労働審判はどう進むのか|申立てから審判・訴訟移行まで

1 労働審判はどう進むのか|申立てから審判・訴訟移行まで

解雇を告げられた、残業代が支払われない、ハラスメントで働けなくなった——そうしたときに使える手続の1つが労働審判です。訴訟より早く、原則として3回以内の期日で終わります。

もっとも、使うかどうかを判断するには、手続の内容を理解している必要があります。どこの裁判所へ出すのか、何を書いて何を添えるのか、いくらかかるのか、最初の期日はいつ入るのか、期日では何をされるのか、どういう形で終わるのか、納得できないときはどうなるのか。

この記事は、申立てから審判、そして訴訟への移行までを、労働審判法の条文と実務の文献に沿って順に説明します。

自分のトラブルがそもそも労働審判で扱えるのか、申立てで何を求めることになるのかについては、別の記事で説明しています。

労働審判では何を請求できるのか|審理の対象と範囲

労働審判をめぐる論点全体の見取り図は、別の記事で説明しています。

労働審判総合ガイド:労使の紛争解決のための実践マニュアル

2 申立てから訴訟移行までの流れ

下の表は、労働審判が申立てからどう進むのかを、段階ごとに並べたものです。左が手続の段階、右がその段階で起きることです。

この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。気になる段階があれば、その先の本文で詳しく説明しています。

申立てから訴訟移行までの流れ

手続の段階 そこで起きること
申立て 管轄のある地方裁判所へ、申立書と証拠書類の写しを提出します。手数料は求める額に応じて決まります
呼出し 申立書と証拠の写し、裁判所からの呼出状が、申立書に記載された相手方の住所へ送られます
第1回期日の指定 特別の事由がある場合を除き、申立ての日から40日以内に指定されます
答弁書 相手方は、第1回期日の7日から10日前ごろまでに答弁書と証拠を提出します
審理 特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終えます。当事者本人が委員会から直接質問を受けます
調停 委員会が調停による解決を試み、まとまれば調停の成立で手続が終わります
審判 調停がまとまらなければ審判が出ます。多くは期日で口頭により告知されます
異議 審判に納得できないときは、送達または告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てられます
訴訟への移行 異議があると審判は効力を失い、申立ての時に訴えの提起があったものとみなされます

3 労働審判法1条の二段=まず調停、まとまらなければ審判

労働審判は、裁判官1人と労使それぞれの専門家2人で作る労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で事件を審理し、まず調停による解決を試み、それでまとまらないときに審判を出す手続です。労働審判法1条が、この二段の形をそのまま書いています。

つまり、申し立てたからといって、いきなり判断が下されるわけではありません。実際にも、多くの事件は話し合いで終わり、まとまらなかったものについて審判が出ます。この記事で以下「調停」というときは、すべてこの労働審判手続の中の段階を指します。

条文

労働審判法1条の条文

この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。

※労働審判法1条

引用:文献・公開情報

労働審判制度とは何か——迅速性・専門性・柔軟性を備えた解決システム

労働審判制度とは、個別労働関係事件について裁判官1名と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労使の専門家2名で構成する委員会(労働審判委員会)が3回以内の期日で審理し、調停による解決を試み、調停が成立しない場合には「当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判」を行うという制度です(法1条)。
この制度の特徴を一言でいうと、多発する個別労使紛争を通常の民事裁判ではなく、労使の専門家と裁判官が一緒になって審理し迅速で柔軟な解決をすることができる司法制度ということです。
すなわち、通常の民事訴訟と比べると、労働審判制度の最大の特徴は、迅速性・専門性・柔軟性の3つを備えた実効的な解決システムという点にあります。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p19

(1)判断するのは3人——労使の専門家も裁判官と同じ1票

事件を審理して審判を出すのは、裁判官1人ではありません。労働審判官1人と、労働関係について専門的な知識経験を持つ労働審判員2人の、合わせて3人で作る労働審判委員会です。労働審判官は、地方裁判所がその裁判所の裁判官の中から指定します。

委員会の決議は過半数の意見によります。つまり労働審判員は、裁判官と同じ重さの1票を持っています。労使それぞれの側から選ばれた、職場の実情を知っている人が判断に加わる点が、訴訟と大きく違うところです。なお、評議の内容は秘密とされています。

条文

委員会は労働審判官1人と労働審判員2人で組織される

あ 労働審判委員会

裁判所は、労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う。

※労働審判法7条

い 労働審判官の指定

労働審判官は、地方裁判所が当該地方裁判所の裁判官の中から指定する。

※労働審判法8条

条文

労働審判員は労働関係の専門家から任命され、決議は過半数による

あ 労働審判員の職務

労働審判員は、この法律の定めるところにより、労働審判委員会が行う労働審判手続に関与し、中立かつ公正な立場において、労働審判事件を処理するために必要な職務を行う。

※労働審判法9条1項

い 労働審判員の任命

労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命する。

※労働審判法9条2項

う 委員会の決議と評議

労働審判委員会の決議は、過半数の意見による。
2 労働審判委員会の評議は、秘密とする。

※労働審判法12条

引用:文献・公開情報

委員会は職業裁判官1人と労働審判員2人——労働審判員は裁判官と同一の評決権を持つ

これに対して、労働審判制度は、事件を審理・審判する労働審判委員会が職業裁判官1名と、「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者」(労働審判員)2名によって組織され、合計3名で構成される合議体が労働審判手続を行います(法7条、8条、9条2項)。
そして、「労働審判委員会の決議は、過半数の意見による」ものとされ(法12条1項)、労働審判員は職業裁判官と同一の評決権を持ちます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p23〜24

