1 信託の目的の基本
2 信託の定義の条文規定
3 信託目的の役割
4 信託目的(信託の本旨)に反する処分の取消
5 信託目的の内容の分類
6 信託目的の具体例
7 株式投資信託契約における信託目的の例
8 信託目的と受託者の行動基準の関係の具体例
9 利益交付方法に関する信託目的の具体例

1 信託の目的の基本

信託契約には信託の目的(信託目的)を定めます。
信託の目的とは,日常的な意味と少し違う意味があり,信託契約の中で重要な機能を持ちます。
本記事では,信託目的の基本的な内容を説明します。

2 信託の定義の条文規定

信託法の信託そのものの定義の規定で,しっかりと信託の目的が記載されています。条文上は(財産の管理・処分の)一定の目的として記載されています。また,専らその者(受託者)の利益を図る目的を除くという記載も以前の法改正で追記されています。

<信託の定義の条文規定>

第二条 この法律において『信託』とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
※信託法2条1項

信託の目的は,この定義の規定以外でも登場します。以下,信託の目的が関係する規定も含めて取り上げて,信託の目的の意義を説明します。

3 信託目的の役割

信託契約では,必ず信託目的を定めます。受託者は,決められた信託目的を達成するために活動します。
つまり,信託目的は,受託者の行動の基準として機能するのです。
さらに,信託の終了や変更でも信託目的が基準として機能します。
なお,信託目的公共の利益である場合には,公益信託となり,行政の許可が必要になります。

<信託目的の役割>

あ 信託目的の必要性

信託においては『一定の目的』が定められなくてはならない
信託にとって必須の要素である
※信託法2条1項

い 受託者の行動基準としての役割

受託者がなすべき行為は,信託目的の達成のために必要な行為である
受託者の行為基準としての意味を有する
※信託法2条5項,26条
信託目的に反する処分は受益者による取消の対象となる(後記※1)
法人の目的が法人の代表者の権限の外延を画する(民法43条)のと同じである

う 信託の終了・変更

信託目的は,信託の終了や変更の場合において重要な意味を持つ
信託目的が達成不能となると信託は終了する
※信託法56条
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p18
※能見善久著『現代信託法』有斐閣2004年p20

え 公益目的における行政の許可

信託目的が一定の公共性があるものである場合は公益信託とされる
※信託法66条〜
公益信託の設定については,主務官庁の許可が必要である
※信託法68条

4 信託目的(信託の本旨)に反する処分の取消

信託目的は,受託者の行動基準として機能します(前記)。
逆に,受託者による財産の処分が信託目的に反している場合は,受益者はこれを取り消すことができます。

<信託目的(信託の本旨)に反する処分の取消(※1)>

あ 信託の本旨に反する処分の取消

受託者が信託の本旨に反する信託財産の処分をした場合
→受益者が取消権を有する
※信託法31条

い 信託目的との同質性

信託の本旨とは,信託の目的である
※能見善久著『現代信託法』有斐閣2004年p20

5 信託目的の内容の分類

信託目的の内容を大きく分類すると,信託財産の管理・運用受益者への利益の交付に分けられます。

<信託目的の内容の分類>

あ 信託財産の管理・運用の方法
い 受益者への利益の交付の方法

※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p18

6 信託目的の具体例

信託目的はとても広い内容があり得ます。最初に,典型的な例をまとめます。

<信託目的の具体例>

あ 特定の者の扶養

自分の配偶者を扶養する目的
特定の障害者を扶養する目的

い 特定の財産の管理

特定の土地の上にビルを建設してこれを管理する目的

う 不特定の者の支援

地震による被災地の高齢者の生活を支援する目的
※能見善久著『現代信託法』有斐閣2004年21

以下,もっと具体的な内容の例を挙げつつ,信託目的の機能を説明します。

7 株式投資信託契約における信託目的の例

信託目的の具体例を紹介します。
まず,株式投資信託の場合の信託目的は,投資先の判断や受益者への利益の交付の方法”です。
日常用語として目的というと,お金を増やす・家を買うというようなものを思いつきますが,これは動機にすぎません。信託目的ではないのです。

<株式投資信託契約における信託目的の例>

あ 受託者の行動基準の設定(前提)

受託者がいかなる方法によって投資先を決定し,いかなる方法によって受益者にそれを交付するかを定める必要がある
受託者の行動基準となる

い 信託目的

『あ』の内容(投資方法や受益者への交付方法の定め)が信託目的である

う 動機との区別

『お金を増やして家を買いたい』というものは信託目的ではない
信託をする動機にすぎない
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p18

8 信託目的と受託者の行動基準の関係の具体例

信託目的がどのように受託者の行動に影響するのか,について,具体例を使って説明します。
高齢の方への安定した生活資金の交付信託目的であるケースを想定します。この信託目的はやや抽象的です。そこで,状況によって受託者の行うべき行動は変わってきます。
信託財産が潤沢であればこれを維持することが安定した資金の交付につながります。
一方,信託財産が不足していれば,資金を殖やすために投資をする方向性となります。

<信託目的と受託者の行動基準の関係の具体例>

あ 信託目的の例

『Aが90歳になるまでの間,安定した生活資金を交付する』

い 守りの運用をすべき状況

信託財産として2億円の金銭がある・Aが80歳である場合
→受託者は,無理な投資によって信託財産を減少させてはならない
→定期預金として守っておく

い 攻めの運用をすべき状況

老後のために必要最低限の信託財産もない場合
→受託者は何とかして信託財産を殖やす必要がある
→場合によっては,ハイリスク・ハイリターンの投資を行う必要がある
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p18

9 利益交付方法に関する信託目的の具体例

前記のように,信託目的の内容は大きく2つあり,受益者への利益の交付方法もその1つとして含まれます。
いろいろな内容がありえますが,具体例としては元本を維持して利益だけを交付するとか,定期的に交付する金額を固定するというものがあります。

<利益交付方法に関する信託目的の具体例>

あ 信託目的の内容(前提)

信託目的(受託者がなすべき行為)の中には『ア・イ』の両方が含まれる
ア 信託財産をどのように管理・運用するか
イ 受益者にどのように利益を与えるか(い)

い 利益交付方法に関する信託目的の例

ア 元本維持方式
『元本は維持するが,その年に挙げた収益は,年末に受益者に金銭として給付する』
イ 定額交付方式
『月々20万円ずつ受益者に渡す』
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p18,19

本記事では,信託の目的(信託目的)の機能や設定の具体例を説明しました。
実際に,信託目的の解釈がはっきりしないために問題となるケースもあります。
実際に信託の利用をお考えの方や,既に作成した信託に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。