【生命保険の免責期間経過後の自殺における生命保険金請求の可否】

1 生命保険の免責期間経過後の自殺における生命保険金請求の可否
2 免責期間経過後の自殺への免責を認めた過去の裁判例
3 免責期間経過の自殺への免責適用の判断(平成16年判例)
4 免責期間経過後の自殺への免責を認める場合の法律構成

1 生命保険の免責期間経過後の自殺における生命保険金請求の可否

生命保険は被保険者が死亡した場合に保険金が支払われます。しかし通常は,約款で,保険への加入後1年間の自殺(自死)については免責となる(保険金が支払われない)ことになっています。
そこで,加入後1年が経過した後の自殺については免責にはならず,保険金が支払われます。
しかしこのようなケースでも保険金が支払われないこともあります。本記事では,免責期間経過後の自殺のケースで免責が適用されるかどうかについて説明します。

2 免責期間経過後の自殺への免責を認めた過去の裁判例

免責期間経過後の自殺のケースでも免責を認める(保険金が支払われない)という裁判例は以前から続いています。それは,保険金を得ることが目的であることに加えて,自殺を強要するなどの悪質な特殊事情があったというケースです。

<免責期間経過後の自殺への免責を認めた過去の裁判例>

あ 判断の要点

免責期間経過後の自殺について
被保険者が保険金受取人に保険金を取得させることを主要な目的としていることに加えて,一定の加重要件(特殊事情)があるケースについて,免責を認めた
※松山地判平成11年8月17日(ほかに『い』の裁判例)

い 加重要件の具体例

ア 偽装工作 不慮の事故であることを偽装した
※岡山地判平成11年1月27日
イ 自殺の強要(殺人・自殺教唆) 保険金受取人が被保険者に執拗に自殺を強要した
※山口地判平成11年2月9日
※『判例タイムズ1149号』p294〜参照

3 免責期間経過の自殺への免責適用の判断(平成16年判例)

平成16年に最高裁判例が,免責を適用するかどうかの判断基準を示しました。前記のような下級審裁判例の判断とは違った内容になっています。違いは,保険金を得る目的の自殺であっても,免責を適用しない(保険金を支払う)という原則部分です。ただし,例外として,犯罪行為などの特殊事情があった場合は免責を適用するということも示しています。結局,過去の裁判例の事案でも特殊事情があったものとして免責を適用する(同じ結論となる)とも考えられます。その一方で,多額の保険金をかけていることだけでは免責を認めることにはならない,という判断も示しています。

<免責期間経過の自殺への免責適用の判断(平成16年判例)>

あ 原則

免責期間経過後の自殺による死亡については,被保険者の死亡の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても,免責の対象とはしない

い 例外

自殺に関し犯罪行為等が介在し,自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は免責を認める

う 保険金の規模との関係

多数の保険会社との間で,多額の保険金額の生命保険契約を締結していたという事情があるとして も,上記特段の事情があるとはいえない
※最高裁平成16年3月25日

4 免責期間経過後の自殺への免責を認める場合の法律構成

平成16年判例は,前記のように,自殺のケースについて例外的に免責を適用する可能性があることを示しました。では,特殊事情があるために免責を適用するとした場合,どのような法律構成をとるか,ということは示されていません。いくつかの考え方があります。実際の事案について免責を適用するかどうかをはっきり判断できないようなケースではこのような解釈論を主張・立証に活用することになります。

<免責期間経過後の自殺への免責を認める場合の法律構成>

あ 平成16年判例の内容

平成16年判例は,特段の事情がある場合(例外)に保険金請求を否定する法律構成を示していない
『い〜え』のような法律構成があり得る

い 公序良俗違反

一般条項である民法90条(公序良俗違反)により特約部分が無効となる
商法680条1項1号により保険金請求が否定される

う 約款の意思解釈

約款の意思解釈として,特段の事情がある場合までも免責しないことを認めたものではなく,特段の事情がある場合には商法680条1項1号により免責となる

え 権利の濫用

被保険者の自殺による死亡の場合,保険金受取人は保険金請求権を有するが,具体的事情により請求が権利の濫用(民法1条)となり許されない
※『最高裁判所判例解説 民事篇 平成16年度』法曹会p231

本記事では,生命保険の免責期間経過後の自殺(自死)に免責を適用する(保険金が支払われない)という解釈について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張立証のやり方によって結論は違ってきます。
実際に自殺(自死)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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