1 事案(結婚〜仲違い)
2 事案(財産の分与と夫婦修復の誓い)
3 事案(虐待・破局と取消主張)
4 裁判所の判断

1 事案(結婚〜仲違い)

夫婦間の契約の取消の解釈論は時代によって移り変わり,判例も多く残されています。
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の無効化の変遷(事案・判断の概要の集約)
本記事では実例の1つである裁判例を紹介します。

<事案(結婚〜仲違い)>

あ 円満な状況

男女が婚姻し夫婦となった
夫婦で渡米した
夫=庭園師
妻=家政婦
子が2人誕生した

い 仲違い

夫が妻を虐待し,夫婦の仲が悪くなった
夫婦で財産の混在があったので分配することになった
※長崎控訴院昭和16年7月30日

2 事案(財産の分与と夫婦修復の誓い)

<事案(財産の分与と夫婦修復の誓い)>

あ 財産の分与契約

貯蓄の大部分は夫名義の銀行預金にしていた
銀行預金は夫婦2人が働いて得た金銭である
妻の稼働分も多く含まれる
預金のうち妻の稼働分の金額は確定し難かった
夫婦の所得額は概ね同額であった
夫婦で預金を折半することにした
横浜銀行の証書預金甲を妻への分与に充てた

い 夫婦修復の誓い

『あ』の分与契約をなすに当たって
夫が,帰国後も妻を離婚・虐待をしないことを誓った
※長崎控訴院昭和16年7月30日

3 事案(虐待・破局と取消主張)

<事案(虐待・破局と取消主張)>

あ 破局

夫婦は帰国し,しばらく同居した
帰国後も夫婦仲は好転しなかった
夫は妻を虐待し始めた
妻は同居に耐えられなくなった
妻は家を出て,再び渡米した
その後間もなく,夫は他の女を引き入れて同居している
内縁の関係同様となっている

い 分与契約の取消の主張

夫は『う』の分与契約の取消を主張した
(その後,妻は夫に対して離婚請求訴訟を提起した)
※長崎控訴院昭和16年7月30日

4 裁判所の判断

<裁判所の判断>

あ 裁判所の判断

分与契約の取消は濫用であり無効である
※長崎控訴院昭和16年7月30日

い 財産分与規定の不存在(補足)

当時,財産分与の制度・規定自体は存在しなかった