【成年後見人報酬金額の実態と相場分析(裁判所基準と実務運用)】
1 成年後見人報酬金額の実態と相場分析(裁判所基準と実務運用)
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由により判断能力が十分でない方を法的に保護し支援する制度です。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
実際に成年後見人の申立(後見開始審判の申立)をする時には、毎月の報酬がどうなるのか、ということが気になります。本記事では、成年後見人の報酬の金額の相場について説明します。
2 成年後見人の報酬決定の仕組み
(1)家庭裁判所による報酬付与の審判制度
成年後見人の報酬は、家庭裁判所が「報酬付与の審判」という手続きを通じて決定します。後見人は、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い、裁判所がその妥当性を審査した上で報酬額を決定します。この申立ては通常、年1回の後見事務報告と同時に行われます。
(2)「成年後見人等の報酬額のめやす」の概要
最高裁判所事務総局家庭局が公表している「成年後見人等の報酬額のめやす」は、全国の家庭裁判所における報酬額決定の参考となる指針です。この目安は東京家庭裁判所とその立川支部における運用実務に基づいて作成されており、法的拘束力はありませんが、実務において重要な指針となっています。
(3)報酬決定の基準となる要素
報酬額の決定には、以下のような要素が考慮されます。
成年後見人とご本人の資力、両者の親族関係の有無、成年後見人の職業や社会的地位、後見事務の難易度や繁雑さ(財産管理と身上監護の両面を含む)、管理するご本人の財産額、後見人が職務を行った期間や内容、後見人が専門職であるか親族であるかなどです。これらの多角的な判断基準により、個々の事案に応じたより公平な報酬額が決定されます。
3 成年後見人の報酬の基本相場
(1)基本報酬の月額相場
成年後見人の基本報酬額は、主に被後見人の管理財産額に応じて決定されます。最高裁判所の目安によれば、以下のような相場となっています。
(ア)管理財産額1000万円以下の場合は月額2万円(イ)1000万円超~5000万円以下の場合は月額3~4万円(ウ)5000万円超の場合は月額5~6万円
これらの金額は、通常の成年後見事務を行った場合の目安であり、個々の事案の複雑さや後見人の労力によって増減する可能性があります。
(2)財産規模別の目安
管理財産額が少額の場合でも、最低限の報酬額として月額2万円程度が目安とされています。これは、財産が少ない場合でも一定の後見事務が発生するためです。一方、財産規模が大きくなるにつれて、管理の複雑さや責任の度合いが増すことから、報酬額も比例して増加する傾向にあります。
(3)地域差による相場の違い
成年後見人の報酬額には地域差が存在します。東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の報酬額の目安はほぼ同様ですが、地方都市では都市部に比べて報酬額が低くなる傾向があります。例えば、愛知県、岐阜県、三重県といった地域では、東京の目安よりも報酬額が低くなる場合があります。これは地域の経済状況や物価水準などが影響していると考えられます。
4 職業別の報酬相場の違い
(1)弁護士・司法書士が後見人の場合
弁護士や司法書士などの法律専門職が成年後見人となる場合、その専門性や責任の重さから、一般的に親族後見人よりも高い報酬を得ることが多いです。法定後見では、基本的には最高裁判所の目安に従って報酬が決定されますが、専門的な知識を要する複雑な案件を担当した場合には、付加報酬が認められることがあります。任意後見の場合は、月額3万円から5万円程度が相場となることが多いです。
(2)社会福祉士が後見人の場合
社会福祉士が成年後見人となる場合も、その専門性から、親族後見人よりも高い報酬が設定されることがあります。特に、身上監護(生活、医療、介護に関する手続きや契約など)が中心となる事案では、社会福祉士の専門性が重視され、それに応じた報酬が認められます。近年、成年後見人として選任される専門職の中で、社会福祉士の割合も増加しています。
(3)親族が後見人の場合→無償が多い
親族が成年後見人となった場合には、報酬を辞退する(請求しない)ことが多いです。もちろん、報酬を申請することも可能です。その場合、その額は家庭裁判所によって決定され、専門職後見人よりも低くなる傾向があります。これは、親族による後見が必ずしも経済的な利益を主目的としていない場合があるという考慮に基づいています。
