必要的単独親権事由とは(民法819条7項後段)|1号・2号と「これに準ずる事由」
1 必要的単独親権事由とは(民法819条7項後段)|1号・2号と「これに準ずる事由」
令和6年の民法改正(令和6年法律第33号・令和8年4月1日施行)により、離婚したあとの親権者を父母の双方と定めることもできるようになりました。もっとも民法819条7項の後段は、一定の事由が認められるときは父母の一方を親権者と定めなければならないとしています。これに当たるときは、ほかの事情を総合して考えるより前に、単独親権と決まります。
本記事では、この必要的単独親権事由の内容を説明します。1号と2号がそれぞれ何を指すのか、各号に当たらない場合に問題となる「これに準ずる程度の事由」とは何か、そして「おそれ」があるかどうかがどのように判断されるのかを扱います。
819条7項が後段と前段の二段で組み立てられていること、後段に当たらない場合にどう決まるのかは、別の記事で説明しています。
共同親権か単独親権かの判断基準(民法819条7項)|必要的単独親権と総合考慮
後段に当たらないときに進む前段の総合考慮は、別の記事で説明しています。
親権者指定の総合考慮(民法819条7項前段)|父母子の関係・意思疎通・高葛藤
2 1号・2号に準ずる程度の事由も必要的単独親権
後段のどの事由に当たるとどうなるかを整理すると次のとおりです。この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。
民法819条7項後段の事由と親権者の定め
| 事情 | 親権者の定め |
|---|---|
| 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められる(1号) | 父母の一方を親権者と定めなければならない(必要的単独親権) |
| 父母が共同して親権を行うことが困難であると認められる(2号) | 父母の一方を親権者と定めなければならない(必要的単独親権) |
| 各号に当たらないが、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められる(柱書後段の包括的な事由) | 父母の一方を親権者と定めなければならない。1号・2号に準ずる程度の事由が必要と解されている |
3 後段の事由=子への害悪のおそれ・共同行使の困難とこれに準ずる事由
後段の必要的単独親権事由を、条文の順に見ていきます。解説は、柱書後段を(A)「次の各号のいずれかに該当するとき」と(B)「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」の2つに分けたうえで、(B)を包括的な事由、各号をその例示と位置づけています。1号は親子の関係に着目した事由、2号は父母の関係に着目した事由で、いずれも例示ですから、各号に当たらなくても後段に当たることがあります。
包括的な事由と、その例示としての各号
必要的単独親権事由のうち、(B)「その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」が包括的な事由とされており、(A)「次の各号のいずれかに該当するとき」の具体的内容である「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」(1号)及び「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」(2号)が、その例示と位置付けられている。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p9
(1)1号——父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれ
1号は、父母の一方が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合には、その親を親権者と定めることによって子の利益が害されることを防ぐため、その親以外の親だけを親権者と定めるべきだという考え方に基づくものです。典型は子に対する虐待のおそれですが、それに限られず、親権喪失事由や親権停止事由がある場合、これらに準ずるような事由がある場合も含まれ得ると解されています。
親子の関係に着目した事由
民法819条7項1号の「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」は、親子の関係に着目した必要的単独親権事由であり、父母の一方が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合は、当該親を親権者と定めることにより子の利益が害されることを防止するため、当該親以外の親のみを親権者と定めるべきであるから、必要的単独親権事由とされたものと考えられる。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p10
虐待のおそれ・親権喪失事由・親権停止事由
典型的には、子に対する虐待のおそれがある場合が考えられるが、それ以外にも、親権喪失事由(父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき・民法834条)又は親権停止事由(父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき・民法834条の2)がある場合や、これらに準ずるような事由がある場合も含まれ得ると考えられる。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p10
(2)2号——父母が共同して親権を行うことが困難
2号は、父母の一方が他方から暴力等を受けるおそれの有無、親権者の定めについての協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるときを定めています。親権の共同行使は父母間の協議を前提とするので、その協議が実質的に困難になる場合を拾う趣旨です。およそ共同して子の養育に関する意思決定を行うことが困難であるような場合がこれに当たり、暴力等がなくても、協議が調わない理由の内容によっては該当し得ると解されています。
父母の関係に着目した事由
民法819条7項2号の「父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」は、父母の関係に着目した必要的単独親権事由であり、父母の一方が他方から暴力を受けるおそれがあるなどの場合は、親権の共同行使の前提となる父母間の協議を行うことが実質的に困難になることから、必要的単独親権事由とされたものと考えられる。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p10
およそ共同して意思決定を行うことが困難な場合
どのような場合に「父母が共同して親権を行うことが困難である」と認められるかは、個別具体的な事情に応じて判断すべきものであるが、一般論としては、父母の協議が調わない理由等を考慮し、およそ共同して子の養育に関する意思決定を行うことが困難であるような場合には、これに当たると考えられる
※北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正―家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』商事法務2025年p46