(2)あっせん・民事調停との違い=審判という司法判断を併せ持つ機能

労働局のあっせんや簡易裁判所の調停といった裁判外の紛争処理は、話し合いをまとめる機能しか持ちません。労働審判は、話し合いがまとまらないときに司法判断としての審判を出す機能を併せ持っています。文献は、この点が決定的に異なるとしています。

審判が出て確定すれば強制力を持つため、そのことが前段の調停による解決にも影響します。

引用:文献・公開情報

調停機能に限定された裁判外の紛争処理とは決定的に異なる

労働審判手続は、調停による解決を試みるという調停機能だけでなく、調停が成立しない場合には司法判断としての審判という判定機能をも併せ持っているので、個別労働紛争解決促進法に基づく都道府県労働局におけるあっせん、都道府県労働委員会における個別労使紛争のあっせん、簡易裁判所における調停など裁判外の紛争処理制度(ADR)が調停機能に限定されているのとは決定的に異なります。
審判により司法判断がなされ、それが確定すると強制力を持つということになるので、当事者としてはその司法判断に従うという契機になり、その結論は重く受け止められます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p27

4 進め方は訴訟と違う——回数・主張の仕方・出せる結論・かかる期間

労働審判が訴訟とどう違うのかは、大きく4つの点に表れます。期日の回数、主張のやり方、出せる結論の形、そして手続にかかる期間です。以下、順に見ていきます。

なお、訴訟と労働審判のどちらを選ぶかという判断については、別の記事で説明しています。

労働審判と訴訟の違い(労働紛争解決手段の最適な選択)

(1)審理は3回以内の期日で終結(労働審判法15条2項)

労働審判法15条2項は、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終結しなければならないと定めています。必ず3回開くという意味ではなく、事情によっては1回や2回で終わることもあります。

訴訟では、解雇事件1件でも第一審の判決まで1年半から2年かかることがありました。労働審判は、はじめからこの3回という枠の中で進みます。この枠が、このあと出てくる進め方のほとんどを決めています。

条文

労働審判法15条2項の条文

労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。

※労働審判法15条2項

引用:文献・公開情報

訴訟は判決まで1年半〜2年——労働審判は3回以内の期日で終結するのが原則

通常の労働裁判(本訴)は審理期間が長く、例えば1人の解雇事件でも一審の判決までに1年半から2年くらいかかっていました。
日本の裁判は長くかかりすぎるということが、労働事件で裁判所が利用されない一番の原因であったと思われます。
これに対して、労働審判手続は、3回以内の期日で、審理を終結するのが原則です(法15条2項)。
必ず3回の期日を行うものではなくて、事情に応じて1回や2回の期日で終了することもあります(則21条2項)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p20

(2)口頭主義が原則=書面は申立書と答弁書だけ・その場での反論

訴訟では、準備書面を出しては次の期日、という形で進みます。労働審判で提出する書面は、原則として申立書と答弁書だけです。文献は、労働審判規則が口頭主義を原則としていると説明しています。

相手方の主張に対して「追って書面で反論します」という対応は許されません。その場で反論することが前提になっているため、当事者本人が期日に出席することが重要になります。

引用:文献・公開情報

書面は申立書と答弁書だけ——あとは口頭主義が原則

しかし、労働審判手続では、書面の提出は原則として申立書と答弁書だけで、あとは口頭主義が原則です(則17条1項)。
答弁書に対する反論やこれに対する再反論、再々反論は労働審判期日において口頭で行うと定められています。
当事者と労働審判委員会とが期日においてその場でお互いに議論し合い、これによって早期に争点とそれに関する当事者の主張及び証拠を明確にしようとするものです。
相手方の主張に対する反論は「追って書面でなす」という対応は許されません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p22

(3)判決の白黒と違う審判=権利関係を踏まえた実情に即した内容

訴訟の判決は、解雇が有効か無効か、請求権があるかないか、という形でしか出せません。労働審判は、当事者間の権利関係を踏まえたうえで、事案の実情に即した解決のために必要な内容を定めることができます。

審判で具体的に何を命じてもらえるのかについては、別の記事で説明しています。

労働審判では何を請求できるのか|審理の対象と範囲

引用:文献・公開情報

訴訟の判決は100かゼロか——労働審判は実情に即した審判ができる

民事訴訟における判決は100かゼロか、勝訴か敗訴しかなく、その中間的な判断というものはありません。
例えば、解雇事件では解雇が無効か有効か、労働契約上の地位があるかないかの判決ですし、賃金切下げ事件では切り下げられる前の賃金額の請求権があるかないかの判決しかありえません。
通常の民事訴訟でも和解の試みはなされるものの、強制力を伴わないものですし、当事者が同意しなければやはり判決で白黒をつけるしかありません。
これに対して、労働審判手続は、労働審判委員会が事件を審理し、いつでも調停を試みることができ、調停による解決ができない場合に、「当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判」がなされます(法1条)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p24

(4)申立てから終わるまでは、平均して3か月ほど

では、実際にはどのくらいかかるのか。文献は、第1回期日まで約40日、申立てから終局日までの平均審理期間は91.0日だとしています。2回目の期日までに手続が終了した事件が7割近くにのぼるとも書かれています。

この本は、以前は申立てから平均して約2か月半で終わっていたものが約3か月に延びたこと自体を問題にしています。ここに挙げた数字は、この文献(2023年5月の3訂版)が示している時点のものです。

