【遺言の内容による自筆性判断のプロセスと内容や具体例】

1 遺言の内容に関する判断要素(整合性)
2 遺言者が以前にした遺言の内容との整合性
3 遺言者の従前の発言との整合性の具体例
4 遺言者と相続人の関係との整合性の具体例
5 財産内容との整合性の具体例
6 遺言者の言動と作成時期の整合性の具体例

1 遺言の内容に関する判断要素(整合性)

遺言の自筆性(作成者)の判断要素の1つに『遺言の内容』があります。本記事では『遺言の内容』の判断について説明します。
遺言の内容は,これ単体で自筆性を判断するというものではありません。他の事情との整合性が判断の要素なのです。判断要素を整理します。

<遺言の内容に関する判断要素(整合性)>

あ 過去の遺言との整合性

遺言者が以前にした遺言と新たな遺言の内容の整合性(後記※1

い 遺言者の従前の発言・意向との整合性(後記※2
う 遺言者と相続人の関係との整合性

遺言者と相続人の親交の状況(後記※3

え 遺言の目的である財産内容との整合性(後記※4
お その他

作成時期によって以上の状況は変化する
→作成時期も含めて以上の状況を考慮・判断する(後記※5
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p49

2 遺言者が以前にした遺言の内容との整合性

過去の遺言とは別に新たな遺言を作成するケースは多いです。この場合は複数の遺言の内容の整合性が自筆性判断の1つの要素になります。

<遺言者が以前にした遺言の内容との整合性(※1)

あ 新たな遺言の作成の法的意味

いわゆる『遺言の書き換え』である
法律的には遺言の『撤回・変更』である
詳しくはこちら|遺言の撤回の種類(基本的解釈・具体例)

い 過去の遺言との整合性と自筆性の判断

以前の遺言と新たな遺言の内容の違いについて
合理的な理由が判明しない(整合しない)場合
→自筆性を否定する方向性
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p49

う 遺言の書き換えの際の注意(参考)

遺言を撤回・変更する状況において
『変更する理由』が後日判明しないと無効認定リスクを負う
→『変更する理由』を明記しておくとベターである
一方,過去の遺言を破棄しておくことも有用である
詳しくはこちら|遺言作成時の注意(タイミング・変更理由の記載・過去の遺言破棄)

3 遺言者の従前の発言との整合性の具体例

遺言者の生前の発言と遺言内容の整合性は自筆性判断の1つの要素です。具体的な判断の例を紹介します。

<遺言者の従前の発言との整合性の具体例(※2)

あ 遺言の内容

会社のことの言及が中心で,家族についての言及がない

い 遺言者の従前の発言・意向

遺言者は死亡直前まで社長職にあった
遺言者・子Aは会社に関する裁判をしてきた
→遺言者は会社の今後が気がかりであったと思われる
→遺言内容は不自然ではない

う 判断の傾向

自筆性を否定する方向性ではない
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p50

4 遺言者と相続人の関係との整合性の具体例

遺言者と(推定)相続人との関係と遺言内容の整合性は自筆性判断の1つの要素です。まずは『親交』があるかどうかを再現します。つまり,仲が良かったか悪かったかということです。そして例えば親交が濃密な者が多くの遺産を承継する内容であれば,合理的です。自筆性があるという判断につながるのです。親交の判断の具体例をまとめます。

<遺言者と相続人の関係との整合性の具体例(※3)

あ 身の回りの世話

子A(やその近親者)が遺言者の世話をしていた
→親交を肯定する方向性

い 家業へのサポート

子Aが遺言者を中心として運営する家業に相当程度寄与していた
遺言者が子Aに会社を委ねる意向を持っていた
→親交を肯定する方向性

う 暴力・嫌がらせ

子Aが遺言者に対して暴力を振るっていた
→親交を否定する方向性
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p49

5 財産内容との整合性の具体例

財産の内容と遺言の内容の整合性も自筆性判断の1つの要素です。いろいろな事情があります。ここでは代表的なものをまとめます。

<財産内容との整合性の具体例(※4)

あ 承継させる財産が小規模

『甲不動産を子Aに取得させる』
→甲の価値は,全資産の3%程度であった
→後妻への影響が小さい
→自筆性を肯定する方向性

い 作成時に存在しない財産

遺言作成日より後に取得した登記簿謄本の内容に言及があった
→自筆性を否定する方向性

う 支配権トラブル発生の可能性

家業としての会社株式の一定割合を子Aに相続させる遺言
→仮に法定相続分どおりだとすると,支配権が拮抗する
→内部で紛争が生じるおそれがあった
→自筆性を肯定する方向性
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p49

6 遺言者の言動と作成時期の整合性の具体例

遺言内容と他の事情の整合性は自筆性判断の重要なものです。この判断において『遺言の作成時期』が大きく判断に影響することもあります。具体的な実例を紹介します。

<遺言者の言動と作成時期の整合性の具体例(※5)

あ 遺言者の言動

生前の遺言者が次のような発言をしていた
『子Aが遺言者の印鑑を悪用して遺言書を偽造しないか心配している』
その後の作成日付による遺言が発見された

い 判断の傾向

自筆性を否定する方向性
※『遺言無効確認請求事件の研究(上)』/判例タイムズ1194号p49

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【自筆性判断のプロセスと内容(間接事実・補助事実)(全体)】
【自書能力の意味と判断要素や具体例】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00