協議が調わない理由から該当し得る場合
父母の一方又は双方が、虚言や重大な約束違反を繰り返す、他方の親の人格を否定する言動を執拗に繰り返す、正当な権利行使の範囲を明らかに超えて濫用的な裁判手続の申立てを繰り返すなど、将来的にも最低限の協力関係の構築すら望めず、親権の共同行使の前提となる父母間の協議を適切に行うことがおよそ期待できない場合も、本事由に該当し得ると解される。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p11
(3)害悪も暴力等も、身体的なものに限られない
1号の「害悪」も2号の「暴力等」も、条文は「心身」に向けられたものと書いています。身体的な虐待やDV(配偶者からの暴力)に限られず、精神的、経済的、性的なものを含みます。父母が互いに話し合うことができない状態にあるために親権の共同行使が困難になっている場合も、2号に当たることがあるとされています。
精神的・経済的・性的な虐待やDVを含む
また、同項各号にいう害悪や暴力等は、「心身」に向けられたものであることを対象としており、身体的なものに限られるものではなく、精神的、経済的、性的な虐待やDVなどを含むものである。
※北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正―家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』商事法務2025年p41
話し合うことができない状態も要件に当たり得る
したがって、身体的DVだけでなく、精神的DV、経済的DV、性的DV等によって、父母が互いに話し合うことができない状態にある場合等、親権の共同行使が困難な場合も、この要件に当てはまることがあると考えられる。
※父母の離婚後の子の養育に関する民法等改正法の施行準備のための関係府省庁等連絡会議『Q&A形式の解説資料(民法編)』法務省(ウェブサイト公開)令和8年4月22日改訂p10
(4)各号は例示で、これに準ずる程度の事由も後段に当たる
1号・2号は、柱書後段の「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」の例示です。裁判所が単独親権と定めなければならない場合を各号に限る趣旨ではありません。もっとも、必要的単独親権事由が認められれば、ほかにどのような事情があっても単独親権になります。そのため、各号に当たらないまま包括的な事由に当たるというためには、1号・2号に準ずる程度の事由が必要だと解されています。具体的にどのような場合がこれに当たるかは、今後の事例の集積を待つことになります。
各号は限定列挙ではない
また、新民法第 819条第7項各号は、裁判所が単独親権の定めをしなければならない場合を限定する趣旨ではなく、裁判所は、その他の事情により父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない(同項後段)。
※北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正―家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』商事法務2025年p39
各号に当たらない場合の包括的な事由
民法819条7項1号又は2号に該当しない場合においても、共同親権と定めることにより「子の利益を害すると認められるとき」には、父母の一方を親権者と定めなければならない(民法819条7項柱書後段)。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p11
1号・2号に準ずる程度の事由が必要
必要的単独親権事由は、それが認められた場合は、他にどのような事情があっても単独親権を定めることになるから、一定の重大な事情、すなわち、民法819条7項1号又は2号に準ずる程度の事由が認められる必要があると考えられる。
※東京改正家族法研究会編著『詳解 令和6年改正家族法』日本加除出版2026年p11
(5)「おそれ」の判断=基礎付ける事実と否定する事実の双方を総合
1号・2号の「おそれ」とは、具体的な状況に照らして、そのような害悪や暴力等を及ぼす可能性があることをいいます。その有無は、それを基礎付ける方向の事実と、それを否定する方向の事実の双方を総合して判断されます。過去に虐待やDVがあったことは「おそれ」を基礎付ける重要な事実になりますが、医師の診断書のような客観的な証拠がなければ認められないというものでもありません。逆に、虐待やDVが主張されても、総合的な判断の結果として「おそれ」があるとは認められず、双方を親権者と定めることもあり得ます。
総合的に考慮して判断される(政府参考人答弁)
このおそれにつきましては、裁判所において個別の事案ごとに、それを基礎づける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されて判断されることとなると考えております。なお、当事者の一方がその立証責任を負担するというものではありません。
※竹内努/『第213回国会衆議院法務委員会会議録第6号』衆議院2024-04-02p3
過去の虐待・DVは「おそれ」を基礎付ける重要な事実
父母の一方が過去に虐待やDVをしたという事実は、今後の虐待等の「おそれ」を基礎付ける方向の重要な事実であり、新民法第 819条第7項各号の「おそれ」が肯定される方向に傾く大きな考慮要素となると考えられる。
※北村治樹編著『一問一答 令和6年民法等改正―家族法制の見直し(親権・養育費・親子交流等)』商事法務2025年p42
診断書のような客観的証拠がなくても判断される
新民法第819条第7項各号の「おそれ」の判断においては、個別の事案ごとに、それを基礎づける方向の事実とそれを否定する方向の事実とが総合的に考慮されることとなり、医師の診断書のような、過去にDVや虐待があったことを裏付ける客観的な証拠の有無に限らず、諸般の状況が考慮されることになる。
※父母の離婚後の子の養育に関する民法等改正法の施行準備のための関係府省庁等連絡会議『Q&A形式の解説資料(民法編)』法務省(ウェブサイト公開)令和8年4月22日改訂p11
4 おわりに
後段の事由は、1号(子の心身に害悪を及ぼすおそれ)と2号(共同して親権を行うことが困難)が例示として置かれ、これらに準ずる程度の事由も柱書後段に当たります。害悪も暴力等も身体的なものに限られず、「おそれ」の有無は、これを基礎付ける事実と否定する事実の双方を総合して判断されます。狭い入口ではありませんが、当たれば前段の総合考慮に進まずに単独親権が決まる点で、前段とは働き方が違います。
819条7項の二段構造と、後段に当たらない場合の進み方は、別の記事で説明しています。
共同親権か単独親権かの判断基準(民法819条7項)|必要的単独親権と総合考慮
前段の総合考慮で何がどう見られるのかは、別の記事で説明しています。
親権者指定の総合考慮(民法819条7項前段)|父母子の関係・意思疎通・高葛藤
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。
本記事の表示では、読点を「、」に統一しています(引用の原文が全角の「,」や半角の「,」である場合を含みます。ただし「1,000」のような桁区切りはそのまま表示しています)。
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