【遺産分割調停の段階的進行モデル(詳細整理ノート)】
1 遺産分割調停の段階的進行モデル(詳細整理ノート)
家庭裁判所の遺産分割調停では、”段階的に協議を進める”方法がとられています。この調停の運用方法(方針)は一種のルールといえます。本記事では、この運用方法についての細かい内容を整理しました。
なお、段階的進行モデルを用いた実際の遺産分割調停の流れは、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産分割調停の段階的進行モデル(家裁の遺産分割の流れ)
2 段階的進行モデルの目的と意義
段階的進行モデルの目的と意義
あ 目的→適正・迅速
遺産分割調停においては、適正かつ迅速な解決を図るために、以下の順序で審理を進め、各段階での当事者の主張を整理し、対立点の調整と合理的な合意形成を目指している
い 段階に分ける意義
ア 感情的対立への配慮
段階的進行モデルは、遺産分割事件の紛争性の高さや当事者間の感情的対立を考慮したものである
遺産の範囲とその評価が確定する前に特別受益・寄与分の主張が先行すると、感情的対立が深まるため、合意を積み重ねる段階的進行が重要となる
イ 紛争の蒸し返し(重複)の回避
家庭裁判所の審判には既判力がなく、相続人の範囲や遺言の有効性、遺産の範囲については、家裁が仮に判断しても、地裁で異なる判断が出れば、家裁の審判が覆ることになるためである
※最大決昭和41年3月2日民集20巻3号360頁
3 段階的進行モデルの要点と導入状況
段階的進行モデルの要点と導入状況
あ 段階的進行方式(ステップ方式)
遺産分割に関する諸問題に論理的な順番を付けて、一つ一つ解決していく方式である
一つの問題点が解決すると、中間調書を作成し、合意事項について共通認識を持つ
合意できなければ、調停を取り下げて、論点について地裁等で既判力をもらうことになる
い 実務での導入状況
東京、横浜、大阪等大規模庁では、当たり前のように段階的進行方式で行われている
遺産分割調停の初回は、この段階的進行方式の説明から始まる
4 遺産分割調停の段階的進行
(1)遺産分割調停の進行の段階
遺産分割調停の進行の段階
(2)第1段階=相続人の範囲
第1段階=相続人の範囲
争いがあるときは、人事訴訟等で既判力をもらってくることになる
実務的に一番多いのは養子縁組無効の争いである
争う場合は、遺産分割調停を取り下げて、人事訴訟で解決することになる
取下げをしなければ、最終的には「調停をしない措置」がとられることがある
不調にはされない(不調にすると審判に移行するため)
(3)第2段階=遺言・遺産分割協議の確認
第2段階=遺言・遺産分割協議の確認
あ 基本
相続人の範囲について合意ができたら、遺言、遺産分割協議の有無を確認する
い 遺産分割済の確認
遺言書(特定財産承継遺言・特定遺贈)や遺産分割協議書があれば、既に「分割済み」だから、遺産分割調停を進行させることはない
相続分の指定遺言の場合は、その指定に基づいて遺産分割調停を行う
う 無効主張→ストップ
遺言、遺産分割協議が無効だという主張がある場合
遺産分割調停を取り下げ、まず地裁の訴訟で解決することになる
遺産分割調停を取り下げないときは、「調停をしない措置」がとられることがある
え 無効主張の留保→進行不可
「遺言は無効だが、無効の主張を留保し、有効であることを前提として調停をすすめてもらいたい」という申出がある場合
「主張を留保し」たまま、遺産分割調停を進めることはしない
中間調書に「遺言の有効性を認める」と記載することに合意ができない限り、遺産分割調停を取り下げて地裁の訴訟で解決する必要がある
(4)第3段階=遺産の範囲
第3段階=遺産の範囲
あ 基本
何を分けるかを確定する
合意ができれば、中間調書で遺産の範囲を確定する
これは、遺産分割調停4回目期日までに終了させるのが原則である
い 調停と審判の違い
遺産分割「調停」対象と遺産分割「審判」対象は異なる
本来の遺産分割対象財産は、当然に両方の対象になる
本来の遺産分割対象財産でなくても、合意があれば、調停では遺産分割の対象にできる
負債、他人名義の資産、家賃、葬儀費用も、調停なら対象にできる
う 合意に達しない→進行不可
範囲に争いがあるときは、遺産分割調停を取り下げ、まず地裁の訴訟で解決することになる
遺産分割調停を取り下げないときは、不調ではなく「調停をしない措置」がとられることがある
(5)第4段階=遺産の評価
第4段階=遺産の評価
あ 基本
「何を分けるか」を決めたら、次は、その評価を決める
合意ができれば、中間調書で評価合意をする
