【嫁姑問題・浪費・行方不明などは程度によっては離婚原因となる】

1 嫁姑の不仲は程度によっては離婚原因になる
2 『妻が姑の介護をしてくれない』は離婚原因として弱い
3 相手が精神病・認知症・重病・障害者となった場合×離婚原因
4 モラルハラスメント×離婚原因
5 『無計画な借金』だけでは離婚原因として弱い
6 破産だけでは離婚原因として弱い
7 配偶者が行方不明,という場合は離婚失踪宣告のどちらかを利用できる

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詳しくはこちら|離婚原因の意味・法的位置付け
3大離婚原因;不貞行為;裁量棄却,風俗,STD,自由意思なし,立証
3大離婚原因;暴力;基本,例外=踏んだり蹴ったり判決
詳しくはこちら|長期間の別居期間は離婚原因になる

1 嫁姑の不仲は程度によっては離婚原因になる

(1)嫁vs姑問題における離婚の判断の概要

姑との不仲が『婚姻を継続しがたい重大な事由』に当たるかがポイントです(民法770条1項5号)。
夫婦間の愛情・信頼関係が回復できないくらい破綻に至っている場合にこれに該当します。

ただ単に姑(親戚)と仲が悪いということだけでは離婚原因に該当しません。

離婚原因として認められるのは次のような場合です。

<嫁姑の不仲が離婚原因となる例;総合判断>

ア 姑からのいじめがひどいイ 夫が全く仲裁に入ってくれない,協力的でないウ その結果,夫婦仲が非常に悪化しているエ 夫婦で会話も少ない『家庭内別居』と言える状態が長期間続いている

夫婦以外の第三者です。
逆に夫が適切に仲裁などをすれば問題は解消されます。
その意味で仲裁(イ)は重視されます。

裁判例では,実際に次のような判断の傾向があります。

<裁判所の判断の傾向>

あ 次の2つがある場合には,離婚を認める傾向が強い

・夫が仲裁する意向なし + 妻が離婚の意向

い 夫からの離婚請求は,妻が修復希望である限りは認めない傾向

有責配偶者からの離婚請求と同じ考え方が取られることが多いのです。
詳しくはこちら|有責配偶者からの離婚請求を認める判断基準(3つの要件)

(2)嫁vs姑問題に関する離婚の判例

<嫁vs姑問題|裁判例の事案概要>

あ 妻からの離婚請求|昭和43年

夫婦ともに離婚の意向あり
別居2年
→離婚請求認容
※名古屋地裁岡崎支部昭和43年1月29日

い 夫(婿養子)からの離婚請求|昭和45年

妻の両親,と,夫,が対立し,関係が悪化した
別居8年
→離婚請求認容
いわゆる婿入りの事案です。
夫が妻の家に婿入りしたというものです。
※山形地裁昭和45年11月10日

う 夫からの離婚請求|昭和56年

夫からの離婚請求
夫は母に『絶対服従』→妻は夫を嫌う+夫は妻を嫌う→別居
別居3年
妻は自分の非については反省し,修復希望
→離婚請求棄却
※東京高裁昭和56年12月17日

え 夫からの離婚請求|昭和60年

妻・『夫の両親』で対立が激しくなった→夫・妻がお互いを嫌う→別居
それ以外で『純粋な夫婦間』での関係悪化の原因はない
別居後,妻・『夫の親』との関係が多少改善した
別居7年
子供は『両親の離婚』を嫌い,仲直りを願っている
→離婚請求棄却
※東京高裁昭和60年12月24日

お 夫からの離婚請求|平成元年

『夫の母』の『嫁いびり』は悪質であった+夫もこれに加担した→別居
同居期間10年,別居期間10年
夫婦ともに47歳
子供2人のうち,下の子は高校生
夫は平均的な経済力
妻は修復希望
→離婚請求棄却
有責配偶者からの離婚請求という扱いがされています。
※東京高裁平成元年5月11日

か 夫からの離婚請求|平成17年(『嫁・姑』とは逆の『夫・姑』対立)

夫・『妻の母』との対立が激しくなった→妻が夫に無断で自宅の増築計画を進めていた
→夫・妻がお互いを嫌う→別居
それ以外で『純粋な夫婦間』での関係悪化の原因は少ない
別居後に『関係修復』に向けた話し合いが持たれたことはない
夫は『関係修復』の意向がまったくない
妻は子供のことも考えて,自分の非については反省し,修復希望
『妻の母』も夫婦の関係修復を希望
幼少の子を含む複数の子供がいる
別居2年5か月
→離婚請求棄却
※東京地裁平成17年1月26日