解決の割合について、文献は、労働審判制度が短期間で約8割という高い解決率を維持していると述べています。

引用:文献・公開情報

第1回期日まで約40日、平均審理期間は91.0日——約2か月半から約3か月へ延びた

第1回期日は申立後40日以内に指定しなければならないので(則13条)、最初の期日まで約40日かかります。
そして、第2回期日と第3回期日までの間隔は事情に応じて様々ですが、概ね第2回目は2週間~3週間後、3回目はもっと短い場合が多いと思われます。
2回目の期日までに手続が終了した事件が7割近くもあり(24条終了、却下・移送を除く)、申立から終局日までの平均審理期間は91.0日となっていて、平均するとかなり短い期間で手続が終了しています。
しかし、過去には申立から平均して約2カ月半で労働審判事件は終局解決していたのに、なぜ現在は約3カ月(91.0日)に延びたのでしょうか。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p20

引用:文献・公開情報

短期間で約8割という高い解決率

労働審判制度が短期間で約8割という高い解決率を維持しているのは、労働審判手続の期日において、争点や証拠の整理に関する事情聴取や証拠調べとしての審尋の際に、労働審判委員会が直接・口頭で、当事者本人及び参考人に対して適宜質疑応答し事情聴取が行われるコミュニケーションによって、早期の心証形成や調停成立への説得につながっており、これらがひいては個別労働紛争の迅速かつ適正な解決に資するものとなっているとの評価は争いがないところといえます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p59

5 申立先の地方裁判所=労働審判法2条1項の3つ(相手方・勤務地・合意)

申立先は地方裁判所です。労働審判法2条1項は、3つを並べて置いています。相手方の住所や営業所・事務所のある地を管轄する地方裁判所、労働者が現に就業している、または最後に就業していた事業所のある地を管轄する地方裁判所、そして当事者が合意で定める地方裁判所です。文献はこの3つに①②③と番号を付けて整理しています。

2つ目に置かれた、勤務地を管轄する裁判所を選べるため、本社が遠くにあっても、自分が働いていた場所の裁判所へ申し立てることができます。この「事業所」は緩やかに解され、支店登記がされている必要はなく、現に就業していた場所であればよいとされています。

なお、訴訟と違って応訴管轄は生じません。相手方が異議を述べずに手続に応じても、それによって管轄が生まれることはありません。

条文

労働審判法2条1項の条文

労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。

※労働審判法2条1項

引用:文献・公開情報

申立先は3つのいずれか——応訴管轄は生じない

審判の申立は、①相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、②労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業しもしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所、③当事者が合意で定める地方裁判所のいずれかに対して行います(法2条)。
応訴管轄は生じません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p33

引用:文献・公開情報

②の「事業所」は緩やかに解される

①の「営業所」「事務所」はある程度独立して業務が行われている場所をいいますが、②の「事業所」はこれらほど独立して業務が行われている場所である必要はなく、緩やかに解されます(齊藤友嘉「労働審判法の成立経緯と概要」ジュリスト1275号16頁)。
支店登記がされている必要はなく、現に就業していた場所であれば、他の会社の営業所・事務所の一画であっても事業所に該ります。
労働者が現に就労している、あるいはしていた場所であればよいということです(②の「事業所」は、労基法上の事業場とは異なり、労基法上は事業場に該当しない就業場所も含まれることになります)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p33〜34

(1)申立てができるのは本庁と5つの支部だけ

もっとも、どの地方裁判所でも受け付けてもらえるわけではありません。法律上は支部にも管轄がありますが、制度が始まる当初、裁判所は本庁だけで申立てを受け付ける予定でした。その後、2010年に立川支部と小倉支部、2017年に松本・浜松・福山の3支部が加わり、文献が書かれた時点でも、申立てができるのは本庁とこの5つの支部だけです。

勤務地を管轄するのが支部であっても、その支部で受け付けていなければ、本庁へ出すことになります。

引用:文献・公開情報

制度の当初は本庁のみで申立てを受け付ける予定だった

法律上は、地方裁判所に管轄があると規定しているだけですから、地方裁判所の支部にも管轄があります。
ただし、裁判所は、労働審判制度が始まる当初は、本庁のみで申立を受け付けることを予定していました。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p34

引用:文献・公開情報

支部で申立てができるのは立川・小倉・松本・浜松・福山の5か所

2010年(平成22年)4月から東京地裁立川支部と福岡地裁小倉支部の2箇所で労働審判手続が始まりました。
さらに、その5年後の2015年(平成27年)1月から「民事司法改革に関する日弁連・最高裁協議」がスタートし、4部会が設置されて、そのうちの「基盤整備部会」で労働審判支部拡大などがテーマとなって協議が行われました。
筆者も支部拡大の担当者として最高裁と協議に臨みました。
紆余曲折はありましたが、色々と努力してようやく「松本・浜松・福山」の3支部で新たに労働審判の申立ができることが決まり、2017年4月から開始されました。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p35

引用:文献・公開情報

全国で5支部しか労働審判を申し立てることができない

労働審判制度が新たにスタートしてから16年も経つのに、全国で未だにたったの5支部しか労働審判を申し立てることができません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p35

(2)契約書に管轄の定めがあっても、書面でなければ効かない

雇用契約書に「本社所在地を管轄する裁判所を管轄裁判所とする」といった条項が入っていることがあります。合意で管轄を定めること自体はできますが、文献は、その合意は書面でしなければならず、書面のない合意は無効だと説明しています。就業規則は使用者が一方的に定めるものなので、そこに書いてあるだけでは合意にはあたりません。

