【運行供用者責任における立証責任の転換(無過失の証明)】
1 運行供用者責任の立証の緩和
2 運行供用者責任と自由保障機能
3 不法行為責任と自由保障機能(比較)
4 もらい事故の無過失の証明の実例
5 もらい事故の無過失の証明の成功事例
1 運行供用者責任の立証の緩和
運行供用者責任には特殊な扱いがあります。
詳しくはこちら|運行供用者責任の基本(運行支配・運行利益・他の制度との関係)
運行供用者責任の特殊性の1つに,立証の緩和があります。
一般的な不法行為の損害賠償の場合,被害者が『故意・過失』を立証する必要があります。
この点,運行供用者責任では被害者の主張・立証が大幅に緩和されています。
<運行供用者責任の立証の緩和>
あ 前提事情
運行供用者に該当した場合
→原則的に責任が生じる
い 無過失の立証
『う』のすべてを立証した場合のみ
→運行供用者責任が否定される
『立証責任の転換』である
う 責任を否定する3つの要件
ア 自己・運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったイ 被害者or運転者以外の第三者に故意or過失があったウ 自動車に構造上の欠陥or機能の障害がなかった ※自賠法3条ただし書
2 運行供用者責任と自由保障機能
立証の緩和は,別の角度からみると,故意・過失がないのに責任を求められる,ということになります。
これは非常に特殊な状態なのです。
<運行供用者責任と自由保障機能>
運行供用者責任について
『故意・過失』がなくても責任が生じることがある
→自由保障機能(後記※1)の例外である
3 不法行為責任と自由保障機能(比較)
前記の『自由保障機能』は,一般的な不法行為責任について備わっているものです。比較のためにまとめておきます。
<不法行為責任と自由保障機能(比較)>
あ 故意・過失の要件
一般の不法行為責任について
故意or過失によって生じた損害が賠償の対象となる
※民法709条
い 自由保障機能(※1)
故意・過失のない行為については責任を負わない
4 もらい事故の無過失の証明の実例
いわゆる『もらい事故』の被害者であっても,逆に運行供用者責任を負うことがあります。
前記の立証責任の転換のため,無過失の立証ができない限り責任が認められてしまうのです。
責任が認められた,認められなかったという2つの裁判例を紹介します。
<もらい事故の無過失の証明の実例>
あ 事案
Aが運転する自動車がセンターラインをオーバーした
対向車線にBが運転する車が走行していた
Aの自動車がBの自動車に衝突した
い 運行供用者責任の主張
Aが受けた損害について
Aは『Bの運行供用者責任』を主張した
う 裁判例の判断
判例 | Bの責任 |
福井地裁平成27年4月13日 | あり |
東京高裁平成8年6月26日 | なし(後記※1) |
5 もらい事故の無過失の証明の成功事例
もらい事故を受けた側であっても運行供用者責任を負うことがあります(前記)。
ただし,無過失の立証に成功すれば責任を否定することができます。
無過失の立証が成功した実例を紹介します。
<もらい事故の無過失の証明の成功事例(※1)>
あ 事案
Aが運転するバイクが転倒した
→対向斜線に飛び出した
→対向車を走行中のBが運転する自動車に衝突した
い 裁判所の事実認定
スリップ痕・証言(供述)などから事故の状況を再現(認定)した
→カーブ地点であり,危険を把握した時点で非常に近距離に近付いていた
う 裁判所の判断(結論)
危険を把握した後にBが衝突を避けることはできなかった
→Bの『無過失の立証』が認められる
→Bの運行供用者責任は生じない
※東京高裁平成8年6月26日