2 『妻が姑の介護をしてくれない』は離婚原因として弱い

『妻が姑の介護をしてくれない』というケースはよくあります。

これだけでは離婚原因になりません。
「妻」には「夫の母」の扶養義務は原則的にないのです。
そうは言っても,現実に,他にサポートする人が居ないのに,苦しい状況を放置した,というのは酷いです。
このような極端な事情があれば,「夫婦間の愛情・信頼関係が破綻している」と言えることもあります。
そうすれば,離婚原因として認められる可能性があります。

ただし,近年は個人主義の考え方が強くなっています。
夫婦間の愛情相手の家族とは別,という傾向があります。

3 相手が精神病・認知症・重病・障害者となった場合×離婚原因

相手方が精神病その他の病気になった場合,夫婦としての生活が困難になります。
この場合には,その程度によって離婚できるかどうかが判断されます。
また『離婚後の生計の見込み』が立つことも必要とされています。
これについては別記事で詳しく説明しています(リンクは末尾に表示)。

4 モラルハラスメント×離婚原因

夫婦間で日常的に罵ることや,蔑むことをモラルハラスメントと言います。
程度によっては『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当するでしょう(民法770条1項5号)。

<モラルハラスメント×離婚原因>

あ 離婚が認められる基準

『精神的暴力』と言えるような程度

い 具体的状況

程度・頻度が激しく,夫婦関係が修復しにくいという程度
※東京高裁昭和58年8月4日;認容

別項目;3大離婚原因;暴力;基本,例外=踏んだり蹴ったり判決

5 『無計画な借金』だけでは離婚原因として弱い

夫婦間で,浪費借金を原因として仲が悪くケースがあります。

<無計画な借金×離婚原因>

あ 離婚が認められる基準|概要

『家計に大きな支障が生じている』場合
→『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当する

い 具体例

ダメージを受けながらも家計が成り立っている,という場合
→離婚原因として認められない傾向がある
※民法770条1項5号
※東京高裁昭和59年5月30日;認容
※東京地裁平成15年7月4日;認容

一方『夫がサラリーマン,妻が専業主婦』という場合に『家計の資金を渡さない』場合は別です。
悪意の遺棄という離婚原因に該当することもあります(民法770条1項2号)。
最低限の生活もできないという場合には悪意の遺棄に該当するでしょう。

6 破産だけでは離婚原因として弱い

(1)離婚原因

破産自体は離婚原因に該当しません。
「破産」という法制度は「債務から解放され,負担のない新たなスタートを用意する」という趣旨があります。
破産したこと自体は問題ではないです。
むしろ「破産の手続」がきっかけとなって,過去の浪費や借金がばれる,というところが問題です。
例えば,蓄えておいたはずの「子供の将来の学費」を使い果たしたことが発覚した,というような例です。
家族の生計,生活に支障を生じた,という場合は,離婚原因として認められることもあります(上記『7』)。

(2)日常家事債務の連帯責任

特に「夫婦の連帯債務」として,破産した後も夫婦一方の債務が残った,という場合は家族生活への影響が大きいでしょう。
とは言っても,夫婦の連帯債務は適用対象は限定されています。
別項目;日常家事債務

(3)離婚と連帯債務は無関係

また,離婚しても,「過去の連帯債務」は関係ありません。
住宅ローンなどの連帯債務やに日常家事債務のいずれも,離婚しても消滅しません。

(4)離婚の財産分与は詐害行為に該当する

さらに,離婚をして「財産分与」として破産する方の財産を「逃す」ということもよくみられます。
これについては「詐害行為取消権」「破産法上の否認権」によって取り戻される可能性があります。
別項目;詐害行為取消権;要件,類型

7 配偶者が行方不明,という場合は離婚失踪宣告のどちらかを利用できる

3年以上の生死不明は法定離婚原因とされています(民法770条1項3号)。
また,3年未満でも状況によっては『婚姻を継続し難い重大な事由』に該当します(民法770条1項5号)。
これとは別に,7年間の生死不明は普通失踪に該当します。
これらについては,別に説明しています。
別項目;夫婦の一方の行方不明;3年で離婚原因,7年で失踪宣告

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