引用:文献・公開情報

合意管轄は書面が必要——就業規則の定めでは足りない

まず合意は書面でしなければならない(則3条)ので、書面のない合意は無効です。
管轄について事前の合意をすることはできるでしょうか。
書面を一方的に押し付けられたり、入社の際に何の説明もなく他の書類と一緒に署名・捺印したとか、雇用契約書の多くの条項の中に紛れていたという場合には真正の合意がないので無効と解すべきです。
また、就業規則は使用者が一方的に定めるものですから合意書面にはあたらないので、就業規則で定めているだけでは管轄合意があったものとすることはできません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p34

6 弁護士をつけることは義務ではないが、代理人になれるのは原則として弁護士だけ

労働審判法は、代理人を立てることを義務づけていません。本人だけで申し立てることもでき、弁護士がついていないことを理由に申立てが受け付けられないということはありません。

一方、代理人を立てる場合、代理人になれるのは、法令により裁判上の行為ができる者のほかは弁護士に限られます。裁判所が必要かつ相当と認めたときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可できます。

文献は、3回以内という限られた期日で進む手続であるため代理人を立てる必要性はかなり高いとしたうえで、約10%の事件が本人だけで行われているとしています。

条文

労働審判法4条1項の条文

労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができない。ただし、裁判所は、当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。

※労働審判法4条1項

引用:文献・公開情報

代理人をつけることは義務ではない

労働審判法は代理人をつけることを義務付けていません。
したがって、個別労働関係民事紛争を抱える労働者、事業主なら誰でも本人だけで申し立てることができます。
弁護士がついていないからといって、裁判所は申立を受け付けないということはできません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p36

引用:文献・公開情報

3回以内で進むため代理人の必要性は高い——本人だけの事件は約10%

特に、3回以内という限られた期日で迅速かつ効率的に紛争解決を行うためには弁護士を代理人につける必要性がかなり高いでしょう。
裁判所は、できれば全件弁護士がついてほしいと希望しています。
約10%の事件が本人訴訟というのが現状です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p37

7 申立てに要るのは申立書と証拠の写し、部数分の写し、手数料と郵便切手

ここからは、申し立てるときに手元でそろえるものを見ていきます。以下、申立書に書くことと添える証拠、提出する通数とそのほかの添付書類、そして費用を順に説明します。

(1)申立書の記載事項=労働審判法5条と規則|証拠の写しの添付

申立ては、申立書を裁判所に提出して行います。口頭で申し立てることはできません。労働審判法5条は、申立書に当事者と法定代理人、申立ての趣旨および理由を記載することを求めています。

これに加えて、文献は、労働審判規則が必要的な記載事項を定めていると説明しています。申立ての趣旨、申立ての理由、予想される争点とそれに関連する重要な事実、争点ごとの証拠、そして当事者間で行われた交渉など申立てに至る経緯の概要です。

証拠書類があるときは、その写しを申立書に添付して提出します。解雇事件であれば、労働契約書、就業規則・賃金規程、解雇通知、解雇理由証明書、賃金明細書などが基本的な証拠になります。原本は第1回期日に持参します。

条文

労働審判法5条の条文

当事者は、個別労働関係民事紛争の解決を図るため、裁判所に対し、労働審判手続の申立てをすることができる。
2 前項の申立ては、申立書を裁判所に提出してしなければならない。
3 前項の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 申立ての趣旨及び理由

※労働審判法5条

引用:文献・公開情報

申立書の必要的記載事項①〜⑤

申立書には、申立の趣旨及び理由を記載しなければならず(法5条3項)、必要的な記載事項が規則で定められています(則9条1項・2項)。
①申立の趣旨
②申立の理由
申立を特定するのに必要な事実及び申立を理由付ける具体的な事実を含むものでなければならない。
③予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
④予想される争点ごとの証拠
⑤当事者間においてされた交渉その他申立に至る経緯の概要。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p44

引用:文献・公開情報

予想される争点についての証拠書類は写しを添付する

予想される争点について証拠書類があるときは、申立人は、その写し(コピー)を申立書に添付して提出しなければなりません(則9条3項。原本は第1回期日に持参します)。
基本的な証拠や争点に関する証拠は、申立の段階からできるだけ出すようにすべきです。
そうしないと、第1回期日での証拠の整理ができません。
例えば、普通解雇事件の場合、基本的な証拠というのは、労働契約書、就業規則・賃金規程、解雇通知、解雇理由証明書、賃金明細書等です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p45

(2)提出は正本1通と相手方の数に3を加えた写し、ほかに資格証明書と委任状

申立書は、正本1通と、相手方の数に3を加えた数の写しを提出します。委員会が3人で構成されるためで、相手方が1人なら正本1通と写し4通です。証拠書類の写しは、委員会用に1通と、相手方の数と同じ数を出します。

このほか、相手方が会社などであれば資格証明書(商業登記簿謄本の役員欄)を、代理人を立てたときは訴訟委任状を添えます。

引用:文献・公開情報

申立書は正本1通と相手方の数に3を加えた数の写し

申立書は、正本1通と相手方の数に3を加えた数の写し(コピー)を提出しなければなりません(則9条4項)。
労働審判委員会は3名で構成されるからです。
相手方が1人なら正本1通と写し4通です。
また、証拠書類の写しは労働審判委員会用に1通と相手方の数と同じ数を提出します(同条3項・4項)。
相手方が1人なら2通です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p46

