【離婚・財産分与に向けた財産調査:株式・有価証券の調査】
1 離婚・財産分与に向けた財産調査:株式・有価証券の調査
離婚を意識する段階では、将来の財産分与に向けた相手方(配偶者)の財産の把握が重要になります。
詳しくはこちら|離婚・財産分与に向けた財産調査:総合ガイド(制度・手続の一覧と選択)
財産分与において、株式・有価証券の調査は極めて重要でありながら、最も困難を伴う分野の1つです。というのは、種類の多様であり、調査が複雑になりがちなのです
本記事では、株式や有価証券の調査方法を説明します。
2 有価証券の把握方法
(1)証券会社からの通知
配偶者の有価証券保有状況を把握する最も基本的な方法は、証券会社からの定期的な通知を確認することです。証券会社は少なくとも年に1回、年間取引報告書を郵送してきます。これらの書類を確認することで、どの証券会社に口座を保有しているかを把握することができます。
また、取引報告書や残高報告書等の定期的な通知書類も重要な手がかりとなります。これらの書類には、保有銘柄、口数、評価額等の詳細な情報が記載されており、財産分与の基礎資料として活用できます。
ただし、最近はインターネットによる取引も増加しており、必ずしも郵便での通知ではない可能性もあります。インターネット証券の場合、電子交付が選択されていることも多く、郵便物からの情報収集には限界があることを認識しておく必要があります。
(2)取引報告書の確認
取引報告書は、有価証券の売買履歴を詳細に記録した書類であり、配偶者の投資行動を分析する上で極めて重要な資料です。売買履歴を分析することで、保有銘柄の特定はもちろん、投資パターンや隠れた口座の存在を発見できる可能性があります。
特に注意すべきは、複数の証券会社での取引履歴です。一つの証券会社での取引報告書に他社への資金移動が記載されている場合、複数の口座を保有している可能性が高くなります。また、定期的な積立投資や配当再投資の記録からも、長期保有株式の存在を推測することができます。
取引報告書の分析にあたっては、単なる保有銘柄の確認にとどまらず、売買のタイミングや金額の推移を詳細に検討することで、隠された資産の発見につながる手がかりを得ることができます。
(3)株主総会招集通知・株主優待関連の送付物
株主総会招集通知も重要な証拠となります。これらの書類は株主にのみ送付されるため、その存在自体が株式保有の証明となります。特に、複数の企業からの株主総会招集通知がある場合、相当規模の株式投資を行っている可能性が高いと判断できます。
また、株主優待制度を実施している企業の株式を保有している場合、優待品の受領状況や関連書類が重要な手がかりとなります。株主優待のカタログや案内書類、実際の優待品の配送記録等から、保有株式の存在を推測することができます。
このような株主総会招集通知や株主優待関連の情報は、配偶者が意図的に隠蔽しようとしても発見しやすい特徴があります。
3 上場株式の調査
(1)証券会社への照会
上場株式の調査において最も効果的な方法は、弁護士会照会の活用です。証券会社が特定されている場合、弁護士会照会により口座開設の確認、残高証明書の取得が可能となります。この手続きは、財産分与に関する調停や裁判の前段階から利用することができる点が大きなメリットです。
弁護士会照会を実施する際には、証券会社名と、照会先によっては支店名まで特定している必要があります。一部の大手証券会社では、本店への照会で全店照会を行う運用をしているところもありますが、基本的には支店を特定した照会が求められます。
ただし、証券会社によっては開示に応じない場合もあります。個人情報保護を理由として回答を拒否されるケースも存在するため、弁護士会照会の回答を得るためには適切な理由付けと説明が重要となります。また、複数の証券会社に口座を保有している可能性も考慮し、包括的な調査を行う必要があります。
(2)評価額の資料
上場株式の評価額確定にあたっては、基準時の設定が重要となります。財産分与における評価の基準時は、原則として離婚成立時となりますが、別居がある場合は別居時に保有していた部分のみが対象となります。
上場株式の具体的な評価方法としては、離婚成立日の終値を基準とすることが一般的です。ただし、市場の変動が激しい場合や、評価日が休日等で取引が行われていない場合には、過去3か月の平均株価を参考にすることもあります。
評価にあたっては、市場別の特性も考慮する必要があります。東京証券取引所の各市場区分(プライム、スタンダード、グロース)や、地方取引所上場銘柄については、それぞれ流動性や取引量が異なるため、評価方法についても慎重な検討が必要です。評価日の選択についても、当事者間で合意形成を図ることが重要となります。
(3)配当金の取扱い
上場株式から生じる配当金についても、財産分与の対象として適切に把握する必要があります。配当受領履歴は、源泉徴収票や確定申告書からも確認することができ、保有株式の存在を裏付ける重要な証拠となります。
配当金の調査にあたっては、単に受領額を確認するだけでなく、配当再投資制度の利用状況や、配当所得の税務処理方法についても確認が必要です。特に、確定申告書における配当所得の記載は、保有株式の規模や種類を推測する重要な手がかりとなります。
また、配当金の受領パターンから、長期保有株式の存在や、定期的な投資行動を推測することも可能です。総合的な財産把握の観点から、配当金に関する情報を体系的に収集・分析することが求められます。
4 非上場株式の調査
(1)会社への調査方法
非上場株式の調査は、上場株式と比較して格段に困難を伴います。最も基本的な調査方法は、発行会社への直接照会ですが、この場合は株主名簿の確認が必要となります。株主名簿は会社法上、株主が閲覧・謄写請求できる書類ですが、実際の運用においては制限的に扱われることが多いのが実情です。
より実効性の高い調査方法として、調査嘱託の活用があります。調査嘱託は裁判所を通じて行われる手続きであり、調停や裁判手続きが開始されている場合に利用可能です。発行会社に対して株式保有状況の開示を求めることができますが、嘱託の必要性と相当性について裁判所の判断を受ける必要があります。
また、非上場会社の決算書の入手も重要な調査手段となります。決算書からは会社の財務状況を把握できるとともに、株主構成や資本政策の変更履歴等も確認することができます。相手方が勤務先の株式を保有している場合は、相手方にそれらに関する資料の開示を求める必要があります。
(2)株価算定の複雑さ
非上場株式の評価は、上場株式と比較して極めて複雑です。市場価格が存在しないため、財務諸表等を基に適正な価値を算定する必要があります。主要な評価手法としては、DCF法(割引現在価値法)、類似会社比較法、純資産法等がありますが、それぞれに特徴と限界があります。
詳しくはこちら|非上場株式の評価(非訟手続で採用する評価方法)
5 まとめ
株式・有価証券の財産分与調査は、配偶者の財産状況を正確に把握し、公平な財産分与を実現するために極めて重要な作業です。本記事で解説したとおり、上場株式と非上場株式では調査方法が大きく異なり、それぞれに特有の困難さと専門性が要求されます。
上場株式については、証券会社からの通知書類や弁護士会照会等を活用することで、比較的効率的な調査が可能です。一方、非上場株式については、会社への直接調査や専門家による評価が不可欠であり、より高度な調査技術と専門知識が必要となります。
株式・有価証券の財産分与においては、調査の困難性と評価の複雑性を十分に理解し、早期の段階から計画的に取り組むことが成功の鍵となります。
本記事では、離婚・財産分与に向けた株式・有価証券の調査について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
多額の資金をめぐる離婚の実務ケーススタディ
財産分与・婚姻費用・養育費の高額算定表

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。