮処分→可能

受遺者による仮処分→可能

受遺者は、遺贈目的物の引渡あるいは登記請求などの請求権を保全するために、処分禁止その他の仮処分を申請することができる
※最判昭30年5月10日民集9・6・657

(6)第三者の所有物の遺贈→遺言執行者に遺産全体の管理権あり

第三者の所有物の遺贈→遺言執行者に遺産全体の管理権あり

特定物遺贈にあっては、遺言執行者の管理権は遺贈の目的とされた特定物に限られるのが原則であるが、第三者の所有物が遺贈された場合には、被相続人の遺贈意思が認められる限り(民法996条但書・997条)、遺言執行者はあたかも不特定物遺贈におけると同じ地位に立たされる
この場合には例外的に、遺言執行者の管理権が全相続財産におよぶと解される

14 不特定物遺贈(種類物遺贈・金銭遺贈)→遺言執行者に遺産全体の管理権あり

不特定物遺贈(種類物遺贈・金銭遺贈)→遺言執行者に遺産全体の管理権あり

種類物が遺贈の目的とされた場合には、遺言執行者は、当該種類物を特定(ないし調達)して受遺者に引き渡さなければならないし、金銭が遺贈の目的とされた場合には、その金銭を調達して給付しなければならない
不特定物遺贈にあっては、遺言執行者の管理権は相続財産全部におよび、相続人は相続財産全体について管理権を失うと解する

15 財団法人設立のための寄附行為

財団法人設立のための寄附行為

あ 財団法人の設立手続→遺言執行者の任務

財団法人の設立に必要な行為(寄附行為の補完、寄附行為書の作成、設立の許可申請、設立登記をすること)が遺言執行者の任務である
財団設立の許可があった場合に寄附財産を財団に移転させることも任務となる

い 遺産の移転→設立許可中でも可能

遺言執行者は寄附財産を設立許可申請中の財団に移転させうる
設立許可申請中の財団はいわゆる権利能力のない財団であるから、その代表機関名義に目的財産を移転することは、遺言執行者としては、遺言の目的の達成のために必要な行為をしたというべきであり、この行為をもってその任務に背くということはできない
※最判昭44年6月26日民集23・7・1175

16 信託の設定→受託者への財産移転が任務

信託の設定→受託者への財産移転が任務

遺言信託にあっては、信託財産を受託者に帰属させることによって、受益者に受益権を発生させるのが遺言執行者の任務となる
遺言信託は、基本的には、一種の遺贈といってよいから、受託者への信託財産の移転は遺贈の履行に準じて行えばよい
相続人を受益者に指定してある場合には遺産分割方法の指定の意味をもつことが多く、全相続財産の管理処分権が遺言執行者に帰属すると解すべきである

17 参考情報

参考情報

泉久雄稿/中川善之助ほか編『新版 注釈民法(28)補訂版』有斐閣2004年p330〜348

本記事では、遺言執行者の権利義務について説明しました。
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