引用:文献・公開情報

資格証明書と訴訟委任状を添付する

申立にあたっては、上記のほか、相手方が会社等の場合には、資格証明書(商業登記簿謄本の役員欄)を添付する必要があります。
代理人を選任したときは訴訟委任状も必要です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p48

(3)費用は、求める額に応じた手数料と、郵便切手

申立ての手数料は、民事調停の申立てと同額です。民事訴訟費用等に関する法律の別表第一の一四が、求める事項の価額に応じた算出方法を定めています。100万円までの部分は価額10万円までごとに500円、100万円を超え500万円までの部分は20万円までごとに500円、というように刻まれています。

文献は、この計算により、100万円の賃金請求なら5,000円、200万円の請求なら7,500円になるとしています。1,000万円までの申立てであれば民事訴訟の半額です。一般には、収入印紙を申立書に貼る方法で納めます。

解雇事件は少し複雑です。東京地裁では、解雇日から申立日までの賃金と申立て後3か月分の賃金の合計額と160万円とを比べて、大きいほうを申立ての価額とする取扱いがされています。ほかの裁判所では計算が異なることもあります。このほか、相手方への送付費用として郵便切手を予納します。裁判所によっては、切手ではなく現金を納める扱いのところもあります。

条文

民事訴訟費用等に関する法律別表第一の一四の規定

一四 民事調停法による調停の申立て又は労働審判法による労働審判手続の申立て
調停又は労働審判を求める事項の価額に応じて、次に定めるところにより算出して得た額
(一) 調停又は労働審判を求める事項の価額が百万円までの部分 その価額十万円までごとに 五百円
(二) 調停又は労働審判を求める事項の価額が百万円を超え五百万円までの部分 その価額二十万円までごとに 五百円
(三) 調停又は労働審判を求める事項の価額が五百万円を超え千万円までの部分 その価額五十万円までごとに 千円
(四) 調停又は労働審判を求める事項の価額が千万円を超え十億円までの部分 その価額百万円までごとに 千二百円
(五) 調停又は労働審判を求める事項の価額が十億円を超え五十億円までの部分 その価額五百万円までごとに 四千円
(六) 調停又は労働審判を求める事項の価額が五十億円を超える部分 その価額千万円までごとに 四千円

※民事訴訟費用等に関する法律別表第一の一四

引用:文献・公開情報

申立ての費用は民事調停と同一——100万円の請求なら5,000円

申立の費用は、民事調停の申立の場合と同一と定められています(民事訴訟費用等に関する法律別表第1の14、手数料額早見表)。
1,000万円までの申立ならば民事訴訟の半額です。
一般的には収入印紙を申立書に貼付する方法で納めます。
例えば、100万円の賃金請求をする場合には5,000円の申立費用となります。
200万円の請求なら7,500円です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p46

引用:文献・公開情報

解雇事件の申立ての価額と郵便切手の予納(東京地裁の取扱い)

労働審判の場合には、3回の期日で終わらせるのですから、平均3カ月程度が目安なので、申立費用は、解雇日から申立日までの賃金(既に支払日が過ぎている過去分賃金の合計額)及び申立後3カ月分の賃金の合計額と160万円とを比較してどちらか金額が大きい方を訴額(申立の価額)とするという取扱いが東京地裁ではなされています。
他の裁判所では費用の計算が異なることもありますので、事前に問い合わせた方がよいでしょう。
なお、申立書等の相手方への送付費用として、郵便切手を予納しなければなりませんが、裁判所によっては、切手ではなく現金を納める扱いのところもあるので、確認が必要です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p47〜48

8 申立てから40日以内の第1回期日の指定|実際の遅れ

申立てがあると、裁判所は第1回の期日を定めて事件の関係人を呼び出します。申立書と証拠の写し、そして呼出状が、申立書に記載された相手方の住所へ送られます。呼出状には、期日前に主張や証拠の申出、証拠調べに必要な準備をすべきこと、答弁書の提出期限などが記載されます。

文献は、労働審判規則により、特別の事由がある場合を除いて申立ての日から40日以内に第1回期日が指定されると説明しています。

ただし実務では、相手方に代理人がつくのが遅れるなどの事情で、40日以内に期日が入らないことが往々にしてあるとも書かれています。

条文

労働審判法14条1項の条文

労働審判官は、労働審判手続の期日を定めて、事件の関係人を呼び出さなければならない。

※労働審判法14条1項

引用:文献・公開情報

申立書と証拠の写し・呼出状が送付され、40日以内に第1回期日が指定される

申立があると、第1回の労働審判手続の期日が定められて、事件の関係人は呼び出されます(法14条)。
申立書と証拠の写し及び裁判所からの呼出状が申立書記載の相手方の住所に送付されます(則10、15条)。
呼出状には、第1回期日前に、主張や証拠の申出、証拠調べに必要な準備をすべきこと、答弁書の提出期限などが記載されます(則15条)。
第1回期日は、特別の事由がある場合を除き、申立がなされた日から40日以内に指定されます(則13条)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p49

引用:文献・公開情報

40日以内に期日が入らないことが往々にしてある

労働審判規則13条は、労働審判官は特別の事由がある場合を除き、申立から40日以内に第1回期日を指定しなければならないと定めているのに、40日以内に期日が入らないことが往々にしてあります。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p21