なお、任意後見においては、親族は無報酬で後見人を務めることもありますし、専門職よりも低い報酬で合意することもあります。
(4)親族後見人とはならない状況(概要)
実際には、親族が後見人になって、月額報酬がかからないようにしたいというニーズはとても多いです。このようなケースでも、裁判所が、第三者(弁護士などの専門家)を後見人や後見監督人として選任してしまう、ということがあります。どのようなケースで第三者(専門家)が選任されてしまうのか、ということは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|後見開始審判において親族が後見人に選任される状況(専門職が選任される基準)
5 付加報酬が発生するケース
(1)財産管理が複雑な場合
通常の財産管理を超えて、特に複雑な財産管理が必要な場合には、基本報酬に加えて付加報酬が認められることがあります。例えば、多数の収益物件を管理する場合や、被後見人が経営に関わる企業の株式を多数保有している場合などが該当します。このような場合、財産管理の複雑さに応じて、基本報酬に付加報酬が加算されます。
(2)身上監護が手厚い場合
身上監護(生活、医療、介護に関する手続きや契約など)において特別な困難があった場合、基本報酬額の50%を上限として相当額の付加報酬が認められることがあります。
例えば、被後見人が施設入所を拒否する場合や、頻繁な医療的介入が必要な場合、複数の介護サービスの調整が必要な場合などが該当します。
(3)特別な事務処理が発生した場合
不動産の売却や遺産分割協議への参加など、通常の後見事務を超える特別な業務を行った場合にも、付加報酬が認められます。
具体的な例としては、損害賠償請求訴訟で勝訴した場合(1000万円の損害賠償請求訴訟で勝訴した場合、80万円から150万円程度)、複雑な遺産分割協議において有利な条件で遺産を取得できた場合(4000万円の遺産から2000万円相当を取得させた場合、55万円から100万円程度)、不動産を家庭裁判所の許可を得て売却した場合(3000万円の不動産を売却した場合、40万円から70万円程度)などが目安となります。
6 報酬額の変更事例
(1)報酬額が増額されたケース
報酬額が増額される具体的なケースとしては、以下のような例が挙げられます。
被後見人のために損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴して財産を増加させた場合、複雑な遺産分割協議において、被後見人が有利な条件で遺産を取得できた場合、被後見人の療養看護費用を捻出するために、不動産を家庭裁判所の許可を得て売却した場合、後見開始時の財産調査や、後見終了時の引き継ぎ事務など、特に煩雑な事務を行った場合などです。
これらの事例では、後見人が通常の業務範囲を超えて特別な努力や専門知識を必要とする業務を遂行した場合に、その貢献が報酬に反映されます。
(2)報酬額が減額されたケース
報酬額が減額される具体的なケースとしては、以下のような例が挙げられます。
身上監護の活動が不十分であると判断された場合(例えば、被後見人との定期的な面会を行っていない、支援者との連携が不足しているといった状況)、被後見人の財産額が非常に高額であるにもかかわらず、後見事務の内容がそれに見合うほど煩雑でないと判断された場合、親族が成年後見人に選任された場合などです。
これらのケースでは、報酬額が単に財産額に比例するだけでなく、後見人の活動内容やその質、そして後見人の属性なども考慮されることを示しています。
(3)裁判所の判断基準
家庭裁判所は、報酬額を決定する際に、成年後見人とご本人の資力、両者の親族関係の有無、成年後見人の職業や社会的地位、後見事務の難易度や繁雑さ、管理するご本人の財産額、後見人が職務を行った期間や内容、後見人が専門職であるか親族であるかなど、多角的な要素を考慮します。これにより、画一的な報酬決定を避け、個々の事案に応じたより公平な報酬額を導き出すことが目指されています。
7 報酬負担の軽減方法
(1)成年後見制度利用支援事業
成年後見制度利用支援事業は、成年後見制度の利用にかかる費用について、経済的な負担を軽減するための助成を行う事業です。この事業は、主に市区町村が実施主体となり、地域によって助成金額や対象条件に違いが見られます。
例えば、大阪市では、在宅の場合は月額上限28,000円、施設入所の場合は月額上限18,000円の助成が受けられます。対象者は生活保護受給者またはそれに準ずる方で、報酬の捻出が困難な方となっています。
(2)生活保護受給者の場合