評価で合意できないときは、不動産などは鑑定になる
鑑定の場合は、事前に「鑑定結果を尊重する」という合意をし、中間調書を作成する
い 合意・鑑定申立なし→共有分割または進行不可
評価合意も鑑定もできないとき、当事者が強硬で調停進行に非協力的なときは、「価格不明」として、以下の処置をとる
(ア)法定相続分で争いがないときは、審判に移行して法定相続分の共有審判を出す(イ)具体的相続分が主張されているときは、調停委員会は「調停をしない措置」をとることがある(ウ)換価分割で異論がないときは、評価が不要になる場合がある
ただし、具体的相続分で争いがあるときは、相続時の遺産評価を確定する必要がある
(6)第5段階=各相続人の取得額(特別受益・寄与分)
第5段階=各相続人の取得額(特別受益・寄与分)
この段階まできて具体的相続分で協議が合意できないときは、ようやく審判に移行できる
(7)第6段階=遺産の分割方法
第6段階=遺産の分割方法
遺産の評価と各相続人の具体的相続分が確定するから、各人の取得分が数字で算出される
各人の取得希望遺産を確認し、具体的相続分との差額は代償金で調整する
5 運用上の柔軟性
運用上の柔軟性
調停初期段階で(後半段階の)遺産の分割方法や特別受益・寄与分に関する当事者の基本的な考えを把握することは、進行の方向性検討に有益である
6 内部評議の時期(標準的な進行テンポ)
内部評議の時期(標準的な進行テンポ)
あ 内部評議の実施
調停委員会は的確な調停運営のため、”裁判官と調停委員”との間で評議を密に行う
段階的進行モデルを基本としながら、節目となる期日を設け、その際に必ず対面の評議を実施している
い 節目となる期日
ア 第1回期日
事前評議を必ず実施し、事案の概要確認と進行方針の検討を行う
イ 第3回期日
遺産の範囲を確定することを目標とし、事後または第4回期日の事前に評議を実施
ウ 第7回期日
係属後1年前後に入り、特別受益・寄与分および遺産の分割方法についても検討される段階で、終局に向けた道筋の検討を行う
7 各段階における合意の調書化
各段階における合意の調書化
あ 中間合意の記録
当事者が遺産の範囲、遺産の評価等について合意した際には、その内容を期日調書に記載する
これにより紛争の蒸し返しを防止する効果がある
い 調書化の効果
(ア)紛争の蒸し返し防止(イ)手続代理人による当事者へのはたらきかけへの活用(ウ)調停委員会による説得力あるはたらきかけの実現(エ)当事者による話合いの進捗の認識と紛争解決意欲の向上
8 当事者への説明→チャート図の活用
当事者への説明→チャート図の活用
あ チャート図の活用
段階的進行モデルを図式化したチャート図を第1回期日までに当事者に交付し、各調停室に備え置いている
い チャート図の機能
(ア)遺産分割調停の進め方の全体像の提示(イ)遺産分割の法的枠組みの図示(ウ)調停の各段階における現在位置の確認(エ)説明内容の客観性・公平性の担保
9 遺産分割調停の期間の実情→1年以内
遺産分割調停の期間の実情→1年以内
10 付随問題(前提問題でもない)→遺産分割とは別扱い
付随問題(前提問題でもない)→遺産分割とは別扱い
あ 基本
遺産分割そのものではなく、前提問題でもないが、付随的に発生する問題がある
これらを遺産分割調停や審判に絡めると、調停が長期化し紛糾する
早期に解決できる目途がない限り、調停(協議対象)から除外する(訴訟で解決する)
い 付随問題の例
(ア)使途不明金問題(イ)葬儀費用問題・祭祀承継問題(ウ)遺産収益と遺産管理費用問題(エ)相続人固有の共有持分の清算(オ)同族会社の経営をめぐる問題(カ)相続後の土地建物の利用をめぐる問題
11 関連テーマ
(1)遺産分割調停における遺産評価の手続(整理ノート)
詳しくはこちら|遺産分割調停における遺産評価の手続(整理ノート)
(2)家事調停における調停をしない措置(家事事件手続法271条)
詳しくはこちら|家事調停における調停をしない措置(家事事件手続法271条)(解釈整理ノート)
12 参考情報
参考情報
森公任ほか著『弁護士のための遺産相続実務のポイント』日本加除出版2019年p39〜44
本記事では、遺産分割調停の段階的進行モデルについて説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割など、相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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