(1)答弁書の提出期限=第1回期日の7日から10日前ごろ

相手方の答弁書の提出期限は、労働審判官が定めます。文献は、裁判所が第1回期日の7日から10日前くらいを提出期限としているとし、相手方はこれを厳守しなければならないとしています。申立人が答弁書を読んで反論の準備をする時間を確保するためです。

答弁書に記載する事項も規則が定めていると文献は説明しています。申立ての趣旨に対する答弁、申立書に記載された事実に対する認否、答弁を理由づける具体的な事実、予想される争点とそれに関連する重要な事実、争点ごとの証拠、交渉の経緯、そして連絡先です。証拠書類があれば、その写しを乙号証として答弁書に添付することが義務づけられています。

引用:文献・公開情報

答弁書の提出期限は第1回期日の7日〜10日前ごろ

裁判所は、第1回期日の7日~10日前くらいを答弁書の提出期限としています。
相手方はこの提出期限を厳守しなければなりません(則16条1項)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p50

引用:文献・公開情報

答弁書の記載事項①〜⑦と、証拠書類の写しの添付

答弁書には、次のような事項を記載しなければなりません(則16条1項)。
①申立の趣旨に対する答弁
②申立書に記載された事実に対する認否
③答弁を理由付ける具体的な事実
④予想される争点及びその争点に関連する重要な事実⑤予想される争点ごとの証拠
⑥当事者間でなされた交渉やあっせんその他申立に至る経緯
⑦代理人や相手方の住所、電話番号、ファックス番号など

証拠書類(書証)があれば、その写しを乙号証として答弁書に添付しなければならないことが義務付けられています。
特に、予想される争点に関する証拠書類は重要です(同条2項)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p50〜51

(2)相手方が出てこなくても、手続は止まらない

相手方が期日に出てこないのではないか、と心配されることがあります。労働審判官の呼出しを受けた関係人が正当な理由なく出頭しないときは、5万円以下の過料に処せられます。もっとも文献は、この制裁が働くのは特別送達がされたときか期日請書が提出されたときに限られ、通常は特別送達は行われないとしています。

そして、相手方が出頭しなくても手続は進みます。文献は、申立人の主張と立証で審判を下せる場合には、第1回期日であっても審判が出ると説明しています。相手方が出頭しないことを理由に事件を終了させるべきだという主張は誤りだ、とも書かれています。

なお、引用にある「62頁参照。」は、文献が自分の別の箇所を参照させている表示です。

条文

労働審判法31条の条文

労働審判官の呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由がなく出頭しないときは、裁判所は、五万円以下の過料に処する。

※労働審判法31条

引用:文献・公開情報

正当な理由のない不出頭には5万円以下の過料

呼び出しを受けた事件の関係人(相手方や証人等)が正当な理由がなく出頭しないときは、5万円以下の過料の制裁があります(ただし、特別送達または、期日請書が提出されたときのみ。通常は特別送達は行われない。62頁参照。)。
これによって事件関係者の出頭を確保しようとしているのです。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p49

引用:文献・公開情報

相手方が出頭しなくても手続は進行する

裁判所から呼び出しを受けた相手方が期日に出頭しないときでも、労働審判手続は進行します。
申立人の主張立証で審判を下せる場合は、第1回期日であっても(則21条2項)審判が出ます。
相手方が出頭しない場合は、法24条に該り、事件を終了すべきとの主張もありますが、誤りです。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p49〜50

9 第1回期日が勝負——集中した証拠調べと本人への審尋

委員会は、速やかに当事者の陳述を聴いて争点と証拠の整理をしなければならず、職権で事実の調査をし、必要と認める証拠調べをすることができます。

文献は、東京地裁で行われている実際として、第1回期日に集中して可能な限りの証拠調べを行い、それを基に評議をして得た心証により争点についての判断をしたうえで、調停による解決を試みる運用がされているとしています。第1回期日が勝負であり、あとから補充して主張や証拠を出しても挽回がきかないことがある、とも書かれています。

期日では、代理人ではなく当事者本人が質問を受けます。文献は、ほとんどの手続で労働審判官が当事者や関係者に審尋の形式で争点について質問していき、代理人はそのあとに補充して答えたり質問したりすることになるとしています。

条文

委員会は争点と証拠を整理し、職権でも事実の調査ができる

あ 争点及び証拠の整理

労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。

※労働審判法15条1項

い 事実の調査と証拠調べ

労働審判委員会は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをすることができる。

※労働審判法17条1項

引用:文献・公開情報

第1回期日に集中して証拠調べを行う運用(東京地裁)

現在東京地裁で行われている労働審判手続の実際は、第1回期日に集中して可能な限りの証拠調べ(書証の取り調べや当事者、関係人の審尋など)を行い、これを基に労働審判委員会が評議を行い、その結果得られた心証により争点についての司法判断をなし、調停による事件の解決を試みるという運用がなされています。
第1回目に十分な証拠調べが尽くせなかった場合には第2回期日にさらに証拠調べを行うこともありますが、補充的なものが多いと思われます。
したがって、第1回期日が勝負であり、全力で主張、立証を尽くさなければなりません。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p53〜54

引用:文献・公開情報

質問に直接答えるのは当事者本人——代理人はそのあとに補充する

実際の労働審判実務では、ほとんどの手続において労働審判官が当事者や関係者に審尋形式で争点について質問をしていくという方式が取られています。
各争点ごとにまず労働審判官が質問し、その後に労働審判員が補充して質問をすることが多いと思います。
直接質問に答えるのは当事者及び参考人であり、代理人はその後に補充して答えたり質問をするということになります。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p57