生活保護受給者の場合、成年後見人の報酬は多くの自治体で利用支援事業の対象となります。生活保護を受給している方が成年後見制度を利用する場合、報酬の全額または一部が公費で賄われることがあります。
具体的な助成金額や手続きは自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の担当窓口に確認することが重要です。
(3)報酬の減額・免除を申し立てる方法
成年後見人の報酬が経済的に負担になる場合、家庭裁判所に報酬の減額や免除を申し立てることも可能です。この場合、被後見人の財産状況や収入状況、生活状況などを説明する資料を提出し、報酬の減額や免除を求める理由を明確に説明することが必要です。また、成年後見制度利用支援事業の利用も検討するとよいでしょう。親族が成年後見人となる場合には、報酬を辞退するという選択肢もあります。
8 まとめ(適正な報酬額の考え方)
成年後見人の報酬額は、被後見人の財産規模や後見事務の複雑さ、後見人の専門性などによって変動します。基本的には、月額2万円から6万円程度が相場となっていますが、地域差や個別の事情によって変動します。報酬額の決定は最終的に家庭裁判所が行いますが、その際には被後見人の利益と後見人の負担のバランスが考慮されます。
経済的に困難な場合には、成年後見制度利用支援事業などの公的支援を活用することも検討するとよいでしょう。
成年後見制度を検討される際には、弁護士や司法書士などの専門家や、地域の成年後見支援センターに相談することをお勧めします。
適正な報酬額は、被後見人の権利を守りつつ、後見人が適切に職務を遂行できる環境を整えるために重要な要素です。
9 Q&A(よくある質問)
(1)「報酬額が高すぎると感じる場合の対応は?」
法定後見人の報酬額は、後見人自身が一方的に決めるものではなく、家庭裁判所が決定します。もし、決定された報酬額が高すぎると感じる場合は、報酬付与の審判に対して不服を申し立てることはできませんが、家庭裁判所にその旨を伝え、事情の説明を求めることができます。
また、次回の報酬付与の申立ての際に、報酬額の見直しを求める意見書を提出することも考えられます。
家庭裁判所は、被後見人の財産状況も考慮して報酬額を決定するため、被後見人の経済状況に照らして過大な報酬であると判断されれば、減額される可能性もあります。
(2)「後見人が親族の場合、報酬は必須?」
親族が成年後見人に選任された場合でも、専門職と同様に報酬を請求することができます。ただし、親族後見人の場合は、親族関係にあることなどを考慮して、報酬額が減額されたり、無報酬となるケースも少なくありません。
報酬を請求する場合には、専門職と同様に、家庭裁判所への報酬付与の申立て手続きを行う必要があります。親族が後見人を務める際には、報酬を請求するかどうかは個人の判断によりますが、後見事務の負担や責任を考慮して決定するとよいでしょう。
(3)「複数後見の場合の報酬はどうなる?」
複数の成年後見人が選任された場合の報酬については、家庭裁判所が決定した報酬総額が、それぞれの後見人の分掌事務の内容や貢献度合いに応じて分配されます。後見人が複数になったからといって、報酬の総額が単純に人数分増えるわけではありません。報酬の分配割合について、明確な法的基準は存在せず、最終的には裁判官の裁量に委ねられます。
実務においては、例えば、2人の後見人が選任された場合に、50%ずつ均等に分配されるケースや、それぞれの役割や負担を考慮して、多少の差をつけて分配されるケースなどがあります。
(4)「報酬はどのように支払われる?」
成年後見人の報酬は、原則として被後見人の財産から支払われます。支払いのタイミングは、法定後見の場合は通常年1回、後見事務報告後に行われます。
なお、任意後見の場合は、任意後見契約で定められた方法によります。
いずれの場合も、成年後見人が勝手に報酬額を決定したり、被後見人の財産から引き出すことはできません。必ず家庭裁判所への報酬付与申立てを行い、許可を得る必要があります。通常は、家庭裁判所が決定した報酬額に基づき、成年後見人が被後見人の銀行口座から報酬額を引き出して受け取る形となります。
本記事では、成年後見人報酬金額の実態と相場分析について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に判断能力が低下している状況や成年後見人の選任に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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