【共同遺言の禁止(民法975条)(解釈整理ノート)】

1 共同遺言の禁止(民法975条)(解釈整理ノート)

民法上、共同遺言は禁止されています。本記事では、このルールについて、趣旨や解釈を整理しました。

2 民法975条の条文

民法975条の条文

(共同遺言の禁止)
第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
※民法975条

3 共同遺言の類型

共同遺言の類型

あ 単純共同遺言

同一の証書に数人のそれぞれ独立無関係の遺言がなされる場合
例=甲が乙に土地Aを遺贈する、丙が丁に土地Bを遺贈する、ということが1枚の紙に書かれる

い 双方的共同遺言(相互的共同遺言)

数人の遺言者がたがいに相手方に遺贈をしたり、相続人に指定したりする

う 相関的共同遺言

相互に相手方の遺言を条件として成立し、一方の遺言が失効すれば他方も当然に失効するもの
また、一方の遺言が執行されれば他方は撤回しえないとするもの

4 共同遺言禁止の趣旨

(1)共同遺言全般を禁止する趣旨

共同遺言全般を禁止する趣旨

あ 遺言の撤回の自由を妨げる

共同遺言では、一方の遺言を取り消しても他方を取り消さないということが困難になる場合がある

い 遺言者の意思に関する疑義

共同遺言では、遺言者が相互に他人の意思の影響を受けたのではないかという疑いが生じる余地がある
また、双方的または相関的共同遺言においては、他の遺言の無効または取消の場合、他方の遺言者の真意について争いが生じる恐れがある

う 遺言者の自由な意思表示の阻害

共同遺言においては、遺言者が他方への配慮から、完全に自由な遺言をすることができない場合がある

(2)単純共同遺言の禁止の趣旨

単純共同遺言の禁止の趣旨

単純共同遺言では遺言者相互に関係なく遺言が行われているにもかかわらず、民法はこれも禁止している
その理由は、形式において結合されている以上、遺言者の意思が相互に影響を受けたのではないかという疑いが生じる余地があるからである

5 複数の遺言書と共同遺言の区別→独立性

複数の遺言書と共同遺言の区別→独立性

同じ用紙を用いていても、切り離せば2通(以上)の独立した遺言書となるものは、共同遺言ではなく、それぞれ独立した自筆遺言証書になる
各独立した複数自筆遺言証書が同一の封筒に入れられている場合も同様である

6 実例(判例)

(1)2人のうち1人に方式違反(無効)→全体が無効

2人のうち1人に方式違反(無効)→全体が無効

あ 事案

「遺言書」と題する書面に、「遺産の分配を左記の通り申し置く」と記載され、最終項で「ただし右5件の遺産(不動産)の相続は両親共に死去した後に行なうものとし父A死せる時はまず母Bが全財産を相続する」と記されていた
日付記載の後に、「父A母B」との署名・押印があった

い 裁判所の判断

「同一の証書に2人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法975条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である」
※最判昭56年9月11日民集35・6・1013

(2)ABの記名押印だがAだけが作成→Aの単独遺言(有効)

ABの記名押印だがAだけが作成→Aの単独遺言(有効)

あ 事案

「遺言状」と題する書面の冒頭に「父A母B」と記され、本文では遺産分割の方法その他について定めてあった
当該遺言書作成にさいしてはAはBに何ら相談せず、Bの記名・押印もAによるものであり、BはA死後まで同遺言書の存在を知らず、また記載内容はすべてA所有の不動産の処分に関していて、Bの所有財産には全く関係がなかった

い 裁判所の判断

本件遺言は、一見、被相続人(A)と相手方Bとの共同遺言であるかのような形式となってはいるが、その内容からすれば、被相続人のみの単独の遺言であ(る)(有効である)
※東京高決昭57年8月27日判時1055・60

(3)2人の遺言の合綴→独立性があるので有効

2人の遺言の合綴→独立性があるので有効

あ 事案

夫名義の遺言書3枚と妻名義の遺言書1枚が合綴されていた

い 裁判所の判断

「本件遺言書はB5判の罫紙4枚を合綴したもので、各葉ごとに〔夫〕の印章による契印がされているが、その1枚目から3枚目までは、〔夫〕名義の遺言書の形式のものであり、4枚目は〔妻〕名義の遺言書の形式のものであって、両者は容易に切り離すことができる」
共同遺言ではない(有効である)
※最判平5年10月19日家月46・4・27

7 参考情報

参考情報

久貴忠彦稿/中川善之助ほか編『新版 注釈民法(28)補訂版』有斐閣2004年p140〜144
泉久雄稿/中川善之助ほか編『新版 注釈民法(28)補訂版』有斐閣2004年p144、145

本記事では、共同遺言の禁止について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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