(1)傍聴はされないが、やり取りの記録も残らない

労働審判手続は公開されません。ただし委員会が相当と認める者の傍聴を許すことはできます。当事者が加入する労働組合の役員や、事情を知っている人事担当者などが考えられます。

一方で、期日に書記官は立ち会わず、当事者や証人の発言は記録されません。録音も行われておらず、当事者が録音することも禁じられています。文献は、訴訟へ移行した場合に備えて、争点ごとの相手方の発言をできるだけメモして記録を残しておく必要があるとしています。

条文

労働審判法16条の条文

労働審判手続は、公開しない。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。

※労働審判法16条

引用:文献・公開情報

手続は非公開——相当と認める者の傍聴は許される

労働審判手続は非公開が原則です。
ただし、労働審判委員会は、「相当と認める者の傍聴を許すことができる」ことになっています(法16条)。
傍聴が許される場合とは、事件ごとに、傍聴の目的や必要性とか、手続の進行や紛争解決への影響などの事情を考慮して判断されます。
例えば、当事者の加入する労働組合の役員とか、当該事件に関与して事情を知っている人事担当者など(参考人)が考えられます(『労働審判手続に関する執務資料』法曹界、58頁)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p55

引用:文献・公開情報

期日のやり取りは記録されず、録音も禁じられている

労働審判手続の期日に書記官は立ち会いません。
したがって、労働審判期日における当事者や証人の証言は一切記録されません。
また、現在の実務は、労働審判手続の審理をテープに録音することも行われておらず、当事者が録音することも禁止されています。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p60

(2)委員会が判断を示したうえでの調停案(概要)

労働審判の中の調停は、単に間を取るための話し合いではありません。委員会が争点についての判断を示したうえで調停案が出され、いつまでに答えることになるのかも、3回という期日の枠から決まってきます。調停の進め方と、調停で決められることの範囲は、別の記事で説明しています。

労働審判の調停はどこまで解決できるのか|心証開示と調停の射程

10 終わり方は4つ——調停の成立・審判・打ち切り・取下げ

労働審判手続は、調停の成立、審判の言渡し、労働審判法24条1項による終了、取下げのいずれかで終わります。

審判は、審判書を作って当事者に送達する方法か、すべての当事者が出頭する期日で主文と理由の要旨を口頭で告知する方法のどちらかで行われます。文献は、実務では時間のかかる審判書の作成は行われず、口頭で言い渡される場合がほとんどだとしています。効力が生じるのは、審判書の場合は送達された時、口頭の場合は告知された時です。

なお、引用の③にある丸括弧は、文献が自分の別の箇所を参照させている表示です。

打ち切り(24条終了)がどういう場合に行われ、打ち切られるとどうなるのかについては、別の記事で説明しています。

労働審判が打ち切られるとき|24条終了

条文

審判は審判書の送達か、期日での口頭の告知で行われる

あ 審判は権利関係と手続の経過を踏まえて行う

労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。

※労働審判法20条1項

い 審判書を作成して行う

労働審判は、主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならない。

※労働審判法20条3項

う 審判書の送達と効力の発生

前項の審判書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、労働審判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。

※労働審判法20条4項

え 口頭の告知による方法と効力の発生

労働審判委員会は、相当と認めるときは、第三項の規定にかかわらず、審判書の作成に代えて、すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、労働審判を行うことができる。この場合においては、労働審判の効力は、告知された時に生ずる。

※労働審判法20条6項

引用:文献・公開情報

終結の4類型と、審判の効力が生じる時

労働審判手続は、次のいずれかにより終結します。
①調停の成立(則22条)、②審判の言渡し(法20条)、③法24条1項による終了(第3 1 4〈32頁参照〉)、④取下
②の審判の言渡しは、審判書を作成して当事者に送達する方法か(法20条3項・4項)、主文と理由の要旨を口頭で告知する方法(同条6項)のどちらかの方法で行われます。
労働審判の実務では、時間のかかる審判書の作成は行われず、口頭で審判が言い渡される場合がほとんどです。
審判書の場合は、審判書が送達された時(法20条4項)、口頭の場合は告知された時(同条6項)に審判の効力が発生します。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p60〜61

11 納得できないときは2週間以内に異議——審判は効力を失い通常訴訟へ

審判が出てから先の道は、2週間という期間で分かれます。以下、何もしなかった場合、異議を出した場合、そして通常訴訟へ移ったあとに何が引き継がれるのかを、順に見ていきます。

(1)異議なく2週間→審判の確定=裁判上の和解と同一の効力(労働審判法21条4項)

審判の効力が生じてから2週間以内に異議が出されなければ、審判は確定します。確定した審判の内容は、労働審判法21条4項の文言で「裁判上の和解と同一の効力」を持ちます。

もっとも、審判まで行く事件は多くありません。文献は、2010年10月までに審判が出された事件は全体の18.6%で、そのうち62.7%の事件で異議が出されて通常訴訟へ移行しているとしています。

条文

労働審判法21条4項の条文

適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

※労働審判法21条4項

引用:文献・公開情報

2週間以内に異議が出されなければ審判は確定する

審判の効力が生じてから、2週間以内に異議が出されなければ、審判が確定し、審判の内容は「裁判上の和解と同一の効力」を持ちます(法21条4項)。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p61

引用:文献・公開情報

審判が出るのは2割弱、そのうち62.7%に異議が出ている

2010年(平成22年)10月までに「審判」が出された事件は全体の18.6%で、2割弱の事件で「審判」が宣告されています。
そのうち62.7%の事件において異議が出され、通常訴訟に移行しています。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p20

