1 交通事故が労働中などに生じたら,労災保険を使うこともできる
2 健康保険と労災保険のどちらか一方しか使えない
3 労災保険利用は自由に選択できる
4 交通事故で労災保険を使うメリット
5 労災保険の特別給付金が追加で支給される
6 特別給付金は損益相殺されないので有利
7 労災保険は『費目間流用の禁止』という有利な扱いがある
8 交通事故で労災保険を利用する時の手続

1 交通事故が労働中などに生じたら,労災保険を使うこともできる

仕事中や通勤,帰宅中に交通事故に遭い,負傷した場合,労災保険が適用されます。
『業務災害』または『通勤災害』に該当します。
※労災保険法7条
労災保険法上,第三者の行為による損害も想定されています。
※労災保険法12条の4
交通事故だからといって適用対象外,ということはありません。

なお,公務員の場合,労災保険ではなく,国家(地方)公務員災害補償法による補償を受けることになります。
※国家公務員災害補償法1条,1条の2,地方公務員災害補償法1条,2条など
公務員の場合の補償内容は,民間企業の場合の労災と同様です。

2 健康保険と労災保険のどちらか一方しか使えない

健康保険労災保険の2つの関係を説明します。

仕事中(業務上)や通勤途中での事故については,労災保険が使えます。
労災保険の適用対象となっている場合は,健康保険が使えません。
※健康保険法55条1項
結局,健康保険と労災保険の両方を使うということはできないのです。

3 労災保険利用は自由に選択できる

労災保険の対象となる交通事故について,労災保険の給付を受けるのは,あくまでも請求があった場合です。
※労災保険法12条の8第2項
つまり,請求するか否か=給付を受けるか受けないか,は自由なのです。
労災保険を使わない→損害の全額を加害者に請求する,という方法も可能です。

ただ,一般的に,労災保険を使ったほうが有利になります。

4 交通事故で労災保険を使うメリット

労災保険を使うと,治療費については,全額が直接医療機関に支給されます。
つまり,全額がカバーされる,ということです。

この点,労災保険を使わない場合,自由診療となり,被害者に過失がある場合,過失割合分は自己負担ということになります。

なお,健康保険の場合,治療費の一部を,被害者が窓口で一旦自己負担(立替)することになります。
これについても,労災保険では,全額が直接医療機関に直接支払われます。
窓口で一旦立て替える自己負担がなし,ということになります。
また,労災保険の特徴的なメリットとして,休業損害に対する休業補償給付金に上乗せがあります。
費目間流用の禁止という制度もメリットとして挙げられます。

<労災保険を使うメリット(項目のみ)>

ア 窓口負担がない
イ 休業補償給付金の支給
ウ 費目間流用の禁止

5 労災保険の特別給付金が追加で支給される

交通事故について労災保険を使うと特別給付金について有利です。
これについて説明します。

休業補償は,休業期間に対応する,平均賃金の60%相当額です。
※労災保険法14条1項
これとは別に,休業特別給付金として,平均賃金の20%,が支給されます。
※労災保険法29条1項,労災保険特別支給金支給規則1~3条

6 特別給付金は損益相殺されないので有利

労災保険の支給を受けた後の加害者への請求について説明します。

労災保険の支給は,休業補償60%休業特別給付金20%の2つです。
合計は,平均賃金の80%となります。

ここで,加害者からは,残額の20%を請求するという発想があります。
つまり,トータル100%,という趣旨です。

こうすると,特別給付金20%の加算は意味がなかったことになります。
この点,『特別』給付というくらいなので,意味がないということは不合理です。
特別給付金は,もともと,社会復帰促進等事業の一環となっている制度です。
※労災保険法29条1項,労災保険特別支給金支給規則1,2条

このような趣旨から,損害の填補の一部として扱うことは制度の趣旨に反することになります。
そこで,結論として,特別給付金は控除対象外とされています。
もらったままで良いということです。

要するに,加害者から40%をもらい,トータルは120%となる,ということです。

この扱いは,特別休業支給金以外の特別給付金についても同様です。
※労災保険特別支給金支給規則2条

<特別支給金の損益相殺からの排除;まとめ>

労災保険を使うメリット(の1つ)
・特別支給金
 特別がネーミングに付いているもの
 例;休業特別支給金
 →対加害者との関係では損害の填補には該当しない(みなさない)
 →加害者からの賠償としての既受領額,とは関係なく支給される

7 労災保険は『費目間流用の禁止』という有利な扱いがある

交通事故について労災保険を利用した際には費目間流用の禁止というルールがあります。
支給を受ける方(被害者)にとって有利なルールです。
これについて説明します。

労災保険の既受領額の控除,の際に,項目別に算定します。
被害者側に過失割合がある場合,一括算定よりも有利になります。
交通事故による損害を大きく分けると次のようになります。

<損害の項目(分類)>

・積極損害(治療費など)
・消極損害(休業損害など)
・慰謝料

そして,労災保険給付金既受領額の控除,については項目別に行うこととされています。
※最高裁昭和58年4月19日
項目別に算定すると,(一括して算定するよりも)有利になることがあります。
被害者に過失があり,過失相殺により損害賠償請求額が減額するケースで,差が生じることがあるのです。
具体例で示します。

<費目間流用禁止が効力を発揮する例>

前提;被害者の過失割合=20%,加害者=80%

あ 積極損害(治療費)

 100万
 ↓×0.8 ;被害者分の過失割合20%を差し引く
 80万円
 ↓-100万円 ;労災保険既受領額を差し引く
 -20万円
 ↓
 プラスマイナスゼロ ;他の項目から差し引くことは禁止=費目間流用の禁止

い 消極損害(休業損害)

 100万
 ↓×0.8 ;被害者分の過失割合20%を差し引く
 80万円
 ↓-50万円 ;労災保険既受領額を差し引く
 30万円

う 慰謝料

 100万
 ↓×0.8 ;被害者分の過失割合20%を差し引く
 80万円
 ↓差引なし ;労災保険支給対象外なので既受領額ゼロ
 80万円

え 合計

 労災保険 100万円+50万円=150万円
 加害者への請求額 ゼロ+30万円+80万円=110万円
 合計 150万円+110万円=260万円

お 合計(※仮に一括計算した場合)

 損害額合計300万円×0.8(被害者の過失割合20%を差し引く)=240万円

8 交通事故で労災保険を利用する時の手続

交通事故による怪我で労災保険を使用する場合は,通常の場合と同様に保険給付請求の手続きを行います。
労災保険組合等が費用を負担し,最終的に労災保険組合等が加害者に求償します。
※労災保険法12条の4
その準備として,利用者(被害者)が,労働基準監督署に第三者行為による災害届(一式)を提出する必要があります。