【刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)】

1 刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)
2 刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権の条文
3 刑事訴追・有罪判決のおそれの意味
4 名誉を害すべき事項の意味
5 証言拒絶権が保護する人的範囲
6 証言拒絶権の法的効果

1 刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)

民事訴訟では,真実の発見のため,一般的に証言義務が課せられています。
そして,特殊な事情がある場合に限り,証言が拒絶できる(証言拒絶権)ことになっています。
本記事では,刑事訴追のおそれや名誉の侵害を理由とする証言拒絶権を説明します。
なお,ほかの種類の証言拒絶権としては,一定の専門家の守秘義務に関わるものがあります。
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権

2 刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権の条文

まず,民事訴訟法196条の条文を引用しておきます。証人自身や,証人と密接な関係がある一定の範囲の者が刑事訴追を受けるおそれがある場合や名誉を害される場合に証言拒絶ができると規定されています。

<刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権の条文>

(証言拒絶権)
第百九十六条 証言が証人又は証人と次に掲げる関係を有する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するときは、証人は、証言を拒むことができる。証言がこれらの者の名誉を害すべき事項に関するときも、同様とする。
一 配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族の関係にあり、又はあったこと。
二 後見人と被後見人の関係にあること。
※民事訴訟法196条

3 刑事訴追・有罪判決のおそれの意味

民事訴訟法196条の証言拒絶権の対象の1つは,刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがあることです(前記)。
これは,刑法やその他の法令による犯罪のことです。各種の懲戒処分(を受けるおそれ)は,これに該当しません。

<刑事訴追・有罪判決のおそれの意味>

あ 犯罪の種類

刑事訴追・有罪判決の対象(となる犯罪)には『ア〜ウ』のすべてを含む
ア 刑法上の犯罪イ 特別刑法上の犯罪ウ 委任命令に基づく犯罪(制令・条例に規定された犯罪) ※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p48

い 懲戒処分の扱い

懲戒処分は,刑罰とは目的が異なり,刑事上の処分ではない
刑事訴追・有罪判決の対象には該当しない
ただし,名誉を害すべき事項(後記※1)に該当する可能性がある
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p48

4 名誉を害すべき事項の意味

民事訴訟法196条の証言拒絶権の対象の1つは,名誉を害すべき事項です(前記)。
一般的な名誉毀損の解釈と同様であり,社会的評価を低下させるという意味です。

<名誉を害すべき事項の意味(※1)

あ 基本的解釈

名誉を害すべき事項とは
人の社会的・人格的評価を低下させ,その結果として社会的地位の保持が困難となる程度に社会的・道徳的非難を招く事項である

い プライバシーとの関係

プライバシーよりもさらに限定された概念である
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p48

5 証言拒絶権が保護する人的範囲

誰について刑事訴追のおそれや名誉を害する場合に証言を拒絶できるのか,については証人本人と証人と一定の関係を持つ者とされています。
この中の配偶者については,法律婚だけが前提となっています。

<証言拒絶権が保護する人的範囲>

あ 条文による明記

民事訴訟法196条1号と2号に人的範囲が規定されている

い 『配偶者』の意味

民事訴訟法196条1号の中の『配偶者』について
婚約者は否定される(通説)
事実婚は否定される(通説)
ただし,反対説(有力説)もある
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p48,49

6 証言拒絶権の法的効果

証言拒絶権の理論的な効果は,文字どおり証言を拒否できるというものです。原則として証言の拒否は違法であるところ,証言拒絶権により適法となるのです。
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における違法な証言拒絶に対する制裁(過料・罰金・拘留)
ところで,証人が自主的に証言拒絶権を行使しない,つまり,自ら証言することも自由です。証言した場合には,通常通りに裁判官が事実認定に用いることになります。

<証言拒絶権の法的効果>

あ 基本的な効果

証言義務を免れる(拒絶できる)

い 権利行使の自由

証言拒絶権を行使するかどうかは証人の自由である

う 権利不行使の際の扱い

証言拒絶権を行使せず尋問に応じた場合
→その証言は証拠能力を有する
証言の評価は裁判官の自由心証に任される
※大判明治34年9月20日
※大判大正2年6月21日

本記事では,刑事訴追のおそれや名誉の侵害を理由とした証言拒絶権について説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いは違ってきます。
実際に証言拒絶権(証言などの訴訟上の立証)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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