(2)適法な異議→審判は効力を失い、訴え提起の擬制で通常訴訟へ移行

審判の内容に納得できないときは、審判書の送達または口頭の告知を受けた日から2週間の不変期間内に、裁判所へ異議を申し立てます。適法な異議があると、審判は効力を失います。

そして、労働審判手続の申立ての時に、その地方裁判所へ訴えの提起があったものとみなされます。訴え提起の擬制です。改めて訴状を提出する必要はありませんが、文献は、訴状に代わる準備書面の提出を求められるのが通例だとしています。

条文

2週間以内に異議を申し立てると、審判は効力を失う

あ 異議の申立て

当事者は、労働審判に対し、前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。

※労働審判法21条1項

い 適法な異議があったとき

適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失う。

※労働審判法21条3項

条文

労働審判法22条1項の条文

労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合において、当該請求について民事訴訟法第一編第二章第一節の規定により日本の裁判所が管轄権を有しないときは、提起があったものとみなされた訴えを却下するものとする。

※労働審判法22条1項

引用:文献・公開情報

異議により訴え提起が擬制される——訴状に代わる準備書面

審判に対し、当事者は2週間以内に、裁判所に異議の申立をすることができます(法21条1項)。
異議の申立があると、審判はその効力を失い(同条3項)、申立の時に遡って、事件が係属している地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(法22条1項)(訴え提起の擬制)。
つまり、わざわざもう一度訴訟を提起する必要はないのです。
したがって、改めて訴状を提出する必要はありません。
ただし、労働審判申立書は書留郵便による特別送達はされないところ、訴状は特別送達が義務付けられているという手続的理由もあり、訴状に代わる準備書面の提出を求められるのが通例です。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p62〜63

(3)訴訟へ移っても、一からやり直しにはならない

労働審判手続の記録や取り調べられた証拠が、そのまま第一審の裁判所へ引き継がれるわけではありません。ただし、当事者と利害関係を疎明した第三者は、記録の閲覧や謄写、謄本の交付などを請求することができます。当事者は労働審判で提出した証拠を手元に持っているので、それを訴訟の証拠として提出することもできます。

費用の面でも、納めた分が無駄になるわけではありません。文献は、訴えの提起が擬制された場合、申立人は通常の訴訟提起の手数料から審判の申立ての時に納めた手数料を差し引いた残額を納めれば足りるとしています。

条文

労働審判法26条1項の条文

当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、労働審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は労働審判事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。

※労働審判法26条1項

引用:文献・公開情報

記録は自動的には引き継がれないが、謄本の交付を請求できる

労働審判手続の記録や取り調べられた証拠などは、訴訟に移行した場合自動的に第一審地方裁判所に引き継がれるわけではありません。
しかし、労働審判手続において、当事者同士が相当な議論を尽くし、労働審判委員会が証拠調べも行い、審判まで出したのに、この作業がまったく活かされず、裁判で一から審理のやり直しというのでは、あまりにも無駄であり、四審制を招くことにもなりかねません。
そこで、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、労働審判事件の記録の謄本などの交付を請求することができます(法26条1項)。
しかし、具体的な審理の内容(発言など)や労働審判の理由は書いていないので意味がありません。
また、当事者は、労働審判手続で提出された証拠を所持しているので、これらの資料を訴訟において証拠として提出することができます。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p63

引用:文献・公開情報

訴訟提起の手数料は、審判申立て時に納めた分を差し引いた残額

訴えの提起が擬制された場合、労働審判手続の申立人は、通常の訴訟提起の手数料から審判申立の時に納めた手数料の金額を引いた残額だけ訴訟提起の手数料として納めることで足ります。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p64

12 同じ事件で訴訟がすでに起きているとき

同じ事件について民事訴訟が先に提起されている、あるいは労働審判の申立てのあとに訴訟が提起された、という場合があります。このとき両方の手続は並び立ちます。労働審判法27条は、訴訟を受けた裁判所が、労働審判事件が終わるまで訴訟手続を中止することができると定めています。中止するかどうかは裁判所の裁量に委ねられています。

条文

労働審判法27条の条文

労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、受訴裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。

※労働審判法27条

引用:文献・公開情報

両手続が並存する場合、訴訟手続の中止は裁判所の裁量

労働審判の申立があった事件について、別途民事訴訟(仮処分は含まない)が提起された場合や、逆に民事訴訟が先行している事件について労働審判の申立があった場合、両手続は並存することになりますが、その取扱いについて、法27条は、民事訴訟の提起を受けた裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができると定めており、裁判所の裁量に委ねられています。

※鴨田哲郎 君和田伸仁 棗一郎著『3訂版 労働審判制度 その仕組みと活用の実際』日本法令2023年 5月p41

13 おわりに

労働審判は、申立てから40日ほどで最初の期日が入り、3回以内の期日で、裁判官1人と労使の専門家2人が判断する手続です。多くは調停で終わり、まとまらなければ審判が出ます。審判に納得できなければ2週間以内に異議を申し立てることができ、その場合はそのまま通常訴訟へ移ります。

期日が3回しかないということは、第1回期日までにどれだけ準備できたかで結果がほぼ決まるということでもあります。何を主張し、どの証拠をどこまで揃え、申立書にどう書くか。申立ての準備と証拠の集め方については、別の記事で説明しています。

労働審判の申立準備・証拠収集と申立書作成の実践ガイド

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。原文の段落の行頭にある字下げは再現していません。

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