1 理研vs小保方さんの訴状答弁書は公開されている
2 ノイズ情報抜きに訴状答弁書を見てみよう
3 原告被告の主張を整理してみる【←手っ取り早く見たい方はココ!】
4 まとめ;事実認定はまだ未定,コピペは対象外

1 理研vs小保方さんの訴状答弁書は公開されている

理研(理化学研究所)と小保方さんの対立構造が,話題になっています。
この点,両者からせっかく公式主張が公表されているのに,あまり検討されていないです。

私の目にはもう,訴状答弁書にしか見えないのです。
主張がどのように食い違っているのか,どんな立証方法でその主張の差を埋められるのか・・・

そこに理系の解釈論についての疑問も主張されているようです。
異議あり!と言ったところです。
<→理系は悪意の意味が分かっていない!(STAP論争);BLOGOS
<→理系弁護士による悪意の説明(STAP論争);私の異議!

この続きとして,訴状答弁書を説明しておきます。

訴状答弁書の実物>

あ 訴状by理研
研究論文の疑義に関する調査報告書

い 答弁書by小保方さん
調査報告書に対するコメント

2 ノイズ情報抜きに訴状答弁書を見てみよう

(1)争点をハッキリさせる

争点は2つなんです。
シンプルですね。
通常の訴訟から比べると。
実際は本家も細胞分裂のようにどんどん派生して行くのですが。
詳しくは後で説明します。

(2)適用するかしないか,の土俵となる条項は1つだけ

主張対立の土俵を考えます。
2つの争点ともに1つの条項の適用の有無の判断で決まる,という単純な構造です。

科学研究上の不正行為の防止等に関する規程2条2項ただし書きの適用です。

<不正防止規程の引用>

『ただし、悪意のない間違い及び意見の相違は含まないものとする。』

(3)悪意のない間違いの解釈論

ここで悪意のない間違いが超重要になってきます。
これをハッキリしておかないとゴールポストを置かないサッカーです。
どこに向かうべきか分からないですからね。

悪意のない間違いの解釈=ゴールポスト>

誤った認識を生じさせる目的をもった間違い,は含まない

解釈論は別に説明していますので省略します。
<→理系弁護士による悪意の説明(STAP論争)

あとは両者の主張と立証から,このゴールポストに入ったかどうかを判定しましょう。
つまり誤った認識を生じさせる目的の有無を判定するのです。

(4)主観的要件判定の心得

このような目的の判断は法律実務では常連さんです。
心の中の状態が判断対象です。
サイエンス,テクノロジーは進歩していますが,心の中のスコープ,はありません。
※ポリグラフとか心理学のプラクティスなどはありますが,主観的要件判定が可能な精度には達していません。

主観的要件の判断には客観的事実間接事実からの推認を用います。
刑事ドラマなどで聞く情況証拠です。
こういう状況だったらこう思っていたはずだというものです。
心構えができたらいよいよ対立の内容に入ります。

3 原告被告の主張を整理してみる

詳細なところは,現物の該当箇所を読んでください。
次の要約は,私なりの言葉を使っています。
正確性 <<< 分かりやすさ
という優先順序,不等式を適用しています。

(1)争点1 (1−2)Figure1i;レーン3の挿入について

なお,この番号は理研の調査報告書において付されている番号です。

ア 理研側(p4評価(見解)

(ア)事実認定

  • 複数レーンの画像が約1.6倍の倍率で縦方向に引き伸ばされている
  • この中には重要なサンプルの泳動結果が2つ含まれている
     ↑重要なサンプル=FACS-Sorted Oct4-GFP 陽性細胞群
  • ポジティブコントロールとしての1つのレーンはコントラスト調整がなされている
  • このレーンの貼り付け操作において,T細胞受容体遺伝子再構成バンドを目視で配置している


(イ)評価
2枚の異なるゲルが1枚のゲルで流されたという錯覚を生じる
それぞれの操作がSTAP細胞生成に成功という方向の解釈に大きく影響するものである

これらの操作の内容(重要性),量は軽微ではない。

誤った解釈を生じさせる可能性を認識していないはずがない。

誤った認識を生じさせる目的があったと言える。

なお,誤った解釈=STAP細胞生成が可能という解釈,です。

イ 小保方さん
  • 画像取り違えはあったが,単純なミスです。
  • 誤った認識を生じさせる目的,意図はないです。
  • そのような目的はなかった,としか言いようがないです。
  • あ,1つ補足します。
    実際にデータ自体に間違いはないじゃないですか。
    このことからも誤った認識を生じさせる目的はないと言えるでしょ。

(2)争点2 (1−5)Figure 2d 下段中央の1枚,Figure 2e 下段の3枚の取り違え

ア 理研側(p7評価(見解)

(ア)事実認定
<情報整理>

  • あ 論文1(本件;STAP細胞)
    テーマ=STAP細胞
    生後1週齢のマウス脾臓由来細胞を酸処理することにより得られたSTAP細胞を用いるもの
  • い 学位論文(別件)
    テーマ=sphere細胞
    球状細胞塊形成細胞のことです。
    酸処理ではなく機械的ストレスによって惹起されるものです。
    機械的ストレス=生後3ないし4週齢の骨髄由来細胞を細いピペットを通過させることです。
    (※惹起というのは刑法学と細胞学くらいでしか聞いたことがないです。)


この別の実験の画像を取り違えて論文に掲載した

(イ)評価
論文1の中核的メッセージ=STAP細胞が生成できた
正確には酸処理という極めて汎用性の高い(細胞初期化の)方法を開発したという主張

このような論文の中で生じた画像取り違えの対象は細胞の多様性を証明する極めて重要なデータである。
つまり,信頼性の根本に直結するデータである。

誤った解釈を生じさせる可能性を認識していないはずがない。

誤った認識を生じさせる目的があったと言える。

イ 小保方さん
  • 掲載時は正しい画像だという認識でした。
  • 誤った認識を生じさせる目的,意図はないです。
  • 付け加えると,本来掲載すべきだった真正な画像データ自体は存在していたんです。
    現に中間報告書でも理研が認めているじゃないですか。
    真正な画像があるのに捏造する必要があるんですか?
  • 4 まとめ;事実認定はまだ未定,コピペは対象外

    (1)事実認定自体確定していない

    以上は主張を整理したものです。
    訴訟では争点整理と言います。

    あくまで主張です。
    事実認定自体,確定している=当事者両方が納得している,というわけではありません。
    訴訟では,先入観排除です。

    当然ですが,この主張の対立を判断するためには,多くの資料,情報が必要です。
    民事訴訟法では証拠方法と言います。
    書面(書証)であったり,人間の供述(人証)であったりします。
    これはこれからのプロセスです。

    (2)コピペの是非,善悪,と研究不正該当性は別問題

    ネットの世界ではコピペ自体の是非の議論も散見されます。
    しかし研究不正の対象ではないと判断されています(報告書p7評価以降)。

    もちろん,研究不正の該当性とは別に,価値観としてどうか,というのはまったく別問題です。
    引用は適式に行わないと盗用となり,けしからん,ということは調査報告書でも言及されています。

    いずれにしても,ネット,マスコミの情報は錯綜気味だと感じました。
    この論文による争点整理に立ち返っていただければと思う所存です。

    関連するテーマも紹介しておきます。
    こちらはコラムではなく,純粋な法理解釈の説明です。
    <→別項目;懲戒解雇の有効性;基本,研究不正の場合