【不法行為の損害賠償債権の相殺禁止(平成29年改正後民法509条)(解釈整理ノート)】

1 不法行為の損害賠償債権の相殺禁止(平成29年改正後民法509条)(解釈整理ノート)

民法509条は、不法行為の損害賠償に関する相殺禁止のルールです。平成29年改正で内容(規律)が変わりました。本記事では、民法509条のルールや解釈を整理しました。

2 民法509条の条文と規定内容

(1)民法509条の条文

民法509条の条文

(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百九条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
※民法509条

(2)民法509条が相殺を禁止する受働債権(規定内容)

民法509条が相殺を禁止する受働債権(規定内容)

悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(悪意による不法行為に基づくものを除く)

3 「悪意」の意味→積極的害意(1号)

「悪意」の意味→積極的害意(1号)

民法509条1号の「悪意」とは「故意」とは異なり、積極的な害意を必要とすると解されている

4 人の生命・身体の侵害による損害賠償債務(2号)

(1)適用範囲→不法行為+債務不履行

適用範囲→不法行為+債務不履行

不法行為のみならず債務不履行に基づく損害賠償請求権についても(これを受働債権とする)相殺を禁止している

(2)安全配慮義務違反→相殺禁止が明確化

安全配慮義務違反→相殺禁止が明確化

安全配慮義務違反による人身損害(生命または身体の侵害に限る)の債務者は、相殺が禁止される
※最判平成14年9月24日判時1803号28頁参照

5 適用範囲(相殺の可否)の具体例

適用範囲(相殺の可否)の具体例

物損の過失事故の加害者(債務者)は相殺が可能となる
悪意による器物損壊の加害者は相殺が禁止される

6 交叉的不法行為ケース→相殺可能ありに変化

交叉的不法行為ケース→相殺可能ありに変化

あ 平成29年改正前

一律に相殺禁止であった
※最判昭和49年6月28日民集28巻666頁

い 平成29年改正後

人の生命・身体の侵害以外(例=物損)の事案では、悪意による不法行為に限り相殺が禁止されるため、交叉的不法行為の事案では相殺が可能となる

7 損害賠償債権の譲受人→相殺禁止適用なし(ただし書)

損害賠償債権の譲受人→相殺禁止適用なし(ただし書)

債権者が、民法509条1号、2号の債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、相殺禁止の適用がない
これは、相殺が被害者でない者(債権譲受人)との間でなされるため、相殺禁止の趣旨に反しないからである

8 使用者責任→適用あり

使用者責任→適用あり

民法715条の使用者責任を負う者にも、民法509条が適用される
※最判昭和32年4月30日民集11巻646頁

9 逆方向の相殺→可能

逆方向の相殺→可能

不法行為から生じた債権を自働債権とする相殺は許される(受働債権が不法行為債権でない場合)
※最判昭和40年11月5日判時431号24頁
※最判昭和42年11月30日民集21巻2477頁

10 改正法適用の基準時→2020年4月1日以降発生の受働債権

改正法適用の基準時→2020年4月1日以降発生の受働債権

改正後の民法509条は、施行日(2020年4月1日)前に債権が生じた場合におけるその債権を受働債権”とする相殺については、適用がない(改正前の規定が適用される)

11 参考情報

参考情報

我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1064〜1066

本記事では、不法行為の損害賠償債権の相殺禁止について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に損害賠償請求や相殺に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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